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「ほん、と、なんなんですかあれ!」
「人工魔物……」
「は?」
逃げるのはさほど難しくなかった。でも、標的にされたが最後、あの肉塊はのらのらと、私達を追ってきている。アウローラに、先にフィーバス卿の元に戻って事情を伝えてくれといったのだが、一緒に逃げていてはどうにもならない。二手に分れたとして、あの肉塊がどっちをおうか分からないし……
(いや、待って……魔力の多い方を追うんだっけ?)
人口魔物については分からない事だらけで、今あれはこうなんだ! といえない。ただ、このまま逃げてばかりでは、周りの環境が破壊されるばかりだし。
アウローラは逃げながら、ちらりと後ろを見る。さすがのアウローラも、こんな意味の分からない肉塊に追いかけ回されたら怖いか、と同情する。この肉塊、人工魔物を見たのはこれが初めてではないので、私は衝撃じゃなかったけれど、初めて見る人にとっては、本当に信じられないものなのだろう。乙女ゲームだっていうのに、R18グロくらい、最悪な見た目をしているんだから。
「だから、人工魔物。ヘウンデウン教が創り出した、生物兵器」
「は、はあ!?なんで、それをステラ様が知っているんですか!」
と、アウローラは甲高い声を上げる。私は、肉塊を見ながら、あの魔物が、何人もの犠牲の上に作られたものだと、改めて胸が痛くなる。アルベドは、この肉塊を創る方法についても、倒す方法についても知っていた。だから、ヘウンデウン教は許せないと。
そりゃ、こんなもの創って許されるはずがないのだが。
「もしかして、ヘウンデウン教と繋がりがあるんじゃないですか。だから、知っている。もしかして、この魔物を誘導したのは、ステラ様ですか」
「なわけないじゃん。というか、此奴らが、人のいうこと聞くように思えるの?脳みそは言っているかどうかも分からないし」
「魔物は、ある程度調教できるんです。人工魔物だったら尚更!――ッ!?」
そういって、叫んだかと思えば、私とアウローラの間に、シュッと職種のようなものが伸びてきた。そして、それは思いっきり地面にたたきつけられる。いうなれば、タコの足のような。
(何あれ、みたことないんだけど!?)
改良に改良を重ねているのか、肉塊はビキビキと形を変え始めた。前はそんなこと出来なかったはずなのに、何故……
(というか、前の世界に戻っているっていうのに、なんでこんなに肉塊の動きが……)
おかしい話である。星流祭の後だったかに、この魔物討伐にいった。その時も、あまりのグロテスクな身体に驚いたが、動きとしては、そこまで複雑ではなかった。いや、これくらい、前と同じかも知れないが、それでも、動きが、何というか違う。技術が進歩したにしろ、時系列的には前なのだ。だから、何かおかしい。
「アウローラ大丈夫!?」
「大丈夫ですけど。ええ、ほんと、あれ何なんですか」
「だから、人工魔物っていってるじゃん!あれ、倒すのは……」
「倒すのは何なんですか!?」
「だから、戻って、私一人で倒せる」
「あれを!?無理無理。フランツ様呼んできましょうよ」
アウローラは、この場から逃げ出すことが優先だといった。確かに、あれを初見で見たら、逃げ出したくなる気持ちも分かる。でも、それじゃダメだっていうことを、私は知っている。あれを倒すには、核を潰さなければならない。でも、核は内部にあって、一度あの魔物に飲み込まれないといけないのだ。
といっても、前々から思うけど、食べられた時点で、噛み砕かれるとか普通は想像するんだけど、どうやら、あの肉塊には歯がないらしい。だから、丸呑み。まあ、あの中にはいって、正気でいられるわけも無いから、肉塊は、内部で、人間をとかして……みたいな仕組みなのかも知れない。どんな仕組みでもいいけれど、今はそうじゃなくて。
(フィーバス卿を呼びに行くにしろ、この魔物が、結界を破ることが出来るなら、誰かが、食い止めていないといけない。そうっいってるのに、全然聞いてくれないし!)
何だか、昔の私を見ている見たいだった。ピーぎゃー騒いで、足手まといで。何も出来ない鈍くさくて。これじゃあいけないって変わったからこそ、今のアウローラを見ているとむかむかするというか。でも、昔の私はこうだったと……
もし、アウローラが協力してくれるのなら、この魔物が一体だけなのなら、ここで倒す方が早いだろう。フィーバス卿の手を煩わせるわけにはいかないし、何なら、フィーバス卿を呼んできたところで、倒し方はあれしかないのだから。
(フィーバス卿のユニーク魔法なら倒せるかも知れないけれど、リスクが高いし)
核は、心臓という認識で、ユニーク魔法が発動できるかも知れない。でも、ここは辺境伯領外。そんな所で、フィーバス卿がユニーク魔法を使えばどうなるか、馬鹿でも分かる。
「ここで、倒すの」
「ほんと、正気ですか!?馬鹿なんですか!?」
「馬鹿じゃない。あと、ほんっとうに、さっきからいってるけど、倒し方分かるの私だけだから。お父様呼んできたところで、きっと何も出来ない」
「侮辱しました!?」
「お父様の、ユニーク魔法なら倒せるかも知れない……でも、その反動で、お父様が……ここまで言えば、使えないのが分かるでしょ?」
「ま、まあ、そうですけど。でも、ステラ様が一人で!?フランツ様なら倒せるかも知れませんけど、ステラ様一人じゃ!」
「じゃあ、アウローラついてきてくれる?」
「つ、ついてくるって何ですか」
「あの、魔物の倒し方、すっごいシンプルなんだけど、一人じゃ怖くって」
と、私はちょっと演技をてみた。肉塊はこちらに迫ってきており、一刻の猶予もない。けれど、アウローラがあまりにも鬱陶しいのでちょっとその気にさせてみようと思った。彼女の強いのだと豪語するのであれば。
私の挑発に、アウローラは、んな!? と声を上げる。まあ、怖いのも分かるから、無理しなくていい。私はそう思って、彼女を見た。ぷるぷると震えていたが、プライドの方が増さったのか、分かりましたよー! とむきーというように叫んだ。
「いいの?とーっても怖いけど」
「怖くないです!ステラ様の方が怖がってるんじゃないですか。怖いって言いましたもんね!ええ!?」
「うん、じゃあ、決まり」
私は、アウローラの手を引いた。肉塊の方に走っていくので、アウローラは「自殺行為ですかあああ!?」と叫んでいる。まあ、初見だったらそうなるだろう。私は、魔法で、肉塊が口を開いた瞬間、光の鎖で、肉塊の動きと、口のような所を拘束した。もし、一気に飲み込んでくれなきゃ、もしかしたら身体が分断されてしまうかも知れないから。万が一に供えて。
「え、え、あの、やっぱり、これ自殺行為なんじゃ。な、何感が照るんですか。ステラ」
「何って、そーこの魔物を倒す方法」
「あ、あの、やっぱり私帰っても――?」
「ダメ。一緒に来てくれるんでしょ。それに、肉塊……この周辺にまだいるみたいだから、アウローラも倒せるようになって欲しいなって思って」
私はにこりと微笑んだ。その笑顔が聞いたのか、アウローラはひえっと声を漏らす。私って性格悪いのかなあ、なんかアウローラの表情見ていると、虐めたくなるんだよなあ、なんて思いながら、私は肉塊の身体を踏みつけ、開いた大きな口にむかって飛び降りた。勿論、アウローラを拘束して、そのまま暗闇に包まれていく。
暗闇に包まれていく感覚は、何度か経験したけれど、恐ろしいものだ。感情がぐちゃぐちゃになってままならない。自分が自分でなくなるような、そんな感覚。自分さえも信じられない、そんな疑心暗鬼に包まれていく。
パッと光が消えて、完全に闇に飲み込まれると、コポコポと聞き慣れた、水音が、耳に響き、身体がチャポンと水の中に溶け込んだ。