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寒さを感じ目が覚める。
「……死んでは、ない。大丈夫。いや、死んでたら不味いもんね!?」
勢いで、肉塊の中に入っちゃったけど、もしかしたら死ぬ可能性だってあったわけだし、相変わらず、大胆なことをしたと思う。無鉄砲というか、リースが見たらどう思うだろうって。無茶するなって怒るかも知れない。でも、怒ってくれる彼はここにはいない。
私は身体を起こして辺りを見渡す。はあ……と息を吐けばパキパキと何かが凍る音がした。吐いた息が白い気がする。肉塊の中は、温度なんて感じなかったはずなのだが、この肉塊は違うのだろうか。入るたび、中の構造が変わるのは、前々から知っていたけれど、何だか、嫌な胸騒ぎがする。
「――と、アウローラは……」
「ステラ様―もう、何処ですか、ステラ様―!」
と、聞き慣れた叫び声のようなものが聞え、私はこっちだと、声を出す。すると、もの凄い勢いで、アウローラが闇の中から飛び出してきて、私に抱き付いた。私のこと毛嫌いしていると思っていたから、もの凄くびっくりした。倒れそうになりながら、私は踏ん張って、アウローラの方を見る。闇の中でも、お互いの身体は、顔は認識出る。でも、闇の中に居るって、周りを見ても、暗闇ばかりで光すらない。
「アウローラ、大丈夫だった?」
「もう!ここ何処なんですかあ!私達、もしかして死んだんじゃ……じゃあ、ここは、何処?私、徳つんでたはずなんですけど!?」
アウローラは、ぴーぎゃー騒ぎ出した。面倒くさい、陽キャ……私と合わないなあと思いつつも、説明してあげないのも可哀相なので、私は、ポンポンと彼女の肩を叩いた。何だか、ムスッとした顔をこちらに向けられ、私は、誤魔化すように笑う。
まあ、こんな所に来て正気でいられるわけが無い。確かに、死んだんだって思ってしまっても無理がないと思った。実際、渡しだってここに来たとき、死んでしまったんじゃないかって思ったから。
「ここは、あの肉塊の腹の中」
「じゃ、じゃあ、やっぱり死んだんじゃ!?心中、巻き込んだんですか、最低ですね!」
「話最後まで聞いて欲しいんだけど」
「信用出来ません」
「じゃあ、どうやったら信用してくれるの……」
彼女の信用を得る方法なんて分からなかった。プライド高そうなのもそうだし、目に見たものしか信じないみたいな。いや、だったら、この肉塊のこと信じてくれてもいいのに。
(本当に、フィーバス卿は何で、アウローラを私の侍女につけたんだろうか……)
前も思ったけれど、フィーバス卿が騙されるようなタイプじゃないし、アウローラがどれだけ猫を被っていたとしても、ボロが出そうだし。心の中ではぼろくそ言ってしまっているけれど、面と向かっては言えなかった。さて、どうするか。
「信じられないなら別にいい。でも、ここに置いてく」
「は、はああ!?はい!?おかしいでしょ!?」
「おかしくないし。足手まといになりそうだから、切り捨てるの。お父様も、足手まといはいらないんじゃない?私を養子にするときだって、魔法が使えなかったら、ただの世間知らずだったらきっと、引取ってくれなかったから」
まるで、悪役みたいないい方だった。いい方が悪いのは分かっている。フィーバス卿の名前を出してしまったのも、ずるいと自分でちゃんと理解している。でも、そうでもしないと、アウローラは、私の話を聞いてくれないんじゃないかと思った。
彼女は、ギュッと唇を強く噛んで、私の方を見た。反抗的な目に、私は、少し狼狽えてしまう。けれど、ここで引き下がれば、彼女は協力してくれないだろうし、信じてくれないだろう。
「違う?」
「違いません。置いてかないでください」
「私のこと信じられないって言ったのに、置いてかないでって、滅茶苦茶勝手すぎると思うんだけど。私、凄く傷ついた」
「……」
「アウローラは、私の侍女なんでしょ。お父様は、私を認めて、養子にしてくれた。だから、疑わないで欲しい。それに、疑うってことは、お父様の見る目がなかったことと同じ。アウローラは、フィーバス卿のこと、悪く言いたいわけじゃないでしょ?」
そう言えば、さらに彼女は強く拳を握った。ここまでいって、言い返してきたら、たいしたもんだと思う。私だったら絶対に言い返せない。だって怖いから。
「分かりました。信じます」
「本当に?」
「嘘、嘘ついてどうするんですか!ステラ様の、実力も認めます」
「分かった。じゃあついてきて」
「で、出口でも分かるんですか?」
「出口はない」
「じゃ、じゃあ、どうやってここから抜け出すっていうんですか!?」
「だから、いったんじゃん。倒し方を知ってるって。特殊なの。この肉塊」
私はそう説明しながら歩いた。人に何かを説明するのは苦手だった。まあ、面と向かって喋るのが苦手なだけであって、普通に何かにむかって喋るみたいな形にすれば喋ることが出来ないわけでも無い。
アウローラがついてきている気配を背中で感じつつ、私は話を始めた。
「さっきも言ったけど、これは人工魔物。ヘウンデウン教が、多くの人間を犠牲にして作ったキメラみたいな魔物」
「ヘウンデウン教が、そんな技術を?とても、信じられませんが」
「私も、信じられない。でも、あーえっと、その、アルベド・レイ公爵子息様が調べた情報によればそうで。私も、何回か、この人工魔物と戦ったことがあったの」
「記憶喪失だっていいましたよね?」
「アルベド・レイ公爵子息様に拾われてから!」
辻褄が合わなくなりかけて、私は慌てて誤魔化した。確かに、今のいい方では、記憶喪失といいながら、なんで知っているんだみたいになってしまう。発言には、本当に気をつけなければと思った。
でも、アウローラは、信じてくれていないわけではないようで「ふーん、そうなんですか」といった感じにすませてくれた。
「アルベド・レイ公爵子息様と仲良いんですか?」
「え、まあ……ああ、うん」
「フランツ様が、いってました。もしかしたら、アルベド・レイ公爵子息様がステラ様に惚れているじゃないかって。誑かしているって」
「ま、まさか」
いや、好きだっていってくれているけれど、別にそこまでは考えていないと思う。だって、アルベドは、私がリースが好きなことを知っているから。それに、フィーバス卿は毎回その手の話題に引っかかりすぎだと。
アウローラから、疑惑の目が突き刺さる。
「本当だって。アルベドとは何にもない……ただ、相棒みたいな感じ」
「相棒ですか?」
「そう……アルベドって、命を狙われてるじゃん。その、守り、守り合うみたいな」
「……」
「まあ!兎も角、情報は、アルベドと共有してて。だから、知ってるの」
「アルベド・レイ公爵子息様が、ヘウンデウン教と繋がっているという噂もありますが?」
と、アウローラは目を鋭くさせた。さすがに、それは突っ込んでくるだろうと思っていたから、私は息を吐いた。やっぱり、白いし寒い。肉塊がいた場所が、フィーバス辺境伯領近くだからだろうか。そんなこと関係あるのだろうか。解明できない部分が多すぎて、それも恐ろしい。
「繋がってない。繋がってるのは、弟の方」
「ラヴァイン・レイ公爵子息様」
「でも、別に、どっちも悪いわけじゃない。ああ、ラヴィ……ラヴァインのやってることは悪いけど、でも、根は悪い奴じゃないの」
「どうして言い切れるんですか」
アウローラは立ち止まった。やっぱり、ヘウンデウン教、闇魔法の貴族にたいして、アウローラたちは良い感情を抱いていないと。そりゃそうだ。多くの闇魔法の貴族がこれまでに悪事を働いてきたから。でも、そうじゃない人がいるって私は知っている。
私は、どう返そうか迷ったが、答えはパッと出た。アウローラには、分からないかも知れないし、それは、前の世界のことだけど。
「だって、あの二人に助けてもらったから。それだけ」