テラーノベル
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◆
朝。
東棟には、まだ静かな時間が流れていた。
窓から差し込む柔らかな朝日が廊下を照らし、小鳥のさえずりだけが静かに響く。
テルは手帳を片手に、今日の予定を一つずつ確認していた。
「朝食は昨日の余り物……。」
一つ頷き、次の予定へ目を移す。
「洗濯物を取り込んで……部屋の掃除……。」
「……。」
少し考えてから、小さく息をつく。
「とりあえず、ゴミ出しからやろう……。」
そう歩き出した、その時だった。
「テルさーーん!!」
廊下の向こうから、切羽詰まった声が響く。
ボリュームのある金髪を揺らし、羽耳が揺れている。焦ったような表情をしたニアがやってきた。
「はーい、ニアさん。何か……」
「食堂が燃えてるよぉ!!」
「…………え?」
数秒。
テルの思考が完全に止まる。
「……え!?」
◇
「な、なんで燃えてんのよ!?」
食堂の前ではリーナが思わず叫んでいた。
立ち込める煙に思わず咳き込む。
「ごほっ……こほっ……!」
隣には銀色の髪を持つ少女。鈴凛は腕を組んだまま、燃え上がる食堂をじっと見つめる。
「我に言われても分からないアル。」
「なんであんたはそんなに冷静なのよ!?」
「慌てても火は消えないアル。」
茶髪のボブカットが揺れ、猫耳がピンと立った。 ラテが涙目でしっぽを抱える。
「しっぽが燃えるにゃぁぁ!!」
「ちょっ……燃えてるって、どういう……。」
ようやく駆けつけたテルは、その光景を見て言葉を失った。まさに絶句。
「………。」
食堂の窓から炎が吹き出し、黒い煙が空へ立ち上っている。
どう見ても”ちょっとしたボヤ”では済まない。
「火事ってレベルじゃないわよ!!」
リーナが頭を抱える。
「えっ、見て!」
ニアが何かを指差した。
「あの子!」
炎の中を、小さな赤い影が駆け回っている。
「この特徴……サラマンダーだよ!」
「確か、この模様は……ブレイズサラマンダー!」
「そいつが悪さしてるというわけアルか。」
鈴凛は静かに頷く。
「こいつ、どこから来たにゃ?」
ラテは恐る恐る一歩後ろへ下がった。
「そんなの今はどうでもいいわよ!」
「危ないから離れなさいってば!」
「というか。」
鈴凛は西棟の方向へ視線を向ける。
「このままじゃ、西棟まで燃え移るアルよ。」
「にゃっ!?」
ラテの耳がぴんと立つ。
「それはまずいにゃ……!」
テルは頭を抱えてその場をぐるぐる歩き始める。
「ヤバいヤバいヤバいどうしようこれ。」
そんなテルをリーナが戒める。
もな
113
花桜月華
244
「あんたは正気に戻りなさいって!」
「ご、ごめんなさい!」
その時だった。
「みんなどうしたんだい?」
キリッとした声が響く。青髪のショートカットに十字架のブレスレットが炎に照らされ輝いている。
「なんだか焦げくさ……。」
食堂を見たフローは動きを止めた。
「…………。」
「も、燃えてる……。」
「フローちゃん!!」
ニアの目が輝く。
「そうだ!」
「フローちゃんの水で、あれ何とかできない!?」
「それは名案にゃ!」
ラテも勢いよく頷く。
「水に濡れるのは嫌にゃけど……」
「え、えっと、ちょっと事情はよく分からないけれど……。」
フローは少し戸惑いながらも静かに頷く。
「分かったよ。 ボクに任せて。」
「やっとまともなやつが来たアル。」
鈴凛が小さく呟く。
フローは静かに一歩前へ出る。
空気中の水分が集まり、一振りの透き通った水の剣を形作る。
「……はぁっ!!」
一閃。
青い軌跡が炎を切り裂く。
暴れていたブレイズサラマンダーは、水に包まれ、そのまま姿を消した。
燃え盛っていた炎も、少しずつ勢いを失っていく。
「……もう大丈夫だよ。」
「さ、さすが……。」
テルはその場へへたり込んだ。
「マジで助かりました……。」
「よくやったアル。」
鈴凛は静かに拍手する。
「危うく丸焦げになるところだったアル。」
リーナはため息をつきながら辺りを見回す。
「……で。」
「火の原因はこいつなのね?」
ニアは真剣な顔で頷いた。
「うん。」
「間違いないよ。」
「まぁ……。」
リーナは肩を落とす。
「原因が分かっただけマシなのかしら…?」
フローが優しく声を掛ける。
「みんな怪我はないかい?」
「しっぽが焦げかけたにゃ……。」
ラテがしょんぼりとうつむく。
「もう…。」
リーナは苦笑する。
「興味本位で近付くからそうなるのよ。」
「氷、持ってくるわ。」
テルは焼け焦げた食堂を見つめ、大きくため息をついた。
「……はぁ。」
「朝からどうしてこんなことに……。」
「本当にそうだよ!」
ニアも頷く。
「お騒がせなサラマンダー…!」
「……見ろ。」
鈴凛が所々黒くなった食堂を指差す。
「半分焦げてるアル。」
フローも苦笑した。
「教会の保護があるとはいえ、酷い有様だね……。」
「はぁ……。」
リーナは額を押さえる。
「これ、どうするのよ……。」
「改装してもらわないとダメそうですね…。」
テルが静かに答える。
リーナは空を仰いだ。
「……あぁもう!」
「ほんっとうに面倒くさいわね…!」
「……ってことは。」
ラテがゆっくり口を開く。
「しばらく食堂使えないにゃ……?」
「当たり前アル。」
鈴凛が即答する。
「……と、とりあえず。」
テルは手帳を取り出す。
「村長へ連絡しましょうか……。」
「……ってことは。」
リーナの表情がさらに曇る。
「西棟にも報告しなきゃダメじゃないのよ……。」
「ふぅー……。」
テルは遠い目をした。
「ちょっとヤバいか……。」
その時。
廊下の奥から、小さな声が聞こえた。
「……みんな。」
赤髪の長い髪に、中性的な顔付き。声の正体はルカだった。
「こっち来て。」
「わっ!?」
ニアが肩を跳ねさせる。
「びっくりしたぁ……ルカくん?」
フローが首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「散歩をしていたんじゃ……。」
テルはゆっくりとルカの方を見る。
「…………。」
そして、ぽつりと呟いた。
「ヤバい。」
「…嫌な予感しかしない。」
コメント
2件
作者コメント┊︎ 東棟は不憫。
うわっ、朝っぱらから食堂全焼とかテルたち災難すぎる!!(笑)でも各キャラの反応が個性爆発しててめっちゃ好き。鈴凛の冷静さ、ラテのしっぽ焦げた悲鳴、フローの水の剣かっこよかったし、最後のルカの登場で一気に不穏な空気になるところ、やばい。続きが気になる🔥