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彼は思った。
――――リバ? って何だろう? もしかしてゴールデンとか、ラブラドールとかのレトリーバーの、事かな? 水中で呼吸を止められる唯一の犬種がレトリーバ種だけだったっけかな? んでも何故今そんな話を? イヌ属性の珍しい感じなのかな? ミステリアスだな、コユキさんってば!
「えっと…… ごめん、僕その『リバ』って分からなくて――――」
「ま、素人さんはそんなもんよ、しょうがないんじゃない? アンタも勉強は出来そうだけど、何でも教科書に載ってる訳じゃないからさ! 付け焼刃の知識じゃそんなもんよ、んでも人生にとって本当に大切な大きな意味のある事ってさ、往々にしてアンタみたいなエリートが知り得ない情報にこそ存在することが多い傾向にあるのよねぇ…… ま、少しづつ覚えるしかないんじゃない? 今後に期待! って所ね!」
「う、うん、なんか、ゴメン……」
「ゴメンじゃないわよ、アンタが知らない事をアタシや他の皆は当たり前に知っていたってだけなんだから、こっちこそゴメンナサイだわ! んでも頑張ってればいつかアンタにも分かるわよ、キット、だって『上級国民』なんだから、『下級賎民(
せんみん)』のアタシ達なんかに教えてもらったりしないで自分の力で頑張れば大丈夫よ、キット(二回目)」
「…………」
嫌だと思ったからだろう、知らない事を告白した人間に対して、その意味を教えるのではなく知らなかったその事実だけに論点をすり替えて追い詰める、コユキ得意のハメ技に持ち込んだのであった。
やや処ではなく落ち込んだ気配のエリート医師、若(も)しかして人生初の挫折だったのだろうか?
そうならば、そうだったのならば、充分に味わって貰おうじゃないか、君以外の皆が普通に感じてきた無力感を!
コユキもそう思ったのであろう、きっと、だから言ったのである。
「ね、ねぇ、そんな事よりアンタん家の別荘ってさ、やっぱり大きいんでしょ? でしょ?」
「んあ! あ、グフンぐふん、ま、まあそうですね! 大きいですよ! それが何か? コユキさん?」
畳み掛けるコユキ。
「んじゃあさ、家の家族って九人なんだけど、いや、後九人、都合十八人でも泊めてもらえる位? 大きいのん?」
「ふふ、十八人が二十人でも全く問題ありませんよ、何しろゲストルームは離れも合わせれば二十四室 (ダブル)なんですからね!」
やや、自信を取り戻したようである、そうこなくっちゃ!
んじゃ、叩き潰すとしましょうか。
「いや、二十四とか言わなくて良いじゃん、十八人泊まれるかって聞かれたら、うん、か、だめだのどっちかで答えれば良いのよ、余計な事言うからダサいのよ~、持ちすぎてる奴ってさっ!」
「え、あ、そうなんだ、ごめん」
「だから安易にゴメンて言っちゃダメだって言ってんじゃない! アンタ本当にセンスないわね~、んでもまあ、んなこたぁ良いわ、んじゃコロナ禍が一段落したらお借りしようかな、アンタんちのベッソ」
落ち込んでいた彼が急に表情を明るくして答えたのであった。
「は、はいっ! その時は是非御招待させて頂きます! 僕自身も同泊して御案内させて頂きますので!」
「えっ! ……いや、アンタは来なくて良いわ、ってか来ないでね、家族とか親しい人以外が混ざるとリラックスできないし、ね」
トドメであった。
若々しく可愛らしかった青年医はどこに行ったのか、この場には只一人、カサカサした抜け殻の様なトッちゃん坊や(実はコユキや善悪と同い年)が、美しい日本庭園の只中に佇んでいるだけであった。