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いつもの布団の上で目を覚める。僕自身、元々朝は苦手だったが姉さんが死んでから朝起きるのが早くなった。目覚まし時計なんか鳴らさなくとも決まった時間に起きることなんて可能なまでに…。
やけにしつこい目覚まし時計のせいで起きる予定だった時間よりも早く目覚めてしまった。
「……ユキナリくん結局起きてないし」
少し離れた布団に置かれたうるさく鳴り響く目覚まし時計へ手を伸ばして静かにボタンを押す。
目覚まし時計自体設置したのは、彼だ。
彼は朝が苦手なようで毎度、目覚まし時計を鳴らすのにもかかわらずその時計で目を覚ますことは週に1回ぐらいしかないだろう。
…今日はいつもより1時間半早い時間に設定してるな。
僕が目覚めた時間は、午前6時だ。
昨日、ユキナリくんは6時に起きる予定があるなんて一言もいっていないし、むしろ出かけるなんてことも聞いていない。
なんだか少し嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
僕は人よりも勘が優れる方だと言われるし、この嫌悪感は異常だ。
自分自身を信じようと決めた。
目覚まし時計が再びなることが無いように時計をいじり、彼の上ではだけた毛布を直すように、優しく被せてやる。
「…ユキナリくん。どうしちゃったの本当に」
ユキナリくんの行動が異常に感じたのは今日が初めてじゃない。嫌な予感が会った時にはかならず、ユキナリくんが悲しい思いをするときだった。
ちょっと前の僕だったならそんなこと気にもしなかっただろうし、なんなら、ユキナリくんなんて地獄に落ちてしまえばいいなんて思ってた。
姉さんを殺してしまった日。
僕は図星を彼につかれて動揺した。
だってあの時の僕は何も考えていなかったのだから。
復讐が終わったと思ったその時、彼から告げられたあの言葉は今でも忘れられない。
自分でも止めれなかった。悔しくて、分かってるのにコイツに言われなくともわかってるのに、でも信じたくない……そんなことが頭の中でぐるぐると思考を巡らせて気がつけば、僕は引き金をひいていた。
パンっと鈍い音がなった時にはもう姉さんは倒れていた。
今思い出しても吐き気がする。
きっと彼も同じことを思ってるんだろう。自分のせいで彼女が死んでしまったと、今でも思ってるだろう。
撃ってしまったのは僕なのに。
感情的になって止められなくなったのは僕なのに。
君の言葉をそのまま真正面で受け取るのを拒否したのは僕なのに。
僕のせいで彼が苦しんでいるのはわかった。
ユキナリくんが何度も姉さんの名前を呼びながら過呼吸をおこすのだから。
もちろん姉さんだけじゃなくて彼の過去にでてくる友達の名前もそうだろうけど…。
ユキナリくんをこんなふうにさせてしまったのは僕の責任でもあるんだ。それが痛いほど僕の胸を締め付ける。
だからこそ僕は今、彼のために最善を尽くそうと思っているけど、…この思考自体、罪悪感から来ているのか、それとも僕の行いを受け止めて認めてくれた彼の優しさに惹かれてしまったからであるのかはわからない。
「…はぁ」
こんなことを考えたのがもう何回目か分からないほど、同じことをずっと繰り返してる。
「僕まで精神が狂いそうだよ…。ユキナリくん…お願いだから元に戻ってよ」
そう呟いた僕の震えた声が彼の耳に届くことはないだろう。
気持ちよさそうに寝ているユキナリくんを後にして僕は立ち上がり部屋から出る。
部屋を出た先ではコウくんがダイニングテーブルにコーヒーをおきパソコンを開きながら椅子に座ってるのが見えた。
多分この3人の中じゃ1番朝が早いであろう。この男は。
「なんだ、リンタロウか。」
「コウくん、おはよう♪ 」
「……またユキナリの目覚ましか?」
「せいかーい♪…今日は6時に設定されてた」
「いつもより早いな。…なにか用事があるなんて言ってたか?」
「僕は特に聞いてないけどコウくんも聞いていないんだったらユキナリくん自身が報告してないんじゃないかな」
「はぁ……アイツは全く…。まぁ今起きていないんだったら大丈夫だろう。…リンタロウ、アイツが目を冷める前に少し話をしたい」
「うん、僕もそう思ってた」
コウくんがパソコンをしまう時は基本的に合図でもある。
真剣な話をしたいっていう。
「それで、…ユキナリの調子はどうだと思う?」
「いまいち効果を感じれないよね。段々と僕らに慣れてきている感じはあるけどさ」
「やはりお前の作戦じゃダメだったか…。チッ、信じた俺が馬鹿だったな」
「はぁ?まだ1週間しかたってないんだし、わかんないじゃん!」
「うるさい、静かにしろ。ユキナリが起きる」
「ぐっ…」
コウくんと立てた作戦を決行したのは1週間前だ。
そもそも立てたというより僕が0から100まで提案したのもだけれど。
その作戦というのも名付けて「ユキナリくん甘やかし大作戦」だ。
バカだと思うでしょ?僕もそう思う。
けど思いつく策がこれしかなかったんだ。
あの頭の切れるコウくんでさえ作戦が思いつかなかったのに僕にまともな作戦がねれると期待なんてしない方がいい。
でもこんな作戦をたてたのにも訳だってある。
もしかしたら僕たちがユキナリくんに優しくするだけでユキナリくんの心が少しでも癒されるんじゃないかなって思ったんだ。
僕がそうだったから。
母さんと父さんを殺された日からずっと姉さんは前以上に僕に優しくしてくれた。
嬉しかった。姉さんが僕のそばにずっと居てくれるそれだけで、少し救われていたから。
もしかしたら彼も僕と同じ風に思ってくれないかななんて思ってしまったんだ。
「おい、リンタロウ。聞いてるのか」
「えっ?!あ…ごめん、考え事してた」
「チッ…もう一度言ってやる」
ネガティブなことをずっと考えていると他の音が耳に入ってこなくなるから困る。
そのせいでコウくんは少し顔を顰めてるし、今日はあんまり機嫌はよくないみたい。
まぁコウくんのことは、僕にとってはどうとでもいいけどさ。
「…ユキナリのスマホをハッキングしようと思う」
「はっ…?!え、コウくんそれ本当にいってるの?」
いつもの表情と何一つ変わらず僕を見つめながらそう言ってくるコウくんに、驚きが隠せずつい情けない声が出てしまった。
ハッキング…コウくんの得意分野なのはわかっているけど、それってよくないことじゃ…?
いやあんな復讐劇を用意した僕が言う話ではないけれど
「当たり前だ。俺ができないことをわざわざ口にするわけがない。…最近のアイツの様子は明らかに変だ」
「…っ」
わかってた。認めたくはなかった。信じたくなくて考えることすらやめていたけどコウくんがそういうのであればもう逃れることはできない。
僕の考えた作戦を決行してから3日たったぐらいだと思う。
ユキナリくんの外出が増えた。
彼は完全なインドア派で、あんまり自分から外に出ることはないっていうのは狼ゲームをする前から僕は下調べ済みだった。
もちろん狼ゲームが終わって今3人暮らしをしたところで、それが変わった様子も見ることはなかった…はずだったんだけど、最近のユキナリくんの外出は異様に増えていた。
1日に2.3回も外出することなんてことある?
もちろん本人にさりげなく聞いたこともあった。
けれどユキナリくんは
「あ、ごめん。友達と会う約束してるんだ。だからいってくるね」
その一言しか言わない。
3回ぐらい聞いたことあるけどその3回も全て同じ回答だった。
「わかってるだろ。リンタロウ。ただ勘違いはするな。あれはお前の作戦を決行したせいではない」
「…そんな、はずないだろ。だってどう考えても僕たちが作戦を決行してからあれが始まったじゃん!僕が間違ったことをしちゃったとしか思えない!」
「落ち着け!大声を出すな」
僕が考えていた可能性をこうも軽く否定してくるコイツに心底腹が立ってしまって、つい声を荒げてしまった。
コウくんには僕の表に出さない感情を、全てを見透かされているみたいでイライラする。
だってユキナリくんの外出が増えて様子がおかしく感じ始めたのは作戦を決行してからのことじゃないか。
そんな状況下で僕のせいじゃないなんて…おかしな話だろ。
「はぁ…静かに聞け。お前の考えた作戦のせいではないといえる。ただその詳しい理由は分からない。
だからこそ、それが何なのかを突き止めるために俺はハッキングしようかといってるんだ」
「…っ、わかったよ。それはコウくんのすきにして。ただ情報がわかったら必ず僕につたえてよね」
「お前はなんで、そう偉そうにできるんだ…」
腹が立つ。何も出来ない僕に。
結局自分ができることは、彼を苦しめ続けることだけだと実感させられたようで、左胸が酷く締め付けられる。
「……やるなら、できるだけすぐにやってよ」
「チッ…言われなくともそうするつもりだ。時間もかからん。ユキナリが目覚めるまでには終わるだろう。…ユキナリのスマホを持ってこい」
「人遣いが荒いんだよコウくんは!」
頼まれた通り、自分たちの部屋の扉を静かに開ける。
ユキナリくんのスマホを置いてある位置ももちろん知っているのでこっそりとスマホを回収した。
ハッキング…したところでユキナリくんの考えがわかるようには到底思えないけど、物は試し…なのかな。
まだ目覚めそうにない布団の中でぐっすりと眠っている彼のそばにゆっくりと座る。
「…今日は一体何をするつもりなの。…お願いだからユキナリくんだけは…キミだけは消えないで…」
掠れた声で出た言葉は、きっと眠っている彼には届いてないだろう。
怖い。
嫌な予感がヒシヒシと僕の胸を締め付けてきてて
この先を知りたいようで知りたくなくて
「おやすみ…ユキナリくん」
早く戻らなきゃコウくんが口うるさいだろう。
回収したスマホをポケットの中にしまって扉を開ける。
「コウくん。ほら、君の言ってたユキナリくんのスマホだよ。これでいいんだろ?」
「…ふん遅かったが、まぁいいだろう。貸せ。」
「感謝のひとつも言えないの!」
「ハッキングして手に入れた情報を渡すだけで十分な返しだろう。むしろお前にはまだまだ働いてもらうぞ。割に合わんからな」
「コノヤロウ…」
コウくんは僕がスマホを回収しにいっている間に、ハッキングの下準備は終わらせていたようで、コイツの行動の速さには僕でさえ感心する。
ユキナリくんのスマホのパスワードは昨日調べていたようで、いとも簡単にスマホを開くと今度はパソコンのキーボードを素早く叩き始めた。
僕はただそれを見つめているだけだった。