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指先に集中し、中を探る。人によって少しずつ膨らみや大きさが異なる。凪は、いつものように反応のいい場所を一気に攻め立てた。
左右に開いた足の向こう側で、甲高い声を上げていた女が背中を仰け反らせて絶頂を迎えた。
既に何度目かわからないほど果て、女はハアハアと息を乱して小刻みに震えた。
「も、快くん凄い……」
「まだイキたい?」
「今日はもういいかな……ギュッてしてほしい」
「いいよ。おいで」
ふわっと柔らかな笑みを浮べて凪が寝転ぶと、右腕を差し出して女の頭の下に敷く。胸の辺りまで寄せられた顔、肌に触れる吐息、長い髪。いつもと同じように流れる時間。
「今日、挿れなかったね」
女はモノ欲しげにそう言って凪の胸に手を置いた。凪は、面倒臭いと思ったことを悟られないよう一旦言葉を飲み込んでから「たまにはいいでしょ。いつも、俺の方が気持ちよくなっちゃうからさ。今日はえみりにいっぱい奉仕したかったの」甘えるようにして顔を寄せた。
えみりは現役キャバ嬢だ。それなりに金を使い、No.1ということもあってもちろん容姿は申し分ない。
エステに通い磨かれた肌も美しく、豊胸手術で形作られた胸はツンと上を向いている。
同業者ということもあり、凪の仕事に理解を示してくれる。そんなところが楽でオキニの1人だった。
いつもならえみりと会うのは癒しの時間。醜い体型をした自分の母親と同じくらいの年齢の女の相手を無心でするよりよっぽどテンションが上がる。
本来は禁止とされている本番行為。所詮は男も女も大差なく、性欲処理目的で女風を利用していれば本番を要求する客も多い。
えみりもその内の1人だった。凪はもちろん喜んでえみりを抱いた。自分だってたまには気持ちよくなりたいのだ。可愛くてスタイルの良い女を抱きたいのは男の性。
求められたら悪い気はしなかった。
しかし、今日ばかりはとてもそんな気分にはなれなかった。昨日散々ちひろに抱かれたせいで、体中が痛くて怠くてたまらないのだ。
自分の意志とは関係なく、何度も射精を繰り返しもう出ないんじゃないかというほど搾り出された。
そんな濃厚なプレイを経験した後じゃ、余計に暫くいいや……と凪も乗り気ではなかった。
「ねぇ、凪。明後日また昼間会いたい」
「いいよ。あ、お泊まり空いてるよ? 一緒にいる?」
「その日、アフターあるから多分間に合わない」
「そっか。仕事終わった後も頑張って偉いね」
凪は優しくえみりの髪を撫でながら言った。まったりした時間は仕事だということを忘れそうなほど居心地がいい。
やっぱり女はいいよなぁ……昨日は、マジで最悪だった。
凪は目が覚めた瞬間、じっと自分を見つめたまま瞬きをしない男の顔にギョッとした。いつまでもメイクをしたままのちひろの顔はやはり美しかったが、同時にコイツは寝てないのかと疑問が湧いた。
凪は全体力を奪われ、意識を手放すようにして眠りに落ちた。起こされることなくぐっすり眠り、一体何時間眠っただろうかと体を起こす。
しかし、途端に訪れる激痛と巨大な石でも積み上げられているのかと思えるほど重たい体。
「いって……」
「あんまり無理しちゃダメだよ」
「誰のせいで……」
「凪が気持ちよさそうに俺を誘うから」
「てめっ……」
「あと40分で時間になっちゃうよ。よく寝てたね」
「あー……マジか」
しっかり寝てんじゃん、俺。こんな怪しい男の隣でよく爆睡できたもんだ。そんなふうに自分に感心しながらホテルを出る準備をした。
「最後にもう1回抱きたかったのに残念」
「っ! 散々抱いただろうが! 次はないって言っただろ!」
不満そうなちひろに大声を上げ、凪は不機嫌そうに顔を背けた。
「まあ、可愛い寝顔見れたからいいや。また会えるし」
ようやくこれで解放されると喜ぶ凪に対し、次の約束でも取り付けたような素振りのちひろ。凪はもう否定することすら面倒くさくなって、聞こえない振りをした。
それから解散するまでちひろはずっと嬉しそうに笑顔を振りまいていたが、凪はずっと眉間に皺を寄せたまま気怠そうにしていた。
手を振るちひろの姿が見えなくなった途端、凪は速やかにちひろのDMを削除し、アカウントをブロックした。
「変態野郎……二度と近寄んな」
唸るようにして低い声で呟いた凪は、本日最初の客がえみりだったことに心底救われたのだった。
翌日からはさすがにいつもと違う自分を演じ続けるわけにもいかず、凪は業務的に仕事をこなした。
えみりと次に会った時もこの時ばかりは本番をせざるを得なかった。
まだ関節は痛むし、後口の違和感も残ったまま。それでも硬くなった竿を出し入れし、快感を求める。
女体は好きだ。金にしか見えなくても興奮するし、性欲もある。挿入中は自分が思うがままに快感を得られるから楽だし気持ちいいし最高。
「っ……」
そう思っていたはずなのに、いつまで経ってもやってこない絶頂。快感はある。素直に気持ちいいと感じる。なのに、なぜか達することができない。
えみりは長い間凪の下で喘ぎ、絶頂を迎えた。凪はそのタイミングで引き抜くと、顔を隠すようにしてえみりの上に覆い被さり、ギュッと抱きしめた。
「はっ、はぁ……ごめんね、快。私、先にイっちゃった……」
「ん。いいよ。俺も、気持ちよかった」
「うん、私も。でも出せないと苦しいでしょ? 口でしてあげようか?」
甘くふわふわした声でえみりは言う。凪の鼓膜を震わせ、いつもならえみりのテクニックを堪能しようと口角が上がるところだ。
しかし、挿入しても迎えることができなかった絶頂を、彼女のテクニックだけでどうにかできる問題ではない気がした。
「ううん……。今日はいいや。えみりの中、気持ち良かったからずっとこの感覚残しておきたい」
「えー。何それ、快可愛い!」
えみりはきゃっきゃと声を弾ませて、凪の首に腕を回して距離を縮めた。納得した様子に凪は安堵しながらも、同時に至極不安になった。
なんでだ……。いつもならもっと早くイケるのに。えみりの体なら頑張る必要なんかなかったのに……。
寝不足で疲れてんのか。そうだよな……。このところ忙しかったから。
凪はえみりを腕の中に収めたまま、目を爛々とさせ自分に言い聞かせた。ただ、どんなに忙しくてもこんなことは一度だってなかった。その事実が凪の動揺を煽った。