冷たい水の感触で、ノアは目を覚ました。
「……ここ……どこ……」
天井は、見たことのない石造り。
淡い魔法陣が、部屋全体を包んでいる。
体は、ほとんど動かなかった。
――生きてる。
その事実に、なぜか何も感じなかった。
⸻
ドアが、静かに開く。
入ってきたのは、
黒髪の青年だった。
「……目、覚めたか」
声は、穏やか。
「……私は……捕まった?」
「……保護した、が正しい」
青年は、椅子を引いて座る。
「……君、谷から落ちただろ。
普通なら、死んでる」
「……そう」
ノアは、天井を見る。
「……失敗したんだ」
青年の眉が、ピクリと動く。
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「……名前は?」
「……ノア」
「……俺は、ルカ」
ルカは、微笑む。
「……安心しろ。
ここは、黄昏の徒じゃない」
ノアの目が、一瞬だけ揺れる。
「……その名前、知ってるんだ」
「……君が狙われてる理由もな」
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数日後。
ノアは、簡易的な治療を受けていた。
不思議と、敵意は感じない。
ルカは、毎日様子を見に来る。
「……逃げないのか?」
「……逃げる理由、ない」
「……生きたい気持ちは?」
「……分からない」
ルカは、黙り込む。
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夜。
ノアは、夢を見る。
カイが、笑っている夢。
「……ノア、生きろ」
目を覚ます。
枕が、濡れている。
「……なんで……」
理由の分からない涙。
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翌日。
施設の奥に、連れて行かれる。
巨大な水晶。
中に、黒い霧が渦巻いている。
「……それ、何」
「……“核”だ」
ルカが言う。
「……世界の異能力を歪めてる元凶」
「……それ、私と関係ある?」
ルカは、少し迷ってから言う。
「……大ありだ」
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「……君の魔力、
この“核”と同じ波長だ」
ノアの胸が、ズキッと痛む。
「……だから……
黄昏の徒は、君を欲しがってる」
「……私……何なの……」
ルカは、静かに言う。
「……“鍵”だ」
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その夜。
ノアは、施設の屋上にいた。
星空。
「……私は、
ただの被害者じゃなかったんだ」
カイの顔が、浮かぶ。
「……あなた、
これ知ってたの……?」
答えは、ない。
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一方。
別の場所。
レイヴンは、剣を振っていた。
血まみれで。
無言で、魔物を斬り続ける。
「……ノア……」
その名前を、何度も呟きながら。
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アイリスが、必死に止める。
「……もうやめなさい!!」
「……やめられるかよ……」
「……あなた、死ぬわよ!!」
レイヴンは、歯を食いしばる。
「……あいつ、一人で泣いてるかもしれないんだぞ……」
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ラスト。
ノアは、ルカに言う。
「……私……
ここに、いていい?」
ルカは、少しだけ微笑む。
「……いい。
君が自分の答え、見つけるまで」
ノアの胸が、
ほんの少しだけ、温かくなる。
「……私は、
生きる理由を、
敵の手の中で探し始めた。」
遠くで、
黄昏の徒の紋章が、また浮かぶ。






