俺の中の何かが壊れそうだ……
「セイくん!!待ってっ!?激しいよっ!」
「セ、セイさん!?少し優しくっ!?お、お願いします!!」
くっ……
「無理に決まってんだろ!?結構速いぞ!?」
ダッダッダッ
俺は全速力で二人を抱えて走っていた。
それもこれもあの村が魔物の巣になっていたからだ。
村の見た目は何も壊れていなかったから油断していた。
中に入ると静けさ以外にも異臭が鼻についたが、時すでに遅し。
気付くと周りを魔物に囲まれていたんだ。
仕方なく俺が斬り込んで道を切り拓き、先ずは二人を逃した。大魔法を使えば、音や煙で異変を感じた帝国兵達が集まってしまうので、そのまま逃走することを選んだんだ。
秘密裏に入ったのにバレたら意味ないからな……
「何でこんなに魔物がいるのよっ!?」
「か、数もですが、かなり強そうですよっ!?」
「二人とも黙っててくれっ!舌噛むぞ!」
身体強化して二人を両脇に抱えて走っているのだ。
俺を挟んで呑気に会話するなよ……
それにしても初めて見る魔物だな…触手の生えた人型の魔物とか……
キモいんですけど……
「何とか逃げ切れたな……」
ここは村から10キロ以上離れた林道だ。
身体強化していても全力の長距離はキツイんだよ……
「ふぅ。危うく乙女としての尊厳が奪われるところだったよ」
聖奈さんは速度に慣れたところで、揺れに酔ってしまいゲロを吐きかけていた。
「乙女……?」
ギロッ
ビクッ
「な、なんでもない…です」
変なところに反応してしまった。
聖奈さんから射殺す様なドMにはご褒美の視線を独り占めした俺は、すぐさま訂正した。
「ここはどの辺りでしょうか?太陽の位置から察するに村を南下したようですが…」
「流石ミランだな。俺は方角も気にせずに走ったから助かるよ」
さすミラ!
どこかの騒いで酔ってしまうだけの人とは違うなっ!
「ということは、図らずも帝国の内側に向かったんだね。林道とはいえ道のわけだから、どこかの村か町に通じている可能性が高いね。このまま進もう?」
「そうだな…真っ暗になるまでは進んでみるか。ここで立ち止まっていても仕方ないしな」
夜には転移して戻るんだ。
行けるところまで行こう。
「じゃあ!しゅっぱーーーつっ!!」
…なんか嬉しそうだね……
おじさん冒険や旅は好きだけど、迷子は嫌なんだわ。
迷子は最初の山でお腹いっぱいなんです。
酔いが収まりテンションの高い聖奈さんを先頭に、ミランと俺が辺りを注意しながら林道を進むことに。
「うーーん。もう先が見えないくらい暗くなっちゃったね…帰ろうか」
林道の先には街がドーンとはいかず、やはり田舎では隣村までも遠いのだろう。
その日は何も得るものもなく王都へと転移して帰った。
王都でライルと合流した後は聖奈さんの料理に舌鼓を打ち、ライルをロープウェイ建設現場へと転移で送って就寝した。
翌朝ライルを迎えに行き、帰って朝食(ライルにとっては夕食)の席。
「何も変化はなかった」
「まだ2日目だからね。恐らく錆などの劣化は進んでいるはずだよ。目に見えて劣化する前に『ポキンッ』と鉄塔が折れるはずだよ。
とりあえずの5日。様子見の2日って感じかな」
ライルの夜勤はまだまだ続きそうだな。
リア充は一人で頑張ってくれ。
俺は傍目から見たらハーレム旅を楽しむとするよ。
いらんトラブルの匂いしかしないけど……
なんせ聖奈さんがいるからな……
お前も…?はて?
「そっちはどうなんだ?」
「こっちは最初の村で魔物に襲われたくらいで何も進展はないな。出来れば今日中に町くらいの規模のところに着けれたら、といった具合だ」
報告することが触手のキモい魔物くらいなんだよな…何もない。
遊んでたわけじゃないよ?
「その魔物は聞いたことがあるな」
「えっ?そうなのか。どんな魔物なんだ?かなり足が…速かったぞ」
触手も入れたら足と言っていいものか迷うな……
触手はも◯◯け姫の祟り神みたいなイメージだな。
「聞いた限りだと寄生多足スライムだろうな。人みたいな見た目なんだろ?おそらくその村の村人に寄生したんだろうな」
「げぇっ!?」
奇声を上げたのは聖奈さんだ。
少なくとも、乙女はそんな声を出さんぞ?
寄生と奇声を掛けた高度なギャグではないよな?
………はっ!?
「まさか!!俺達も寄生されている可能性が!?」
「それはないだろうな。寄生多足スライムは死体にしか寄生しないと聞いている。そこの村人は他の原因で死んだ後に寄生されたんだろ」
良かった…実は寄生されていて、自分の手と会話することになったら嫌だからな。
もし左手に寄生されたらヒダリーちゃんと名付けよう。
誰が寄◯獣ネタわかんねん。
俺も知らんわ。
「…じゃあ村人を殺害したのは?」
うん。ミランくん。いい質問だね!
俺が答えても良いけど、ここは聖奈さんに答えてもらおうか!
「……」
「…?あれ?聖奈でもわかんないのか?」
俺?俺はもちろんわからんよ?
「…恐らく人じゃないかな?」
珍しく自信がなさそうだな。
別に間違ってても良いんだよ?先生怒らないから。
「何でそう思ったんだ?」
「色々あるんだけど、一番の理由は村の中や塀に傷が少なかったから。魔物なら建物も壊しちゃうだろうし」
「うん?それならそうなんじゃないのか?」
聞いた理由を考えたら人以外考えられんもんな。
村人とはいえ、一つの村を滅ぼす程の力のある魔物なら、出る時にでも柵を壊しそうだし、逃げ惑う村人を追いかける時に家屋もぼろぼろにしそうだし。
「だっておかしいよね?」
「…なにが?」
「何って、その人(?)人達(?)が居なかったんだよ?」
「それは…寄生前の寄生多足スライムが来たから逃げたんだろ?」
うん。我ながら立派な答えだ!
「ライルくん。それは無いよね?」
「そうだな。寄生する前のそいつは無力なスライムだ。子供でも倒せる程弱いから寄生するように進化したって話らしいな。
一度寄生すれば宿主の肉体を消化するまでは寄生し続けるみたいだし、その消化スピードは速くないみたいだな」
「…わかった。でも何で聖奈はそれを知っているんだ?」
「寄生する生き物って大体そうだよ。ライルくんも言っていたけど、進化の過程で寄生を選ばざるを得ないのはそういうことだよ。まさか寄生先を食べちゃうとは思わなかったけどね」
うーーん。考えれば考える程キモいな。
寄生先兼食事とか…効率いいんだか悪いんだか……
「でもアイツら速かったぞ?」
「目がないんだ」
あっ…そういうことか……
死体、死骸の匂いはわかるけど、視覚がないから動きが悪いのか…なんて残念な生き物……
目があればあれだけ速く移動できるのに…進化の仕方間違えてないか?
というより、魔物も進化してんだな……
三葉虫型の魔物とかもいたのかな。
ドラゴンが恐竜に似ているのは絶滅しなかったからか?
そうか!ここはジュラシッ◯パー◯だったんだな!!
「つまり、話を纏めると…村人を殺したのは人で、何らかの理由から死体をそのままにして村を出たと。その死体が腐るまでに寄生多足スライムがやってきて今に至るってわけか」
「多分ね。恐らくだけど、対皇国戦に向けての準備などで街道の警備や村への巡回が少なくなるか無くなった上に村の戦力である若者達が徴兵されたところを賊に襲われたんじゃないかな。まぁどれだけ話しても憶測の域を出ないから仕方ない話なんだけどね」
もうそれで良くない?
俺は何でもいいぞ!
俺の左手がヒダリーちゃんになることが無いとわかったところで、ライルは寝室へと向かい、俺達は旅を再開した。
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