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校門を出た瞬間、夕方の空気が冷たく肌を刺した。
けれどその冷たさは、目黒には感じられなかった。
——康二くんが手を握ってくれてるから。
康二は一度も振り返らず、
目黒の手をしっかり掴んだまま歩き続けていた。
その背中は迷いがなく、ただ真っすぐだった。
学校から遠ざかるたび、
足音と一緒に“現実”が後ろに落ちていく。
「……ほんまに出てきてよかったん?」
康二がふっと息を吐いて言った。
目黒は間髪入れずに答えた。
「うん。康二くんが連れてってくれたから」
その答えがあまりにも真っ直ぐで、
康二の胸の奥がじん、と熱くなる。
「そっか。……ならええわ」
康二は目黒の手をさらに強く握った。
商店街を抜け、住宅街を通り過ぎ、
気づけばふたりは街外れの小さな公園にたどりついていた。
人影はない。
薄暗い街灯が揺れて、静けさだけが満ちている。
ベンチに腰掛けると、
目黒は康二の袖をそっと掴んだ。
離れたくない、と声に出さなくても伝わるように。
康二はその仕草を見て、ふっと笑った。
「お前、ほんま……俺おらんかったら倒れそうやな」
目黒は顔を伏せた。
“図星”だった。
——だって、本当にそうだから。
「康二くんがいないと……怖いから」
言葉にした瞬間、自分でも驚くほど震えていた。
康二は少し黙ったあと、
ゆっくりと目黒の肩に手を置いた。
「もう俺がおる。
誰にもお前渡さんし……誰にも触らせへん」
その声は優しいのに、どこか底の見えない強さを含んでいた。
目黒の胸の奥に、安心という名の甘い毒が沁み込んでいく。
「……うん。康二くんだけでいい」
その言葉を口にするたび、
外の世界が遠ざかり、康二だけが近くなる。
夜風が吹くたび、
世界が柔らかく歪む。
康二は目黒を見て、
静かに決意したような表情になった。
「明日から学校、行かんでいい」
「……え?」
「俺が全部どうにかする。
お前は俺のとこにおれ。それだけでええ」
目黒はゆっくり目を見開いた。
——世界が閉じる音がした。
でも、怖くなかった。
むしろ救われるような気がした。
「……ほんとに……ずっと一緒にいてくれる?」
その問いは、すがるようで、壊れそうで。
康二は即答した。
「当たり前やろ。
お前は俺のや。俺が守る」
その言葉に、目黒の呼吸が静かに落ちていく。
ふたりの世界が、
完全に外と切り離され始めた瞬間だった。
誰でもいいのでいいねたくさんください!!!
書く気力になります!!