テラーノベル
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山下公園に花を撮りに来たわけだが、花以前に空の青さと海の広さに圧倒されっぱなしだった。突き抜けるような青天、黄色のイチョウ並木を吹き渡る海風、深く蒼い海。風光明媚すぎる。
いやー、ふだん山合い住宅地の散歩しかしないから忘れてたけど、横浜って浜が近いから横浜だったな、そういえば!
『いい天気でよかったな!』
少し先を行く千歳(女子大生のすがた)が振り返った。
「うん、花以外も写真撮ろうかな。あ、そうだ」
おばあちゃんに、千歳の様子もよく聞かれるんだよな。
「ねえ、千歳の写真も撮らせてよ」
『ワシ?』
千歳はキョトンとした。
「おばあちゃん、千歳が元気かも知りたがってるからさ、写真送ったほうがわかりやすいかと思って」
『どこで撮る?』
「うーん、もう少し公園入って、山下公園っぽいところで撮らせて」
多少歩くと、広くおしゃれな感じの石階段があって、地図を確認すると【石のステージ】なる場所だったので、そこで千歳を撮らせてもらうことにした。
「撮るよー、元気っぽくして」
『ピースピース!』
千歳はにぱっと笑って両手でピースし、俺は昭和の撮影ポーズだなあと思いながら何枚か写真を撮った。
本当に天気がいい。冬の澄んだ空気だ。平日だが、家族連れもカップルもそこそこ歩いている。リアルが充実してらっしゃる……。
『なあ、どんな風に撮れた?』
千歳が近寄って聞いてきて、俺は気づいた。平日街中を歩き回るのに、中学性の格好じゃまずいと思って少し大人の姿になってもらったが、これ……俺と歩いてると……俺達もデートに見えない!?
「あ、ええと……けっこうかわいく撮れたと思うよ」
俺はスマホで撮れた写真を千歳に見せたが、内心千歳に悪いなあと思っていた。違うんだ、本当に今まで気づかなかったんだ、恋愛がピンとこない千歳なのにその千歳を彼女っぽく連れ回したいんじゃなかったんだ!
千歳は、俺の内心にはまったく気づいていない。
『なあ、花ってどの辺にあるんだ?』
「あ、ええと……あっちの芝生の広場を過ぎたらいろいろ植わってるって。ゆっくり行こうか」
……彼女っぽく連れ回すつもりじゃ全然なかったんだけど、明るく青い空とよく手入れされた緑の芝生がまぶしくて、千歳とゆっくり歩きたかった。
しばらく歩くと、生け垣や花壇が見えてきて、バラやバラ以外の花がそれなりに咲いていた。
「よかった、冬の割にけっこう咲いてる」
『喜ぶな、お前のおばあちゃん!』
真紅のバラはそれだけで映えるが、朱色と黄色のバラや、黄色く滑らかなクリームを思わせる花びらのバラもきれいだった。淡いピンクのバラ、濃いピンクのバラ、おばあちゃんが喜びそうな花を次々と写真におさめる。写真を撮りながら進むと、色とりどりのパンジー、黄色のキンギョソウ、白いノースポールなど、バラ以外の季節の花も咲いていて、俺は結構な量の花の写真を撮ることができた。
「……こんなもんかなあ」
噴水のある中央広場まで進んで、俺は一息ついた。千歳は気を使ってくれたみたいで、俺がいろいろ撮ってる間は話しかけないでくれていて、自分でもたまに花の写真を撮っていた。
『なあ、どんな風に撮れた? 見せろ』
「はいはい」
俺が撮った写真をスマホに映して見せると、千歳はうなった。
『うーん、やっぱりお前のほうがうまいな撮るの、普段から撮ってるもんなあ』
「そんなにうまいかなあ、慣れてはいるけどね」
まあ、老人ホームの他の人も見るわけだから、きれいに撮れてるに越したことはないんだけど。
『昼飯までまだ時間あるな、どうする?』
「もうちょっと公園回ろうよ、すごく景色いいしさ。海と船の写真も撮って、おばあちゃんに送りたい」
言ってから、これ完全にデートコースじゃん……と思ったんだけど、千歳が笑って『うん!』と言ったので、まあいいや、と思ってしまった。
芝生広場をゆっくり散策し、海と船を撮ったり、海と船をバックにまた千歳の写真を撮ったりして、おばあちゃんに送る写真にはしばらく困らなくなった。
『なあ、ていうか、お前のおばあちゃんなんだから、お前の写真も見たいんじゃないか?』
「俺?」
そんな、アラサー男の写真なんて見てなにか面白いことある? と思ったが、多分おばあちゃんは俺が写った写真を喜んでくれる稀有な人間だ、と思い直した。
「あー、じゃ、一枚くらい撮ろうかな……」
『撮ってやるよ、お前のスマホで撮るほうがきれいに撮れるかな?』
千歳が片手を出した。
「ありがとう」
俺は千歳に自分のスマホを渡し、千歳は『 さっきワシを撮ったところで撮ろう!』と、海と船をバックに撮ってくれた。
『多分まともに撮れたはず、ほら』
「ありがとう」
千歳が返してくれたスマホを見ると、少し照れたように笑う自分が写っていた。へえ、千歳から見ると、俺ってこんななんだ。
「じゃ、ゆっくり歩けば予約の時間に喫茶店に着くから、そろそろ行こうか?」
『うん! いちごパフェ食う!』
千歳の笑顔を見て、俺も笑ってしまった。
「料理もおいしいらしいよ、フランス料理だって」
キッシュ、クロック・ムッシュ、ビーフシチューなど、千歳が気に入りそうなメニューはたくさんあった。俺はケークサレ食べようかなと思ってる。
千歳に好きに食べろって心配されて、もうちょっとちゃんと、自分の好きなことや、楽しいことも考えようと思ったから。
でも、こんなにいい天気のきれいな景色のところを千歳と歩いてるだけで、俺は楽しいな。
#幽霊
凛道桜嵐 新
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がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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コメント
1件
わあ、今回もほっこりした〜😭💕 主人公が「デートじゃない」って必死に否定してるのに、普通に山下公園で千歳と写真撮り合ってデートコース歩いてて尊すぎる!!「まあいっか」って開き直るところがもう二人らしくてにやにや止まらなかったよ。そして千歳が撮った主人公の照れ笑い写真、めっちゃ見たい…!何気ない距離感が染みるエピソードだった🥺🌸