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裁判所の周りには、早朝から多くの報道陣が詰めかけていた。
かつて世間を騒がせた「家計簿の檻」の主が
12年前の強盗致死を含めた全ての罪に対し、どのような決算を下されるのか。
日本中の目がこの法廷に注がれている。
私は、ネイビーのスーツの襟を正し、父の万年筆を胸に、傍聴席の最前列に座った。
やがて、刑務官に抱えられるようにして直樹が入廷してきた。
かつての自信に満ちた面影は微塵もなく、ただ震えるだけの枯れ果てた肉体。
彼は、私と目が合うのを避けるように、小さく丸まっていた。
「主文。被告人を死刑に処する」
裁判長の声が静かに、しかし絶対的な重みを持って法廷に響いた。
一円の狂いもない、彼の罪に見合った「最終的な支払額」。
直樹は叫び声を上げる力すら残っていないのか
ただ「あぁ……」という、空気が漏れるような音を漏らした。
閉廷の宣言がなされ、彼が退廷する直前。
直樹は、一度だけ私を振り返った。
その瞳に宿っていたのは憎しみでも、謝罪でもなかった。
それは、10年前
彼が私にプロポーズした時と同じ、相手を絡め取ろうとする「呪いのような甘え」だった。
かつてのプロポーズの言葉
『一生、僕が君の人生を管理してあげる』。
その残酷なリフレイン。
彼は死の瞬間まで、私の人生という帳簿の片隅に
自分の名前を「永遠の負債」として刻み続けようとしている。
私は、立ち上がり、彼を真っ直ぐに見据えて言い放った。
「直樹。……今日、あなたの名前は私の記憶から『除却』されたわ。……評価額、ゼロ。……あなたはもう、私の記憶という資産を占有する価値すらない、一円の端数なのよ」
直樹は絶望に顔を歪め、そのままズルズルと引きずられて消えていった。
法廷の外へ出ると、眩しいほどの太陽が降り注いでいた。
私のスマホには、陽太から一枚の写真が届いていた。
ルーツ・ガーデンで育てている苗木が、新しい芽を吹いたという報告。
「……父さん」
私は空を見上げ、亡き父に語りかけた。
「……ようやく、あなたの娘として、完璧な決算を終えたわ」
【残り30日】
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