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注意︰そこそこほのぼのです 多分
それでもよければどぞ
ちなみに一回保存忘れて全部消えた…
最後の方雑かも…
冷蔵庫を開けた瞬間、嫌な予感はしとった。
あるはずのプリンが、ない。
「……なろっち?」
振り返った先、スプーンをくわえたまま固まっとるなろっちの姿。
目が合った瞬間、分かりやすく肩が跳ねた。
「あ、翔くん、その……えっと……」
次の瞬間、ぽん、と音がした気がした。
床に転がっとるのは――赤ん坊。
灰色のふわふわした髪だけはそのままで、丸い目をぱちぱちさせとる。
「……はぁ」
俺は額を押さえた。
驚いたり焦ったりすると小動物になる能力。今回は小動物どころやない。
「プリン一個で赤ちゃんになるなや……」
なろ――いや、赤ちゃん姿のなろっちは、きゅっと唇を結んで、申し訳なさそうに俺を見上げとる。
「今戻したる」
そう言って抱っこしようとして、手が止まった。
「あ」
決まった上着。
それを着とる俺に抱っこされると能力が戻る。
……今日に限って、着とらん。
部屋中探した。ソファの裏、洗濯物、クローゼット。
どこにもない。
昨日……遊んだあと、どっかに置いてきた記憶が一瞬よぎる。
「……昨日か」
赤ちゃん姿のなろっちは、あぅ…?とつぶやく
俺はため息をついて、頭をぽりぽり掻く。
「しゃあない。明日探しに行くわ」
なろっちは不安そうに俺を見る。
けど内心、俺は――
(……赤ちゃん姿、意外と)
抱っこすると、やたら軽い。
小さな手が俺の服をぎゅっと掴んでくる。
(……悪くない)
そんなこと思っとる自分に苦笑しながら、その日は過ごした。
―――翌日。
上着を探しに出るため、なろっちを家に残した。
念には念を入れて鍵も閉めた。
「すぐ戻るで」
赤ちゃん姿のなろっちは、こくりと頷いた。
……見つからんかった。
心当たりの場所を回っても、上着は影も形もない。
嫌な胸騒ぎを抱えたまま家に戻ると。
玄関。
そこに、座っとった。
うるうると目を潤ませた赤ちゃん姿のなろっちが、ちょこんと。
「なろっち!?」
抱き上げると、安心したみたいに俺の胸に顔を埋めて、ふえ、と声を出す。
「置いてってすまん……」
頭を撫でて、必死にあやした。
―――次の日。
今度は連れて行く。
絶対に目を離さん。
上着探しの途中、少し休憩しようとベンチに座らせた。
俺は自販機へ。
歩きながら、ふと昔のことを思い出す。
(遊園地のお化け屋敷でフェレットになって、えらい目に遭ったな……)
(ホラー映画のときは子猫で、隙間に隠れて見つからんくなったし)
思い出し笑いしながらベンチへ戻る。
――空っぽ。
「……は?」
視界が一瞬で冷えた。
辺りを見回す。
赤ちゃんのなろっちがおらん。
背筋が凍る。
(能力を狙う……誘拐)
頭の中で、一瞬で答えが出た。
「……クソ」
拳を強く握る。
なろっちは、俺が守る言うた存在や。
能力も、弱さも、全部ひっくるめて。
「必ず取り返す」
なろっちも、上着も。
二度と、あんな目には遭わせん。
考えるより先に、体が走り出す。
(連れて行かれた方向……)
ベンチの周りに落ちとる、小さな足跡。
赤ちゃんのもの――いや、途中から形が歪んどる。
「……変化したな」
小動物。
なろっちは恐怖で姿を変える。
誘拐なんて状況、赤ちゃんのままなわけがない。
路地に入った瞬間、かすかに聞こえた。
「……きゅ」
耳が拾った。
フェレット特有の、か細い鳴き声。
「……おった」
息を殺して、角から覗く。
フードを被った男が二人。
その足元、檻みたいなケース。
中で、小さなフェレットが丸まっとる。
灰色の毛。
間違えようがない。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
(怖かったやろ……)
男の一人が言う。
「やっぱ本物だな。能力反応が安定してる」
「高く売れるぞ。変化系は特に――」
その瞬間、頭の中で何かが切れた。
「……誰が売られる言うた?」
二人が振り返るより早く、俺は距離を詰めた。
拳が一人の顎に入る。
鈍い音。
もう一人がナイフを抜くが、躊躇した瞬間を逃さん。
「なろっちに触るな」
低い声が、自分でも分かるくらい怒りを孕んどった。
数秒。
それで十分やった。
男たちは逃げるように去っていく。
残されたケースに駆け寄る。
鍵を壊して開けると――
「……なろっち」
フェレットが、びくっと震えて俺を見る。
小さな体で、必死に後ずさる。
「大丈夫や。俺や」
声を落として、ゆっくり手を差し出す。
フェレットのなろっちは、一瞬迷ってから、よたよたと俺の手に乗った。
震えが、指先に伝わる。
「……怖かったな」
そのまま胸元に抱き寄せる。
「もう大丈夫や。俺がおる」
なろっちは、きゅ、と小さく鳴いて、俺の服を噛んだ。
(……あ)
上着。
昨日置いてきた、あの決まった上着。
逃げる途中で落としたんやろ、ケースの横に落ちとった。
俺はそれを拾って、そっと羽織る。
「……戻ろか」
なろっちを抱っこした瞬間。
腕の中が、少し重くなった。
フェレットが消えて、
そこに――赤ちゃん姿のなろっち。
「……っ」
俺の服をぎゅっと掴んで、今度は声を上げて泣き出した。
「……っ、すまん」
喉が詰まる。
「俺が目ぇ離したせいや」
なろっちは泣きながら、俺の胸に顔を埋める。
そのまま、光が淡く弾けて――
腕の中には、見慣れた姿。
灰色のふわふわした髪の、なろっち。
「……翔、くん……」
震える声で、俺を呼ぶ。
「戻った、か」
俺はぎゅっと抱きしめた。
今度は離さんように。
「置いてくな言うたやろ……」
「ごめ……っ、でも……」
なろは俺の服を握ったまま、震えながら言う。
「……迎えに来てくれるって、信じてた」
その一言で、胸がいっぱいになった。
「当たり前や」
額を軽く合わせる。
「なろっちは俺のや。誰にも渡さん」
なろは少しだけ笑って、安心したみたいに目を閉じた。
俺はそのまま、上着ごと包み込むように抱き上げる。
(もう二度と)
能力も、弱さも、恐怖も。
全部ひっくるめて守る。
そう誓いながら、俺は家への道を歩き出した。