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もちぷよ
987
270
きゅー
2,024
僕たちの恋人としての初めての週末が始まった。
カーテンの隙間から差し込む朝の光を浴びながら、僕はゆっくりと意識を覚醒させていった。
ふと、身体を動かそうとした僕は、小さな悲鳴を上げそうになった。
「っ、……、いっ……」
腰の奥から、ズキズキとした鈍い痛みが走る。
昨夜の代償が、今になって身体の節々に生々しい痛みとして跳ね返ってきたようだ。
身動きが取れずに固まっていると、自分の腰に心地よい重みを持つ大きな腕が回されていることに気づいた。
すぐ隣から聞こえる、規則正しい静かな寝息。
そっと寝返りを打つと、目の前には無防備な寝顔を晒しているしゅんの姿があった。
昨夜あれほど子供のように泣きじゃくり、僕を貪るように激しく求めてきたのが嘘みたいに、穏やかな表情で眠っている。
「……しゅん」
胸の奥から溢れ出た愛おしさに耐えかねて、小さな声でその名前を呼んでみる。
すると、しゅんの長い睫毛がかすかに震え、ゆっくりと眠たげな瞳が開いた。
「……んぅ……じゅう?起きてたん…?」
まだ完全に覚醒していない掠れた声で、しゅんはふにゃりと眉を下げて笑った。
そして僕をさらに自分のほうへと引き寄せ、胸元にぎゅっと抱き込んでくる。
「おはよ、しゅん。……って、ちょっと待って、痛い痛い!」
「え!?どこ!?どこが痛むん!?」
僕が本気で顔を顰めたのを見て、しゅんは弾かれたように目を丸くして大慌てで腕の力を緩めた。
そして捨てられた子犬のように、今にも泣き出しそうなほど慌てふためいた顔で僕の顔を覗き込んでくる。
「……腰。昨日の、その……しゅんが凄すぎたから。……動くと、ちょっと響く……かも、」
真っ赤になりながら、消え入りそうな声で白状する。
するとしゅんは、一瞬だけ呆気に取られたようにフリーズしたあと、僕の言葉の意味を理解したのだろう。
みるみるうちに耳の裏まで真っ赤に染まっていった。
「あ、あぁ……!ごめん、じゅう……っ!俺、じゅうが可愛すぎて、途中から理性が飛んでもうて…。ほんまにごめん!大丈夫!?今から湿布とか買ってくる!?」
「ふふ、大丈夫だって。しゅん落ち着いて? ……あー、でも今日は家でのんびりしていたいかも」
「それはもう、もちろんやよ! 今日はじゅうは何もせんでええからな! 朝から晩まで、俺が全部お世話したるでな!」
しゅんは大真面目な顔をして何度も深く頷くと、僕をベッドに残したまま、パタパタと足音を立ててキッチンへと向かっていった。
それからのしゅんの過保護っぷりは、僕の予想を遥かに超えていた。
しばらくして寝室に戻ってきたしゅんの手には、湯気の立つ温かいお粥のお盆が握られていた。
別に風邪ではないし、お粥でなくてもいいのだが、彼があまりに得意げな顔をしているから、素直に「ありがとう」と伝えた。
僕が自分でスプーンを持とうとすると、「あかん、俺が食べさせたげる!」と全力で制止される。
「しゅん、俺、腰が痛いだけで手は動くよ?」
「ええの!俺がしたいんさ!ほら、あーんして?」
嬉しそうに目を輝かせるしゅんに押し切られ、僕は恥ずかしさに耐えながら、彼に差し出されたお粥の掬われたスプーンをぱくっと口にする。
チーズが入った優しい味のお粥は驚くほど美味しくて、胸の奥までじんわりと温かくなっていく。
「……美味しい」
「ほんま!?良かったわぁ。じゅう、もっといっぱい食べてな?」
僕が一口食べるたびに、しゅんは本当に嬉しそうに顔を綻ばせる。
付き合う前も十分に過保護だったけれど、恋人になった今の彼は、僕への愛を何一つ隠そうとせず全力の熱量で僕を甘やかしてくれている気がした。
お腹がいっぱいになると、心地よい満腹感のせいで再び強い眠気が僕を襲ってきた。
しゅんはお皿を片付けると、ベッドに入り直して僕の身体を痛めないようにそっと横から抱きしめてくれた。
「じゅう、もう一回寝る?」
「うん、ちょっと眠い……。ねぇしゅん、急に仕事に穴開けちゃったし…、それにみんなに怪我の理由、なんて説明したらいいかなぁ。月曜日なんか緊張する……」
「大丈夫やよ。そんなん、俺が一緒にええ言い訳考えたるから心配せんといて? 何か困ったことあったらすぐ呼んでな?すぐ飛んでくし!なんなら吉田さんには俺から言っとこうか?」
「それは本当にやめて…。吉田さん、ただでさえ勘が良いんだから、俺たちのことも一瞬でバレる……」
僕が本気で口を尖らせて睨むと、しゅんは「ふふ、冗談やよ。そんな怒らんといて?」と楽しそうに目を細めた。
だけど、次の瞬間にはその悪戯っぽい笑みを引っ込め、僕の頬を大きな手でそっと包み込んで真っ直ぐに見つめてくる。
「でもな、じゅう。嘘つくのも、会社で隠し通すのも、じゅう一人にそんな重いこと絶対させへんから。俺が全部守ったる。やから……何も怖がらんといて?」
「しゅん……、ありがと、」
どこまでも頼もしい彼の言葉に、胸の奥の重荷がすっと消えていく。
視線が熱く絡み合うなかで、しゅんは優しく僕を引き寄せ、深くて優しい口づけをくれた。
「じゅう、大好きやよ。世界で一番、愛してる」
「うん、俺も。俺もしゅんを愛してるよ」
ひとりで強くなろうと意地を張っていた日々は、もう完全に終わったのだ。
僕には、この人がいる。
この人が隣にいて、こうして特大の愛の熱で僕を包み込んでくれるから、これから先、どんな未来が来ようとも僕はいくらでも強くなれる。
窓の外からは昨夜の雨が嘘のように、雲一つない週末の青空が広がっていた。
その景色から視線を戻し、しゅんの顔を見つめるが、なにか言いたげな表情をしていた。
僕が「なあに?」と首を傾げると、困った顔をしながら口を開いた。
「なぁ、じゅう。……俺よりはやちゃんのことかっこええなーとか、もう思ったらあかんで?」
「……はぁ? 何、急に」
「だって、じゅうがいっつもはやちゃんのこと”かっこいい”とか”ヒーロー”って言ってたの、俺、内心ずーっとモヤモヤしてたんさ。 でももう恋人になったんやから、これからは俺のこと一番って思っといてな?」
子犬みたいに本気で少し拗ねた顔をするしゅんが、なんだかたまらなく愛おしくて。
僕は彼の腰に回した手にぎゅっと力を込め、その広い背中をあやすように優しく叩いた。
「ねぇ…、俺の全部奪っといて、今更何言ってんの? もうしゅんしか見えないに決まってるじゃん…。バカしゅん」
そう言って僕が胸元に額を預けると、しゅんは「……うわぁ、今のずるいわぁ」と耳まで真っ赤にさせて、安心したように僕の頭を何度も優しく撫でてくれた。
僕ははやちゃんから告白されたあの夜のことを、きっとこの先もしゅんには言う事はないだろう。
それはこれ以上この人を不安にさせたくないし、この腕のなかのぬくもりだけを僕は一生、命がけで守り抜くと決めたから。
でも自分の人生を投げ打ってまで僕を救ってくれたあの人の想いに応えられなかったという罪悪感も、きっと一生消えることはない。
だけどあの人が何よりも望んでくれたのは、僕が心から笑って生きることだったから。
だったら僕は、この腕の中で僕を心の底から愛してくれるしゅんと一緒に、誰よりも幸せになってみせる。
それが、あの人の真っ直ぐな愛への、僕なりの誠実な答えだから。
to be continued…
コメント
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こんにちは。 何時も楽しく拝読させて頂いております。 甘々な2人は、凄く癒されています。 でも、snさんも幸せになって欲しいと思っています。 切ないのはキュンキュンして好きなのですが、やっぱり最後は、全員幸せになって欲しいです☺️ 沢山読みたくなりますが、お身体に気をつけて、マイペースで構いませんので、続けて頂けたらとても嬉しいです。 次回も楽しみにしています。