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しゅんに至れり尽くせりで看病してもらったおかげで、僕の体調はすっかり万全に戻っていた。
休み明けの仕事も無事に乗り切り、約束通り僕としゅん、そしてはやちゃんの三人は、はやちゃん行きつけの少し落ち着いた居酒屋の個室に集まっていた。
名目は退院祝いだったが、僕としゅんにとっては付き合うことになったことをはやちゃんに直接伝えるための、大切な決意の席でもあった。
『おう、柔太朗。すっかり顔色も良くなったな!大丈夫そうでよかったわ』
先に席についていたはやちゃんは、僕たち二人が並んで個室に入ってきたのを見ると、いつもの頼もしい笑顔で迎えてくれた。
「うん、おかげさまで! はやちゃん、あの時は本当にありがとう」
『いや、俺は何も!いいから早く座れよ!』
「俺じゅうの隣な~」
しゅんはそう言って、僕の隣に座りながらふにゃりと目を細めた。
注文した飲み物と料理が運ばれてきて、三人でグラスを合わせて乾杯をする。
お互いの仕事の近況や、あの雨の夜の少しバツの悪そうなしゅんの謝罪など、他愛のない世間話で最初は盛り上がっていた。
はやちゃんとしゅんは、あの病室でのやり取りを経て本当にウマが合うようになったらしく、男同士で楽しそうに笑い合っている。
けれど宴も終盤に差し掛かり、賑やかだった会話がふっと途切れた瞬間、僕はテーブルの下で自分の両手をきゅうっと強く握りしめた。
それに気付いたしゅんが、その手の上から、そっと力強く握りしめてくれる。
彼の大きな手のひらの熱が、僕にさらなる勇気をくれた。
いつまでも甘えて、守られているだけの僕じゃない。
一番に伝えるべき相手に、自分の言葉で報告するんだ。
「……あの、はやちゃん。はやちゃんには、ちゃんと直接伝えたくて」
『なんだよ、改まって』
「俺ね……しゅんと、付き合うことになった。……俺、しゅんが好きなの」
静まり返った個室の中に、僕の決意の声が真っ直ぐに響く。
はやちゃんは、持っていたお箸をピタリと止めた。
一瞬、個室の空気が完全に静止した気がした。
はやちゃんからはいつもの頼もしい笑顔が消え、深く、重い瞳が僕としゅんを交互にじっと見つめる。
『……そっか。よかったな』
しばらくの沈黙のあとのその掠れた声に、僕はハッとして息を呑んだ。
はやちゃんは持っていたお箸をゆっくりテーブルへと置くと、少し悲しげな笑みを浮かべ、静かに言葉を重ねた。
『……お前がそんな風に、真っ直ぐ誰かを好きだって言えるようになって良かったわ。……お前をそこまで変えたのが舜太なら、もう…、何も言うことはないな。…おめでとう』
しゅんは、その真っ直ぐな想いに応えるように、深く頷いて彼を見つめ返した。
「はやちゃん。……じゅうを暗闇から救って、これまで必死に守ってきてくれて、俺、ほんまに感謝しとる。……はやちゃんがどんな思いでここまで支えてきたんか、後から来た俺には到底分からんし、分かった気にもなりたくない。……だけどな、だからこそ、俺、はやちゃんには一生敵わんと思ってるんさ……」
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しゅんは一度言葉を切ると、テーブルの下で僕の手をさらに強く握りしめ、揺るぎない覚悟をその瞳に宿した。
「はやちゃんがあの日、命がけでじゅうの未来を繋いでくれたから、俺は今、こうしてじゅうの隣にいられる。……だから、もう絶対にじゅうを泣かせへん。はやちゃんが人生を賭けて守ってきたじゅうを、今度は俺が、命に代えても世界一幸せにする。……俺の言葉、信じてほしい」
はやちゃんは、しゅんのその曇りのない本気の眼差しをじっと見つめ続けた。
静まり返った個室の中に、互いの真っ直ぐな想いを認め合うような、深く、静かな沈黙が流れる。
けれど数秒の沈黙ののちはやちゃんの口から漏れたのは、小さく、どこか吹っ切れたような短い笑い声だった。
『……はは。なんだよ。……舜太、お前、めちゃくちゃ格好いいじゃん』
はやちゃんはすべての肩の荷を下ろしたように深く息を吐き出すと、これまでに見たこともないような、心からの優しい笑顔を僕たちに向けた。
『舜太、柔太朗を頼んだぞ。お前、マジで死んでも守れよ? もし次、こいつを少しでも悲しませるようなことをしたら……その時は俺がお前から力ずくにでも柔太朗を奪い返しに行くからな』
「絶対に守る。じゅうを幸せにする」
しゅんが僕の手をテーブルの下でぎゅっと強く握りしめ、揺るぎない確信を込めて言い切る。
その力強い熱が、僕の胸を熱く満たしていく。
『柔太朗、良かったな。……あとさ、お前は、ちゃんと強いよ。大丈夫…。絶対幸せになれるよ。お前なら……』
「……うん。はやちゃん、本当に、ありがとう……っ」
目の前でどこまでも優しく笑うはやちゃんの顔を見つめながら、僕の目から熱い涙が零れ落ちた。
僕の弱さも、脆さも、怯えも、全部知っているあの人が、僕のなかの本当の強さをずっと信じてくれていた。
その一言がどれほど嬉しくて、どれほど僕の救いになっただろう。
隣にいるしゅんの力強い体温と、はやちゃんがくれた真っ直ぐな信頼が、僕の心のなかに一生消えない勇気を注ぎ込んでくれる。
僕は涙でにじむ瞳で、心からの感謝を込めて、目の前に座る憧れの人の瞳を真っ正面から見つめ返した。
しゅんもそんな僕たちのやり取りを、横でそっと、どこか誇らしそうな優しい眼差しで見守ってくれていた。
『よーし!それじゃあそろそろ店出よっか。明日も仕事だしな』
さっきまでの張り詰めた空気から一転、はやちゃんはいつもの頼もしい笑顔に戻って立ち上がった。
僕たちが財布を出そうとすると、はやちゃんは『いいから、今日は退院祝いとお前らがようやく付き合ったお祝いだろ?俺に出させろ』と言って、伝票をスマートに持ってレジへと向かってくれた。
どこまでも格好良くて、憧れの人。
お店を出て駅へと向かう大通り。
はやちゃんは『じゃあ、俺はこっちだから。舜太、柔太朗のこと頼んだぞ』と僕たちに向かっていつもの世界一格好良いお兄ちゃんの笑顔を見せて、颯爽と夜の街へ歩いていった。
はやちゃんの広い背中が見えなくなるまで見送ったあと、僕たちは寄り添うようにして夜のオフィス街を並んで歩き出した。
見上げた夜空には、綺麗な月明かりが広がっている。
隣のしゅんが大きなため息のあと、ぽつりとつぶやいた。
「はぁー……、はやちゃんってさ、ほんまにかっこええ男やわ」
しゅんは一瞬だけ立ち止まり、また深く息を吐き出し、言葉を続けた。
「俺、はやちゃんには一生頭が上がらん。じゅうを暗闇から引っ張り上げてくれたんは、間違いなくはやちゃんやから。……でもな、だからこそ絶対に負けられへん。はやちゃんが安心して俺らに背中向けられるくらい、俺がじゅうを世界一幸せにせなあかんって思うんよ」
少し低くなった彼の声には、勇斗への敬意と、恋人になった僕へのどこまでも真っ直ぐな覚悟が満ちていた。
僕は歩みを止め、彼の瞳を真っ正面から見つめ返した。
「ねぇ……絶対幸せになろうね。一緒に」
「うん、あたりまえや」
しゅんはふにゃりとしたいつもの優しい笑顔を咲かせると、僕の顔を覗き込むようにして目を細めた。
周りには時折、仕事帰りの会社員たちが通り過ぎていく。
「……一応、彼氏になって最初の帰り道やしな。手、繋いでもええ? ……ポケットの中でなら、誰にも見えへんし」
しゅんは少し照れくさそうに頭を掻くと、自分のコートの大きなポケットに右手を突っ込み、その隙間をくいっと広げて見せてきた。
街灯の光に照らされて、少し耳を赤くしているしゅんの姿が、なんだかたまらなく愛おしい。
一人で強くなろうとして、自分の殻に閉じこもっていた頃の僕には、こんなに温かい未来が来るなんて想像もできなかった。
「うん……」
僕は歩みを進めてしゅんの隣にぴったりと並び、待ってくれていた暖かいポケットの中にそっと自分の手を滑り込ませた。
ポケットの中で、僕たちの指先が迷わずに絡み合い、ぎゅっと強く結ばれる。
ビルの隙間から覗く綺麗な月明かりが、僕たちの新しい始まりをどこまでも優しく照らし続けていた。
to be continued…
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