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奏太が意識を取り戻し、あかりが自身の病気を告白したことで、彼の中で一つの決意が固まった。
「この映画を完成させる。それが、俺たちが生きた証になる。」
撮影は目前に迫っていた。
ロケ地の準備は整い、機材も確保された。
しかし、問題がまだ一つ残っていた。
「スタッフ間の衝突」
奏太が病室から戻ると、ゼミ室の中で大きな言い争いが起こっていた。
怒鳴り合っているのは、**友(とも)と太力(たいりき)**だった。
「お前、なんで勝手に撮影プランを変えたんだよ!」
友が机を叩き、太力を睨みつけていた。
「成功させるためだろ? こっちはプロの技術を研究して、最適な方法を考えてるんだ!」
太力は腕を組んで、不機嫌そうに言い返す。
「でも、それじゃ奏太がやりたい映画にならない!」
「だったら何だ? ただでさえ時間がないのに、理想ばっかり追ってて間に合うのかよ?」
「理想を追わなきゃ意味がないだろ!!」
友の怒鳴り声が、ゼミ室に響いた。
奏太は、しばらく二人のやり取りを聞いていたが、ついに口を開いた。
「……落ち着けよ。」
二人は同時に振り向いた。
「奏太……。」
「お前、もう大丈夫なのか?」
「そんなことより、お前らの喧嘩、どういうことだ?」
友は悔しそうに口を開いた。
「太力が、勝手にカメラアングルや撮影計画を変えようとしてるんだよ!」
「勝手にじゃねえ。映画として最高のクオリティを出すためだ。」
太力は、頑なに譲らない。
「確かに、俺は技術のことに関してはお前らより上だよ。俺が決めたほうが絶対にいい。」
「……それが問題なんだよ。」
友は、拳を握りしめながら言った。
「お前はいつも、自分が一番正しいって思ってる。でも、映画って一人で作るもんじゃないだろ?」
奏太は、友の言葉を聞きながら、太力の表情を見つめた。
「太力、お前はこの映画を何のために作る?」
「何のためって……最高の映像を撮るためだろ?」
「違う。」
奏太は、首を振った。
「俺たちは、映画を通して“生きた証”を残すためにやってるんだ。」
「……。」
「技術だけが映画のすべてじゃない。お前の映像はすごいよ。でも、それだけじゃ、映画は完成しない。」
「……。」
「もし、お前が“誰よりも優れた映像”を作ることだけを考えてるなら、この映画から降りろ。」
太力の顔色が変わった。
「……なんだと?」
「お前が、仲間の意見を無視するなら、この映画に関わる資格はない。」
「……。」
ゼミ室は、静まり返った。
しばらくの沈黙の後、太力はゆっくりと息を吐いた。
「……悪かった。」
その一言に、友は驚いたように目を見開いた。
「俺は……たぶん、怖かったんだ。」
太力は、自嘲気味に笑った。
「俺は、自分の技術が認められなかったら、それで終わりだと思ってた。」
「……太力。」
「でも、お前らは違うんだよな。」
彼は、友の肩をぽんっと叩いた。
「俺も、この映画を“みんなで”作る。」
その言葉に、友の表情が緩んだ。
「……そうこなくちゃな。」
喧嘩は収まった。
奏太は、安心したように微笑んだ。
「じゃあ、もう一度撮影プランを練り直そう。」
「おう、やるか!」
友が力強く頷く。
「俺も協力する。」
太力も、いつもの冷静な表情を取り戻していた。
「この映画は、みんなのものだ。絶対に妥協はしない。でも、誰一人として置いていかない。」
奏太の言葉に、ゼミメンバー全員が頷いた。
「俺たちの映画を、必ず完成させる。」
それは、彼ら全員の誓いだった。