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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。リザードマンの襲撃から二時間、全速力で航行したアークロイヤル号は、進路上に見えた小さな無人島の付近で投錨。被害の確認を行うことになりました。
「おーい!気を付けろよーっ!」
「見張りは周囲に目を光らせろ!」
潜水夫達が工具を持って潜り、万が一に備えて銃で武装した水夫達がボートで待機して周辺に目を光らせます。浅瀬ではありますが、用心は必要ですね。
「舵の効きがちょっと悪くてねぇ。応急処置でなんとかなれば良いんだけど」
エレノアさんが作業を見守りながら呟きます。
「舵をやられたんですね。船底に被害は?」
「それは心配要らないよ。昔は船底に穴を空けられてたけど、最近の船は船底に鉄板を張ってるんだ。魔物対策さ」
昔は木製の船底に魔物が穴を空けて船を沈めていたみたいです。いくら屈強な戦士でも海中では魔物が有利。それを変えたのは『ライデン社』だったのだとか。
「鉄が海に浮くなんて、誰が予想したか。『ライデン社』の技術があるから、私達も外洋に出られるのさ」
「『ライデン社』の恩恵はいろんな場所にあるんですね」
「陸の連中は新しい技術が怖いみたいだけど、私達船乗りからすりゃ大歓迎さ。命に関わるんだからね」
「陸では命に直結はしませんからね」
事実『ライデン社』の新技術や概念は、船乗り達に大好評。基本的に反対されることもないのだとか。
「でも、海洋ギルドが反対するのでは?」
「死んだ親父の話じゃ、確かに最初は他のギルドみたいに反対してたみたいだよ。でも、『ライデン社』が鉄板を張った船を作ってからは誰も反対しなくなったね。どう考えても、利益しかないからさ」
「魔物に対する有効な備えになるから、ですか?」
「その通りだよ。沈められたら意味がないからね。けど、リザードマンは賢い。だから最初に舵を壊して、船に乗り込んでくるのさ」
「あの数が、ですね」
「妹ちゃんには感謝だよ。今回はゆっくり低速で動いた私の落ち度さ」
「実地試験は必要だと私は思います。死者も出なかったので良かったと思いましょう」
「そう言って貰えると助かるよ」
「船長ぉ!!」
話していると海面に顔を出した潜水夫の一人がエレノアさんを呼びます。
「おう!どうだい!?」
「ちょっと傷つけられてるが、なんとかなりそうだ!三時間くらい時間をくれ!」
「二時間で済ませな!」
「無茶言うなよ!繊細な仕事なんだぜ!?」
「そのくらいの意気でやれって事だよ!早く取り掛かりな!」
「へいへい!人使いの荒いこって!」
「……シャーリィ」
いつの間にかアスカが傍に居ました。
「どうしました?」
アスカはなにも言わず無人島を指差す。
「気になるのですか?」
「……気になる」
ふむ。
「それは良い意味で?それとも悪い意味で?」
「……嫌な感じはしない」
「なるほど。エレノアさん」
「なんだい?シャーリィちゃん」
「あの島は無人島でしたか」
「ああ、小さな島だよ。海図を見る限り人は居ないみたいだけど」
「アスカの勘は当たるんですよ。調査をしてみませんか?」
「何かあるんだね?」
「アスカの勘ですから、何かがあるとは思いますが」
「まあ、二時間は動けないんだ。ちょっとした調査なら良いんじゃないかい?ボートを出すよ」
「ありがとうございます」
早速みんなを集めます。
「二時間調査すれば良いんだな?」
「シャーリィは行かねぇよな?」
「行きたいところですが、レイミが居るので離れるわけにはいきません。だから、お願い出来ませんか?ルイ」
「俺は良いよ、冒険みたいでワクワクするからな。それに、シャーリィが安全な場所に居るなら安心だ」
「俺もだ。エレノア、お嬢を頼むぜ」
「任されたよ、ベルモンド」
急遽調査としてアスカ、ベル、ルイの三人を島に上陸させることにしました。
万が一に備えて武装した水夫数人が上陸地点に待機してくれます。
……何があるのかな。無用な危険を犯しているような気もしますが。
島は小さく砂浜が周囲を囲み、中心部に小さな森があるだけの無人島である。
上陸した三人は砂浜に何もないことを確認して、森へと入っていく。鬱蒼と繁った獣道を、アスカを先頭に進んでいく。
「まさに道無き道だな。こりゃ人は居ないぜ」
ベルモンドが周囲を見渡しながらため息を吐く。
「動物くらい居ねぇのかな?」
「……獣の匂いはしない」
ルイスのぼやきにアスカが応える。
一時間ばかり森を散策してみるが、特に怪しいところもなく三人は道無き道を歩く。
「道も平坦だし、海も見える。道に迷う心配はなさそうだな。ルイ、へばってないよな?」
「まさか、まだまだいけるぜ?ベルさん」
更に三人が周囲を散策していると。
「おっ、洞窟があるな」
岩場で小さな洞窟を見つける。
「他にはなにもないし、これだけかな?」
「いやまて、ルイ。こりゃ、燭台か?」
洞窟の壁にある朽ち果てた燭台らしきものを見つけたベルモンド。
「なんだそれ、燭台?ここで明かりを灯してたってことか?」
「ああ、間違いない。随分と錆びてるが、誰かが住んでたんだな。気を付けろよ」
「……ここ、なんかある」
アスカが何かを嗅ぎ取ったのか、頻りに匂いを嗅ぐ。
「当たりっぽいな。ベルさん、どうする?」
「ただ散歩したってお嬢に伝えたいか?」
「それは嫌だな、シャーリィのため息は結構キツいんだぜ?」
「なら決まりだな」
ベルモンドを先頭に三人は洞窟へと侵入する。内部は薄暗いが、あちこちに食器やテーブルなどか残されており、誰かが暮らしていたことを証明していた。
「多分一人で住んでたんじゃないか?」
「なんでそう思うんだ?ベルさん」
「遺された食器や椅子なんかは一組だ。それに数も多くないからな」
「遭難者とか、そんな感じか?」
「多分な。お嬢が喜ぶようなものがあれば良いんだけどな」
「……見付けた」
「ん?……これはこれは」
アスカの指した先には、椅子に腰かけた白骨遺体があった。衣服もほとんど風化しているが、その手にある刃の無い柄だけの剣と古びた本のみが形を保っていた。
「なんだこれ、柄だけの剣?まるでシャーリィみたいだな」
「本もあるな……すぐに破れそうだ。他にはないか?」
隅々まで探すが他に目ぼしいものは無く、三人は剣の柄と古びた本だけを回収して船に戻った。
「お帰りなさい、何かありましたか?」
「期待させて悪いけどよ、こんなのしかなかったぜ、シャーリィ」
ルイスはシャーリィに戦利品である本と柄を手渡す。
「これは?」
「洞窟があってな、そこの持ち主から拝借したんだ。尤も、そいつはもう死んでたけどな」
ベルモンドが簡単に説明する。
「ふむ……興味深いですね。調べてみますか」
運命とは気紛れである。いつも彼女に意地悪な運命は、時として幸運を運んでくる。
洞窟で寂しく一人で朽ち果てた人物。それはかつて魔王を討ち果たし、勇者と呼ばれた青年の亡骸。
彼の遺品は、人知れず彼と同じ力を持つ少女に受け継がれたのである。