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パーティを組んだ翌日から1週間、俺とテオは毎日のように鍛錬を続けていた。
朝から街の外へと出かけ、午前中は他の冒険者達が寄り付かず、かつ魔物がほとんど出現しない辺りに陣取り、各自で魔術を練習する。
テオは俺が書いた『|魔術合成《ハーモナイズ》配合一覧メモ』を見ながら、無難な配合での【魔術合成】での術式合成を練習していた。大人しくやってるあたり、初めて魔術を合成した際の暴発&魔物襲来でさすがに懲りたらしいな。
元々テオは魔術の威力調整が抜群に上手だったこともあってか、既にある程度使いこなせるようになったようだ。
俺はというと、「焦らず落ちついて詠唱さえできれば」という条件付きではあるものの、安定して『光球』を発動したり、それを使って魔物を攻撃したりできるようになった。
だけど【光魔術】を使えるというのは、それ自体が勇者だという証明になってしまう。正体を隠したい現状、俺の魔術はできる限り使わずに旅をするつもりだ。
昼頃になると、事前に街で買っておいたランチボックスを食べてから、森の中の魔物がそこそこ多いエリアへと出かける。
主に魔物との実戦形式で、俺は剣を使った戦い方をテオから教わった。
この世界に来てからすぐの俺は、「先手必勝!」とばかりに全ての敵を一撃必殺で葬ることでダメージを受けずに戦闘を繰り返していた。
だけどテオに言わせると、それはあくまで敵が激弱であり、明らかな戦力差があって初めて実現していたに過ぎない。今後格上の敵と戦うとなると、そのままの立ち回りではいつか限界が来てしまうだろう、と。
そこでテオが提案したのは、敵の攻撃を回避したり、盾や剣で受け流したりしながら隙を見て攻撃する――というスピードを活かした回避主体の立ち回り。
俺が装備している『手作りの片手剣』も『ミスリルバックラー』も重量としては軽めの装備であり、装備していても身軽に動くことが可能だ。ただしそのぶん防御力には期待できない。
装備だけじゃなく本人のLVや、HPや防御力等の基本能力値が軒並み低いので、生き残るためには基本「敵にダメージを受けない」という立ち回りが求められることになる。
最初はやや怖気づいていた俺だったが、ワイルドラビットといった攻撃力の低い魔物相手から始めたり、万が一怪我をしてしまってもテオがすぐアイテムで回復してくれたりしたこともあり、徐々に魔物と対峙するのにも慣れていく。
数日も経つと、森を住処にする体長1m程の緑色の大トカゲ型の魔物・フォレストリザードや、狂暴な野生の狼型の魔物・ワイルドウルフなど、森の浅い部分に生息する魔物達を俺1人で討伐できるまでになった。
テオの剣術指導は丁寧で分かりやすかった。
意外に思った俺が、どこで教え方を覚えたのか聞いてみると、テオは「俺だって元々、触ったことすらない状態から剣術を覚えたから……教える時は、その頃の気持ちを思い出すようにしてるんだよね!」と笑顔で答えた。
夕方頃にはエイバスの街へと帰還。
魔物を倒して手に入れたドロップ品を冒険者ギルドにて売却。
どこかの酒場で夕飯を食べては、2人分の部屋を押さえてある宿屋『エイバス野兎亭』に戻り休む。
――それが、俺達の1週間のサイクルだった。
鍛錬を始めてからちょうど7日目の夜。
野兎亭の俺とテオが泊まる一室。
火の魔導具が照らす温かい色の光の中、俺は攻略サイトを開いて調べ物をしながらメモをとり、テオはボーっとベッドに座っている。
お互い静かに過ごす中。
テオが急に大きな声を出し、ベッドへと仰向けに寝転がった。
大声に一瞬ビクッとした俺はメモを取る手を止め、テオへと話しかける。
「……なんだよテオ。急に大声出して」
「だって飽きたもんは飽きたんだっ! ここ1週間、毎日毎日、同じことの繰り返しばっかじゃん!」
「確かにそうだけどさ……俺は毎日新たな発見があるっていうか、結構楽しくやってるけどな」
「タクトはタクト、俺は俺。とにかく俺は飽きたのっ!」
ゴロンとうつ伏せになって黙り込むテオ。
元の世界にいた時から『剣と魔法の世界』に憧れていた俺は、ここしばらくの剣や魔術の鍛錬が楽しくてしょうがなかった。
それに様々なRPGをプレイする際、ある程度レベル上げしてから先に進むほうが、結果的に危なげなく敵を倒せるというのは鉄則中の鉄則。
ゲームと違い、死んだらどうなるか分からないのがこの世界。下手に冒険して取り返しがつかなくなってしまわないよう、できる限り序盤でレベルを上げたり、立ち回りを磨いておきたいところである。
安全かつ確実に実力をつけることができたこの1週間の環境は、そういった意味でまさに理想と言えるだろう。
だけどテオが教えてくれたのは、何も、剣での戦い方だけじゃない。
長年各地を旅し続けているだけあって、日々の剣の手入れ・魔物の生態・人々の文化についてなど様々なことに詳しいテオは、いつも俺をフォローしつつ色々教えてくれていた。
いくら架空世界でずっと遊んでいたとはいえ、所詮《しょせん》俺は異世界の人間であって、積み重ねてきた経験の種類がテオとは根本からして全く違う。
想像以上にテオに頼ってしまっている現状に気づいてからは特に、口にこそ出さないものの、俺は割とこいつに感謝していた。だからパーティを組んで一緒に行動するにあたり、「できる範囲で彼の希望に沿っていきたい」とも内心では思っていたのである。
「なぁテオ」
「何?」
「他に何か“やりたいこと”ってあるか?」
「やりたいこと? えっと……」
うつ伏せのまま何やら考え始めるテオ。
ややあって「そうだ!」と思いついたようにクルッと回って飛び起きたテオは、明るく提案してきた。