俺とテオはダンジョンへと潜ることに決めた。
選んだ行き先は『小鬼の洞穴』。
ゲームにおいては、エイバス近くの山の麓に存在し、名前の通りゴブリン系の魔物だけが出現する。
全10階層とダンジョンの中では比較的階層が少ないほうだ。強力な魔物や、対処が面倒なスキル――例えば魔術系スキル・状態異常付与系スキル等――を使う魔物も出現しない、冒険初心者向けのダンジョンとして知られている。
そのぶん大したドロップ品なども出ず、ある程度高レベルの冒険者には全くメリットがないので、そもそも初心者以外は潜ろうともしないのだが。
ちなみに現在の俺のステータス――偽装なしのもの――がこちら。
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名前 タクト・テルハラ
種族 人間
称号 勇者、世界を渡りし者、神の加護を受けし者
状態 健康
LV 2→7
■基本能力■
HP/最大HP 78/29→39+39
MP/最大MP 54/16→27+27
物理攻撃 12→24+34
物理防御 4→ 9+24
魔術攻撃 6→16+16
魔術防御 4→ 8+23
■スキル■
光魔術LV1、剣術LV1、能力値倍化LV5★、収納LV1、技能習得心得LV1、鑑定LV1、神の助言LV1、言語自動翻訳LV1、攻略サイトLV1、偽装LV1、≪NEW≫防御LV1
■装備■
手作りの片手剣(物理攻撃+10)、ミスリルバックラー(物理&魔術防御力+15)、布の服、革のブーツ、ある旅人のマント
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【防御LV1】は、初日の剣術練習の最中に新しく習得したスキルだ。
習得条件は「攻撃を回避したり、武器や盾で受け流したりに一定回数以上成功すること」であり、習得していると武器や盾での受け流し&ガード・回避が成功しやすくなる。
なおパーティを組んだ際、既にテオへは、偽装していない状態の“本来の俺のステータス&スキル”を開示済み。
ただし【攻略サイト】や【神の助言】に関しては「この世界の人間へは説明が面倒だ」という理由で、それっぽくごまかした。
テオに色々と聞いてみた結果、ダンジョンは、現実とゲームでそこまで差異が無さそうだと分かった。
ゲーム内で『小鬼の洞穴』を危なげなく攻略できるとされる『攻略推奨LV』はたった“5”。
LV38のテオと一緒であれば、おそらく苦労せずにいけるんじゃないかな。
そしてテオの提案で、翌日は訓練を休んで丸1日を「準備にあてる日」とし、翌々日の朝に「ダンジョンへ向けて出発する」ことになった。ダンジョンは攻略に時間がかかり、また途中でトラブルがあってもすぐに外に出られない場合が多いからだ。
いくら初心者向けの比較的やさしいダンジョンとはいえ、攻略にどれほどの時間がかかるか、そして何が起こるのか……。
……先が読めない以上、しっかり準備をするに越したことはない。
翌朝、宿で軽い朝食をとった俺とテオは、エイバスの街の南側にある『職人街』と呼ばれるエリアを訪れた。
この辺りには職人達の工房がひしめき合っており、武器・防具・魔導具など様々なアイテムが作られ、そして販売されている。
元々、早めに職人街を訪れたいとは考えていた。
神様に会った際に言われた「ゲームで開発された魔術や生産系のレシピは、現実でもそのまま使える」「現実よりもゲームの方が、レシピの研究が進んでいる」という内容がずっと気になっていたのが1番の理由だ。
まだ俺自身は生産系のスキルは習得していないけれど、いずれは作りたいと考えるアイテムは数多い。
エイバスの職人街を見学すれば、何かしら今後の参考になりそうな気がしたんだ。
森での鍛錬の休憩中、生産系スキルについても質問してみたところ、テオからは「生産系スキルもひととおり使えるけど……あまり自分じゃ使いたくないや」との答えが返ってきた。
生産系スキルのスキルLVが影響するのは、主に『生産物の品質』について。
テオの場合は多数の生産系スキルを習得しているので、材料さえあれば一応アイテムの生産自体は割とできる。
だけどスキルLVが全て1のため、完成品の品質はあまりよろしくないらしく「アイテム作りは、腕が良い職人へ依頼するに限るっ」とはっきり断言していた。
半分観光名所と化したこの辺りには、マップを見ながら楽しそうに連れだって歩く観光客や、その観光客らに声掛けする店員も少なくない。
まるでお互い競い合うかのように、建物前で宣伝も兼ねたパフォーマンスを行う工房も多数あった。
職人達の高LVの生産系スキルや魔術系スキルを活かした鮮やかな技に、思わず足を止めて見入ってしまう。
その都度テオが詳しく解説してくれたこともあって、俺はしっかりと職人街を満喫することができたのだった。
特に「ゲーム内で生産系スキルを使った際のモーションと、この世界で生産系スキルを使った際の動きはほぼ変わらない」、「それぞれの工房が制作可能だと提示している品揃えや、その金額もゲーム内とさほど変わらない」あたりが分かったのは、かなり大きな収穫と言える。
ただし腕利きの職人が作るアイテムは、それなりに値が張る。
ましてや注文して自分好みの物を作り上げてもらうオーダーメイド品ともなると、例え素材持ち込みであっても高額になってしまうのだ。
正直な話、今の俺の懐事情では厳しいのが現実。
テオが「手持ちのお金貸そうか?」と申し出てはくれたものの、借りを作りすぎるのも悪いと断り、自分の身の丈にあった金額帯の店に行くことにした。
職人街の外れのほうの、とある中古防具専門店。
目当ての店を一足先に見つけたテオが建物へと入っていき、俺も後に続く。
明かりの魔導具に照らされた少し埃っぽい20畳ほどの店内には、様々な防具が所狭しと並べられていた。
冒険者ギルドから買い取ったドロップ品や、冒険者らから買い取った使い古しの防具が品揃えの中心。
そこそこの品質の防具を手頃な価格で購入できるのが、この店の売りとなっている。
店員は全員が小柄なドワーフ族で、カウンターには防具を整備している年配の男性店員が2名、入口近くには陳列している防具を整理している若い女性店員が1名。
「いらっしゃいませ。どういった防具をお探しでしょうか?」
ちょうど客が他にしかいなかったためか、すぐに女性店員が話しかけてきた。
「こっちの見習い剣士の防具を見立ててほしいんだけど――」
喋りかけたテオを遮るように、鼻息荒くはっきり答えた。
店員とテオは同時に「え?」と疑問の声を上げ、口々に反対してくる。
「安い金属製のフルプレートは、非常に重いですよ?」
「そーそー、タクトの戦闘スタイルには合わないって――」
剣と魔法の世界が元々大好きである俺が、もし自分がファンタジー世界に行ったら……という妄想をしたのは1度や2度じゃない。
そしてその妄想通り、実際に剣と魔術で戦えるようになった今。
せっかくなら憧れの板金鎧、中でもいわゆる『フルプレート』と呼ばれる「頭からつま先まで、全身が金属板で覆われたタイプの鎧」を着てみたいと、ずっと密かに憧れていたのだ。
テオと店員は何とか説得しようとしてきたが、俺だって長年の夢が叶うかもしれない貴重なチャンスを諦めるわけにはいかない。
猛烈に主張し続けた結果、どうにか店の片隅に置いてあった鉄製フルプレートを試着させてもらえることになったのだった。
コメント
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面白かったです! 良ければ、私の小説を読んでくれますか? 全然、語彙力が足りなくって…‥…‥アドバイスを頂けると嬉しいです❗