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鏡花いもうとから、お迎え要請に即時対応出来るよう、会場近隣での待機を命じられた実篤さねあつだ。


別に律儀に守らなくてもいいのだが、くるみが一緒だと思うとやはりその場を離れ難くて。


とりあえず、と思って同窓会会場近辺の駐車場に車を停めて、ホテルに入ってはみたものの、二十時を過ぎた今、暇潰しのあてにしていた一階ロビーのカフェは営業時間を終えていた。


(マジか! それではほいじゃあ俺、どうやって時間潰したらえん? 喫茶店がダメじゃったけぇと言ってっちゅーて最上階のバーに行って酒を飲むわけにもいかんし)


運転手要因としてここに来ている以上、アルコールは厳禁だ。


(あ、だけどほいじゃけど最近はノンアルコールも結構あるっちゅーよな。ほら、前に田岡さんが言いよったアレ。何ちゅーんじゃったっけ)


確か〝何とか〟という呼び名までついてブームになっているのだと、前に事務員の田岡が言っているのを聞いたことがある。

彼氏とデートする際に、どちらかが〝何とか〟を飲むようにして、タクシー代を浮かせているとか。


肝心の〝何とか〟が思い出せなくて、とってももどかしい実篤だ。


(えーと、何じゃったっけ?)


思い出せないと意識すればするほど何だか物凄くむず痒い。


どうにも我慢できなくなった実篤は、スマートフォンを取り出すと、「ノンアルコール カクテル」というキーワードで検索を掛ける。


「あ、コレじゃー」


【ノンアルコールでもバーやラウンジが楽しめる! ホテルの五選】


出てきたページに、すぐさま求めていた語句を見つけた実篤は「そうそう。モクテル!」とつぶやいた。


そのページを開いてみると、何でも模したと言う意味の「mock」とカクテルを組み合わせた造語らしい。


(何じゃそれ。ノンアルコールって言うたんじゃダメなん?)


と思ってしまう時点で、いかん、これ、年寄り的思考回路じゃ!と気が付いて、フルフルと首を振る。


(ダメじゃろ、俺。彼女が若いんじゃけぇ、こう言うのは柔軟に取り入れていかんと)


『年を取ると、頑固になったり怒りっぽくなったりする』と何かの記事で読んだのを思い出した実篤だ。


頑固=固定観念な気がして、耳慣れない言葉「モクテル」に対しての認識を改める。


(のっ、ノンアルコールって言うっちゅうよりみじこぉーてええじゃん?)


実際はそう意識している時点でダメなのだが、そこには目をつぶることにした。



「このホテルのラウンジにもあるんじゃろうか」


わざとらしく〝モクテル〟を使って独りごちたところで、正面フロント内にいるスタッフと目が合って、実篤は内心『見られちょった!』とドギマギした。


ホテルに入るなり、どこに向かうわけでもなく、ロビーのど真ん中で迷子のようにスマホであれこれ検索していたら、確かに不審者ではないか。


ましてや自分は自他共に認める強面顔こわもてがおだ。

今日はスーツを着ていないから大丈夫だと思いたいが、もしかしたら堅気カタギっぽく見えていない可能性だってある。




「あの、お尋ねしたいんですが……」


結局その重圧に耐えられなくなった実篤は、フロントに近づくと、先程視線が絡んでしまったフロントマンに声を掛けた。



***



『1301』と書かれた透明な細長い四角柱のアクリルキーホールダーにくっついたルームキーを片手に、実篤はエレベーターを目指した。


(うわ、俺バカなん? 何かつい勢いで部屋とか取ってしもぉーたんじゃけどっ)


顔には努めて出さないようにしているつもりだけど、内心心臓バクバクだった。


さっき、雰囲気に飲まれてついフロントマンに声をかけてしまった実篤だったけれど。


『ここのバーでは〝モクテル〟とか飲めますか?』と覚えたての単語を織り交ぜて聞くつもりが、寸前で妙に恥ずかしくなって。つい『部屋とか空いてたりしますか』とか予定外のことを口走ってしまった。


いくら田舎のホテルとはいえ、市内で一番高級感あふれる新しいホテルだ。

しかも年末のこの時期。

さすがに素泊まりなんて断られるじゃろ、と思っていたのに。


(まさか『はい、ございますよ。どのようなお部屋のタイプが宜しいですか?』と聞かれるとは誰も思わんじゃろ⁉︎)


動揺のせいで操作盤の「十三」の行先ボタンを押す手が、思わずフルフルと震えてしまった実篤だ。


(しかも何で俺、ツインルームとか選んで二人分の宿泊料金はろうちょるん⁉︎ 下心ありありじゃろ)


この際もう鏡花きょうかにはタクシー代をやって、とか思っていたりする時点でそうなのだから仕方がない。


(あ。ほら、あれよ。俺がインフルになったせいでクリスマスまともに出来んかったし? そ、その埋め合わせっちゅーことで)


いくら何でも急きょすぎるじゃろ!と自分で突っ込みつつ階数表示と睨めっこをしていたら、八階のところで一旦箱が停止して、ドアが開いた。


(あ、八階っちゅうたらくるみちゃんらぁの……)


ふとそんな事を思いながらも、無意識。『開』のボタンを押した実篤の目に。


「……くるみ、ちゃん?」


見慣れないスーツ姿の男に肩を抱かれて、くるみが乗り込んで来た。


実篤が、くるみの肩を抱いている男を一瞥いちべつすると、男はビクッとしてくるみから少し離れて。


「実篤さっ……」


くるみが実篤の姿を認めるなり泣きそうな顔をするから。

実篤は思わず男を押し退けるようにしてくるみを腕に抱き寄せた。


「どぉしたん? 具合わるうなったん?」


優しく問い掛ける実篤に、まるでくるみが答えるのを邪魔したいみたいに「あのっ、失礼ですが貴方は……」と、男が割り込んできて。


その、どこかな雰囲気に、実篤は思わず条件反射。眼前の男を睨みつけていた。

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