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「いいえ……まだよ。でも、やっぱりあの男を前にすると殺意が湧く」
「ならば選択はひとつでしょう?」
「だけど…ただ殺すだけじゃ足りないわ。彼が築き上げた名誉も、利権も、プライドも、すべてを灰にして。自分自身の手で、自分が創り上げた『毒』によって滅びる……もっと深い絶望を味わわせてからじゃないと、母様が浮かばれないわ」
私たちはゆったりと動き出す。
脳裏ではアルベルトと交わした会話と、父の言葉が何度も反芻されていた。
────お前は私と同じ、愛を葬り去る側の人間…
その呪詛を完全に解くためには、父という過去を焼き払うしかない。
だがそのためにはただ命を奪うだけでは不十分だ。
父が最も大切にしている虚栄と権力を根こそぎ刈り取らなければ意味がない。
それを理解しながらも、胸の奥で燻るのは純粋な殺意だ。
「……やはり悩ましいわね」
思わず独白が漏れてしまうと、横にいたアルベルトが静かに口角を上げた。
その薄い唇が描く弧は、捕食者が獲物を追い詰める際に見せる冷酷な愉悦に満ちていた。
「即断できないというのは理性がある証拠です。しかし私は──望むなら明日にでも彼を狩場に誘い出し、血の一滴も残さずに仕留められます。その方が余程効率的ではありませんか?」
「あなたらしいわ。でも待って。今はまだ〝そのとき〟じゃないわ」
「では証拠作りに協力しましょう。絶望の底に沈めるには、それ相応の重しが必要でしょう?」
「あら、意外と協調性があるのね?」
「今は仮にも協力者ですから、1つの暇つぶしに過ぎませんよ。もっとも、私が最も得意とする暇つぶしは『排除』ですがね」
冷ややかな笑みを浮かべながら告げる彼を見て、なぜか少しだけ心臓が跳ねる。
けれどそれが恋慕ではないこともわかっている。
お互いが血塗れで笑える、狂ったコンビネーションの完成形だからだろうか?
彼の欠落した心が、私の汚れた部分と噛み合って、奇妙な調和を生み出している。
「なら、証拠集め含め…父のことについて改めて調べ上げるのを手伝ってもらおうかしら。あの男の地下に隠された毒の根源をすべて掘り起こしたいの」
「ふふ、面白そうです。地を這う虫を一匹残らず炙り出すように、徹底的に暴いて差し上げましょう」
アルベルトのその短い応答に含まれた凄みに、私は言い知れぬ高揚感を覚える。
私たちの朝靄の中を滑るように歩いていく。
夜通し活動していた体には確かに重い疲労はあるが、心は異常なほど冴えわたっていた。
朝日が街を黄金色に染め始めても、私たちの視界はまだ、鮮やかな復讐の夜の中にあった。