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第152話:底辺の錬金術〜ナマポとパチンコと、現金の要求〜
「……おい親父。親孝行だかなんだか知らんが、いきなり電話してきて何の話だ」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で身を硬くし、スピーカーモードにしたスマホに向かって警戒を露わにして問いかけた。
電話の奥から聞こえるのは、煙草で喉を潰したような親父の不快なダミ声だ。
『ヘッヘッヘ、察しが良くて助かるぜ雪。単刀直入に言うとな、今すぐ俺に五十万……いや、三十万でいい、現金を送れ!』
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
俺の絶叫が四畳半の薄い壁を突き破り、アパート中に響き渡った。
三十万!? こっちは一日一食でしのいで、いつ来るかもわからん税金の請求に震えて暮らしてんだぞ!?
「正気かよ!? なんで俺がそんな大金を払わなきゃなんねえんだよ!!」
『何言ってるんだ、投資だよ投資! 今の陸別は寒くてパチンコ屋も少ねえがな、北見や帯広の店まで遠征すれば『確変』確定の台が落ちてんだよ!』
「パチンコじゃねえか!! 投資ですらねえよ!!」
『バカ言え! 俺の長年のギャンブル勘を舐めるな! 三十万を元手にパチンコで100万に増やしてやる! 増えた分はお前にも山分けだ!』
画面の向こうで、ディスコード経由で聞いていた結愛(ゆあ)が呆れ果てたように吐き捨てる。
『恐るべきクズの思考回路ですね。確率収束の概念すら理解していない、典型的な重度ギャンブル依存症患者の末路です』
「だろ!? 払うわけねえだろそんな金!」
俺はスマホに向かって一刀両断した。
「それにだ! お前、いま陸別町で『生活保護』受けて暮らしてんだろ!?」
『あぁ? ナマポがどうしたってんだ?』
「生活保護法第六十一条を教えようか!? 保護受給者は、仕送りや一時的な臨時収入を含め、あらゆる収入を福祉事務所(役場)に申告する義務があるんだよ!」
俺はかつてナマポだった頃の知識を引っ張り出し、スマホに向かってまくし立てた。
「もし俺がお前に三十万なんて金を送金してみろ! 役場のケースワーカーが口座の取引履歴(通帳)をチェックした瞬間に一発アウトだ!」
「『収入申告漏れ』で保護費は打ち切り! 最悪、過去に遡って不正受給として全額徴収されるんだぞ!!」
これで諦めるだろう、と俺は胸を張った。
役所と税務署の網は、この日本において絶対なのだ。
しかし、電話の向こうのクズ親父は、ハハハと鼻で笑い飛ばした。
『甘ぇな雪ィ! お前は相変わらず頭が硬いなぁ!』
「……何だと?」
『通帳に記録が残るからバレるんだろ? 銀行振込なんて素人のやることだ! 現金で手渡しすれば、役場の奴らにバレるわけねえだろがよォ!』
「げ、現金手渡し……!?」
『そうだ! 郵便局の現金書留で送るか、お前が直接陸別まで現生(げんなま)を持ってくればいいんだよ! 足のつかない現金なら、いくら貰おうが役所の帳簿には1円も載らねえ!』
悪びれもせず、むしろドヤ顔で言い放つクズ親父。
『役場なんてな、通帳の数字と税金のデータしか見てねえんだよ! タンス預金や現金の受け渡しまで監視できるわけねえだろ! これぞ『底辺の錬金術』ってやつだ! ギャハハハ!』
「な、なんて身勝手で完璧なクズ思考……ッ!?」
俺はあまりの理屈(悪徳)に目眩を覚えた。
税金逃れや不正受給のノウハウを、実の父親から堂々とレクチャーされるこの地獄絵図。
『ルシフェルさん、補足をさせていただきます』
ここで、AIアシスタントのジェミニ先生が、氷のように冷ややかな音声で介入してきた。
『お父様の仰る通り、現金の手渡しは短期的には発覚しにくい側面があります。しかし、生活保護受給者の資産状況や生活水準に不自然な変化が見られた場合、ケースワーカーによる家庭訪問や資産調査が実施されます』
『意図的な隠蔽と判断された場合、生活保護法第85条に基づき、三年以下の懲役または百万円以下の罰金に処される可能性がある刑事事件となります』
「聞きやがったか親父!? 犯罪なんだよそれは!!」
俺が叫ぶと、親父は舌打ちをして声を荒立てた。
『うるせえな! 親に向かって犯罪者扱いすんじゃねえ! 誰のおかげでここまで大きくなったと思ってんだ!!』
「おふくろのおかげだよ!! お前は借金残して消えただけだろうが!!」
『とにかく現金を送れ! 息子が儲けてんのに親を見捨てるのか!? 陸別は寒いんだよ! 暖房費もパチンコ代も足りねえんだよ!!』
逆ギレして怒鳴り散らす親父のダミ声が、四畳半に空しく響き渡る。
「断る!! 1円だって払うか!!」
『……ほう、そうか。なら俺にも考えがあるぞ。お前が帯広でコソコソ隠れて暮らしてること、ネットの掲示板や週刊誌に全部バラしてやろうか? 『VTuber会社社長、実の父親を生活保護のまま放置して贅沢三昧』ってなぁ!』
「くっ……!? どこが贅沢三昧なんだよ! 一日一食だぞ!?」
卑劣極まる脅迫に、俺の額から嫌な汗が噴き出した。
もしこんなクズ親父の言いがかりでもネットに撒かれれば、炎上して会社の信用はガタ落ちだ。
『……ルシフェル様、少々よろしいでしょうか』
その時、今まで静観していた結愛が、極めて静かな、しかし殺気立ったトーンで口を開いた。
「ゆ、結愛……?」
『お父様。貴方様が今仰った発言……すべて【録音】させていただいております』
スピーカーの向こうで、親父の笑い声がピタリと止まった。
『恐喝罪、および生活保護費の不正受給を教唆・強要する発言。実に素晴らしい証拠が取れました』
氷点下の笑みを浮かべる結愛の反撃が、ここから始まろうとしていた。
コメント
1件
読み終わりました……いやあ、今回はまたすごい回でしたね。親父のクズっぷりが「底辺の錬金術」ってタイトルまんま過ぎて笑っちゃいましたよ(笑)。生活保護の知識を盾に、まさか現金手渡しの発想で来るとは。でもそれ以上に、結愛さんの「録音しております」の一言で黙らせる流れが最高でした。あの静かなトーンで反撃する感じ、痺れますね。伏線として提示された生活保護法の知識が、後で証拠として効いてくる構造も好きです。連載中とのことですが、この親父が今後どう出てくるのか、気になって仕方ないです。ゆうきあきやさんの人間のクズさを描く筆致、今回も冴えてました。
191
레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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