テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第153話:不正受給の共犯者〜経理担当(鉄面皮)の録音〜
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で硬直し、スマホの画面を凝視したままガタガタと震えていた。
ディスコードの裏回線経由で聞いていたはずの、我が社の鉄面皮経理・結愛(ゆあ)が、突如として通話にカットインし、『すべて録音している』と冷徹に告げた直後。
電話の向こうのクズ親父は、一瞬沈黙したものの、すぐに不快そうに舌打ちをした。
『あぁ? なんだあ? 誰だお前は! 録音だぁ? 雪の女か!? 親子の会話に割り込んでんじゃねえよ!』
『申し遅れました。私は株式会社インフィニティ・ワンの経理担当、ならびに法務・内部監査責任者の結愛と申します』
ウェブカメラの向こうで、結愛が感情の欠片もない無表情のまま、淡々とキーボードを叩いている音が聞こえる。
『ハッ! 経理だあ? 知るかよ! 警察が親子の口喧嘩で動くわけねえだろ!』
親父は事の重大さを全く理解していないダミ声を響かせ、再び俺へと矛先を向けた。
『おい雪ぇ! 会社を潰したくなかったら、毎月三十万だ! 現金書留で陸別のアパートに送り続けろ! そうすれば俺も余計なことは喋らねえ!』
『VTuber会社社長、実の父親を生活保護のまま放置して贅沢三昧』
もし、そんな根も葉もない捏造記事や暴露ポストがSNSで拡散されたらどうなるか。
ヨモのチャンネルは炎上し、海外リスナーからの温かいスパチャは一瞬で止まり、俺たちの『株式会社インフィニティ・ワン』は破滅する。
(う、嘘だろ……。せっかくW-8BENを乗り越えて、ここから本業に専念できると思ってたのに……っ!)
俺の胃の奥が、キリキリと酸を吹き出し始める。
「お、おい親父……! 頼むからやめてくれよ! 俺の会社はまだできたばかりで、そんな噂が立ったら一発で潰れちまうんだ!」
弱気な声を漏らした俺に、電話の向こうのクズ親父は勝ち誇ったように言い放つ。
『ガハハハ! 分かればいいんだよ、雪ぇ! 親孝行だと思って払い続けろ!』
「毎月三十万なんて払えるかよ! 俺の役員報酬は月十万円だぞ!?」
『知るかよ! 会社の口座に何百万もスパチャが入ってんだろ!? そこから適当に引き抜いて送ればいいだろが!』
親父の暴論に、俺の脳内電卓がパニックを起こす。
(会社の金から引き抜く……? いや、使途不明金として経費で落ちないどころか、業務上横領……? でも、個人のポケットマネーじゃ三十万なんて払えない……)
極限の恐怖とプレッシャーにより、俺の思考回路が危険な方向へと傾きかけた、その時だった。
『――そこまでです、お父様』
スピーカーから響いたのは、冷気すら孕んだ氷点下の声だった。
『先ほども申し上げましたが、貴方が現在行っている行為は、刑法第249条に規定される【恐喝罪】に該当します。さらに、社長に対して会社の資金を不正に流用させ、生活保護費を不正受給しようとする行為は、極めて悪質です』
結愛は冷酷にロジックを組み立てていく。
『お父様のお言葉通り、もし我が社の社長が貴方に「足のつかない現金」を継続して送金した場合、どうなるかお分かりですか?』
『あぁ? バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ!』
191
레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
1
『いいえ、確実に発覚します。会社名義の口座から使途不明の現金が毎月三十万円引き出されていれば、税務調査の時点で一発で「使途不明金」として否認され、重加算税の対象となります。そして、その資金の行き先を追及された際、我が社は捜査機関に対してこの「通話録音データ」を全提出せざるを得ません』
結愛のキーボードの打鍵音が、まるで裁判官の槌音のように重く響く。
『その結果、株式会社インフィニティ・ワンは「生活保護の不正受給に対する【幇助(ほうじょ)】および共犯」として警察のガサ入れを受けることになります。……我が社が黙ってそのリスクを背負うとお思いですか?』
『くっ……!?』
電話の向こうで、親父の息が呑まれる音がした。
『ルシフェルさん、補足いたします』
ここで、AIアシスタントのジェミニ先生が無機質な合成音声で追撃をかける。
『刑法第62条に基づき、正犯(お父様)の犯罪行為をほう助した者も処罰の対象となります。会社として自衛(自己防衛)を図る場合、最優先される手続きは「恐喝および不正受給教唆の被疑者」として、警察および陸別町福祉事務所へ録音データを即座に提出することです』
『さらに、陸別町福祉事務所にこの音声が提出された場合、お父様の生活保護は即座に停止、ならびに過去に遡った返還命令が下る可能性が極めて高いと試算されます』
二人の完璧すぎるコンボ攻撃。
さっきまで威勢の良かったクズ親父のダミ声が、わかりやすく狼狽え始めた。
『な……なに言ってやがる……! 俺は、ただ雪と話がしたかっただけで……!』
『言い訳は警察とケースワーカー様にお申し付けください』
結愛が容赦無くトドメを刺す。
『本日より、貴方様からの着信、ならびにメッセージの送信が一度でも確認された場合、私は即座にこの録音データを警察署および陸別町役場へ持ち込みます。……これ以上、我が社の社長と事業に関わらないことを強くお勧めいたします』
『ち、ちくしょう……! 覚えてやがれ!!』
ブツッ……! ガチャッ!
激しい吐き捨てと共に、通話が強制終了された。
「た、助かったぁぁぁぁぁ……っ!!」
俺は三万円のゲーミングチェアの背もたれに倒れ込み、全身の力を抜いた。
「すごいよ結愛! まさか全録音してただなんて! 完璧な撃退だよ! サンキューな!!」
俺が感動の声を上げると、画面の向こうの結愛が、スッと眼鏡の奥の瞳を冷たく光らせた。
『……お礼を言われる筋合いはありませんよ、ルシフェル様』
「え?」
『先ほど、「三十万くらいなら会社の金から引き抜いて……」などと恐ろしい思考回路に陥りかけていましたね?』
「ひっ……!?」
『会社資金の私的流用は、業務上横領および背任行為に当たります。……社長、後でじっくり「コンプライアンス講習(物理)」を行いますので、覚悟しておいてくださいね』
「ぎゃあああああ!? 助けてジェミニ先生ぇぇぇ!!」
四畳半のボロアパートに、親父の脅迫以上の恐怖(結愛のお説教)による社長の悲鳴が、虚しく響き渡るのであった。
コメント
1件
いやー、結愛さんまじで格好良すぎだろ……!「録音してる」「刑法何条」で一気に親父を黙らせる展開、読んでてスカッとしたわ。ジェミニ先生の補足も完璧で、二人のコンボ技が気持ち良すぎる。でも最後の「コンプライアンス講習(物理)」で社長が悲鳴あげるところ、笑った。鉄面皮の本気、めっちゃ刺さった🔥