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kaede🍁
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NIKITA
85
kaede🍁
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阿部は夢を見ていた。
目を開けた瞬間、最初に思った。
(……どこ、ここ。)
見たことのない天井。
見たことのないベッド。
ゆっくり体を起こして、自分の姿を確認する。
「……え?」
白かったであろうシャツはところどころ汚れている。
長いスカートも裾がボロボロ。
その上から、使い古されたエプロン。
どう見ても、普段の自分が選ぶ服ではない。
「何これ……。」
ベッドから降りて、部屋の中を見回す。
古い木製の家具。
小さな窓。
鏡の前には櫛が一つ。
スマートフォンはない。
時計もない。
「また夢……?」
最近何度も見ている、やけに現実味のある夢。
今回もその類なのだろうか。
ただ。
今までとは明らかに雰囲気が違った。
阿部は恐る恐る部屋のドアを開ける。
「……広。」
長い廊下。
赤い絨毯。
大きな窓。
壁には見知らぬ人物の肖像画。
少し歩けば、大きな階段。
さらに進めば、巨大な食堂。
厨房。
客間。
何部屋あるのか分からないほど続く扉。
探索すればするほど、確信に変わっていった。
(お屋敷だよね。)
そして、自分の格好。
ボロボロの服。
エプロン。
豪華なお屋敷。
阿部は廊下の真ん中で立ち止まった。
「……。」
一つの物語しか浮かばない。
(これ、シンデレラかも。)
いやいや。
そんなわけがない。
そう思いながら、もう一度自分の服を見る。
(……シンデレラだよね。)
完全にそれだった。
「じゃあ俺がシンデレラ……?」
嫌な予感しかしない。
その時。
視界の端を小さな何かが横切った。
「うわっ!」
反射的に後ずさる。
床を走っていたのは、一匹のネズミだった。
「ネズミ……。」
阿部が警戒しながら見つめていると、ネズミもこちらを見上げる。
そして。
「あべちゃん!」
「……。」
阿部は固まった。
「あべちゃんじゃん!」
「……喋った。」
「そりゃ喋るよ!」
「なんで?」
「知らない!」
妙に聞き覚えのある声だった。
阿部はしゃがみ込む。
「……誰?」
ネズミは胸を張った。
「佐久間!」
「……。」
「佐久間大介!」
「なんでネズミなの?」
「俺が聞きたいよ!」
阿部は思わず笑ってしまった。
少なくとも、一人ではなかった。
「とりあえず一緒に来る?」
「行く!」
手を差し出すと、佐久間は腕を伝って器用に登ってくる。
そのまま肩の上へ乗った。
「うわー! 高い!」
「落ちないでよ。」
「あべちゃん、俺の移動手段になって!」
「嫌だよ。」
そんな会話をしながら、二人で屋敷の探索を再開する。
すると。
しばらく歩いたところで、人の声が聞こえた。
「……だから絶対おかしいって。」
「俺に言うなよ。」
阿部は足を止める。
「この声。」
肩の佐久間も反応する。
「ふっかと翔太じゃない?」
「だよね。」
声のする方へ急ぐ。
大きな扉を開けると。
「……。」
「……。」
「……。」
三人の視線がぶつかった。
そこにいたのは深澤と渡辺だった。
しかも。
二人とも阿部とほとんど同じ格好をしている。
ボロボロのシャツ。
長いスカート。
エプロン。
しばらく誰も喋らなかった。
最初に口を開いたのは渡辺だった。
「あべちゃん。」
「うん。」
「お前も?」
「うん。」
深澤が自分のスカートを摘まむ。
「これさ。」
「うん。」
「シンデレラだよね?」
三人同時にため息をついた。
「だよね。」
やっぱり全員、同じ結論に辿り着いていた。
「でもさ。」
阿部が首を傾げる。
「シンデレラって普通、一人じゃない?」
「俺もそれ思った。」
深澤が即答する。
渡辺は嫌そうな顔で自分の服を見る。
「誰がシンデレラなんだよ。」
「三人ともじゃない?」
「そんなシンデレラ嫌なんだけど。」
その時。
阿部は渡辺の肩に小さな何かが乗っていることに気付いた。
「あ。」
「翔太の肩にもいる。」
「ん?」
渡辺の肩から、茶色いネズミが顔を出す。
阿部は軽く頭を下げた。
「こんにちは。」
「こんにちは!」
明るい声。
「康二やで!」
「……康二なんだ。」
「せやで!」
渡辺が露骨に嫌そうな顔をする。
「こいつさっきからずっと喋ってんの。」
「ええやん!」
「寂しくないやろ!」
「耳元で喋るな。」
阿部の肩では佐久間が嬉しそうに跳ねる。
「康二ー!」
「さっくーん!」
ネズミ同士が再会を喜んでいる。
「お前ら元気だな。」
深澤が呆れたように笑った。
___________
それから三人と二匹で、分かっていることを整理することにした。
「まず。」
阿部が指を一本立てる。
「ここは多分、シンデレラの世界。」
「多分じゃなくない?」
深澤が自分のエプロンを見せる。
「ほぼ確定。」
「じゃあ次。」
阿部は二本目の指を立てる。
「俺とふっかと翔太が、なぜかシンデレラっぽい格好をしてる。」
「最悪。」
渡辺が呟く。
「そして。」
阿部は周囲を見回した。
「この屋敷。」
「俺たち以外、誰もいないんだよね。」
そこで全員が黙る。
阿部は屋敷をかなり歩き回った。
深澤と渡辺も同じだったらしい。
使用人もいない。
料理人もいない。
当然。
シンデレラならいるはずの継母も。
義姉もいない。
「おかしくない?」
阿部が言う。
深澤が頷く。
「俺も思った。」
「シンデレラならさ。」
「意地悪な継母とか姉がいて、俺らが掃除させられてるんじゃないの?」
「でも誰もいない。」
渡辺が腕を組む。
「じゃあ俺ら、なんでこんなボロボロの格好してんの?」
「知らない。」
「しかも。」
深澤が辺りを見回す。
「シンデレラ三人いるし。」
「ネズミも二匹いるし。」
阿部の肩から佐久間が口を挟む。
「俺ら味方じゃん!」
「多分ね。」
「じゃあ俺、あべちゃんのドレス作る!」
「作らなくていい。」
「なんで!」
渡辺の肩から康二も顔を出す。
「俺、しょっぴーのドレス作るわ!」
「絶対やめろ。」
「黄色にする?」
「話聞け。」
深澤が笑う。
その時。
阿部はふと気付いた。
「……ねえ。」
「何?」
「ネズミ。」
「二匹しかいなくない?」
深澤と渡辺が固まる。
「佐久間と康二。」
「うん。」
「俺たち三人。」
「うん。」
「じゃあ。」
阿部は屋敷の大きな窓から外を見る。
遠く。
森の向こうに、大きな城が見えていた。
シンデレラなら。
このあと舞踏会がある。
そして。
そこには当然、王子様がいるはずだ。
「……残りのみんな。」
阿部が呟く。
深澤が嫌そうな顔になる。
「待って。」
渡辺も何かを察した。
「絶対ろくな配役じゃない。」
三人で顔を見合わせる。
佐久間だけが楽しそうに叫んだ。
「とりあえず城行こうよ!」
「嫌な予感しかしないんだけど。」
「俺も。」
「俺も。」
三人は同時にため息をついた。
継母もいない。
義姉もいない。
シンデレラは三人。
喋るネズミは佐久間と康二。
そして、遠くに見える大きな城。
物語は知っているはずなのに。
この先だけは、まったく予想できなかった。
___________
三人と二匹は、とりあえず屋敷の外へ出ることにした。
重たい玄関の扉を開ける。
目の前には広い庭。
その向こうには森が続いている。
さらにずっと先。
山の上に、大きな城が見えた。
「……。」
「……。」
「……。」
三人はしばらく黙って城を眺めた。
最初に口を開いたのは渡辺だった。
「遠くね?」
「遠いね。」
阿部も即答する。
深澤が目を細める。
「あれ徒歩?」
「無理でしょ。」
どう考えても歩いて行ける距離ではない。
「シンデレラって馬車じゃなかった?」
「そうだよ。」
「馬どこ?」
「いない。」
「詰んだじゃん。」
早くも物語が終了しそうだった。
その時。
「あべちゃん!」
肩に乗っていた佐久間が声を上げる。
「ドアになんか挟まってる!」
「え?」
振り返ると、玄関の扉の隙間に一通の封筒が挟まっていた。
阿部が取り出す。
豪華な装飾。
封蝋。
嫌な予感しかしない。
「……舞踏会の招待状。」
「やっぱりあるんだ。」
三人で覗き込む。
阿部が内容を読み上げる。
そして。
「……待って。」
「何?」
「舞踏会。」
「もうすぐ始まる。」
全員が固まった。
「は?」
「後、何時間?」
「そんなにない。」
渡辺が遠くの城を見る。
「絶対間に合わないじゃん。」
深澤もため息をつく。
「そもそも俺ら、この格好で行くの?」
三人揃って自分のボロボロの服を見る。
「……。」
阿部は記憶を辿る。
シンデレラ。
舞踏会。
ドレス。
馬車。
そして。
「あ。」
「何?」
「シンデレラって。」
阿部は首を傾げた。
「どこで魔法使いに会ったんだっけ?」
三人で考える。
「庭?」
「外じゃなかった?」
「多分。」
「じゃあ探すしかなくない?」
___________
三人と二匹で屋敷の裏へ回る。
広い庭を歩いていくと。
「……。」
阿部が立ち止まった。
「いた。」
「いるね。」
「でか。」
庭の真ん中。
明らかに世界観から浮いた大きな人影が立っている。
長い杖。
きらきらした衣装。
そして。
見覚えしかない顔。
「遅い!」
ラウールだった。
「待ちくたびれたんだけど!」
「……ラウール。」
「やっと来た!」
「何してんの?」
「魔法使い。」
堂々と言い切った。
渡辺がラウールを上から下まで見る。
「似合わねぇ。」
「失礼じゃない?」
深澤が笑いを堪えている。
「いや、でも。」
「魔法使いデカすぎない?」
「身長は関係ないでしょ。」
ラウールは三人を順番に見る。
そして時計らしきものを確認した。
「もう時間ないよ。」
「三人とも遅すぎ。」
「俺らも今起きたんだけど。」
「知らない。」
ラウールは杖を持ち上げる。
「もういい。」
「ドレスの色、俺が決めちゃうから。」
「やっぱり、淡い色がいいよね!」
「待って。」
阿部が慌てる。
「まだ何も――」
ラウールが杖を振った。
一瞬。
眩しい光が三人を包む。
「うわっ!」
「何!?」
「眩し!」
光が消える。
三人は恐る恐る自分の姿を見る。
「……。」
阿部は淡いグリーン。
深澤は淡いパープル。
渡辺は淡いブルー。
三人とも、さっきまでのボロボロの服とは比べものにならないほど華やかな姿になっていた。
ラウールは満足そうに頷く。
「うん。」
「やっぱメンカラが一番落ち着くよね。」
「そういう決め方?」
阿部はスカートを摘まむ。
「でも綺麗。」
深澤も自分のドレスを見る。
「俺、紫似合うじゃん。」
「俺これで城行くの?」
渡辺だけは不満そうだった。
「似合ってるよ。」
「嬉しくねぇ。」
阿部の肩から佐久間が身を乗り出す。
「翔太かわいい!」
「うるせぇ。」
「あべちゃんもかわいい!」
「ありがとう。」
「ふっかも!」
「俺ついで?」
少し盛り上がったところで。
阿部は大切なことを思い出した。
「ラウール。」
「何?」
「あの城までどうやって行くの?」
全員で遠くの城を見る。
「歩けないよ。」
「ドレスだし。」
「時間もない。」
ラウールは何でもないことのように頷いた。
「ああ。」
「それね。」
杖を軽く振る。
ぽん。
阿部の肩が急に軽くなる。
「え?」
隣を見る。
そこには。
普通の人間へ戻った佐久間が立っていた。
「うわー!」
佐久間は自分の手を見る。
「戻った!」
そして渡辺の隣にも。
「俺もや!」
康二がいる。
二人とも完全に元の人間だった。
阿部はしばらく二人を見る。
そして。
(……。)
(最初から人間でよかったのでは。)
口には出さなかった。
出さないことにした。
「で?」
深澤が聞く。
「佐久間と康二が人間になったのは分かったけど。」
「どうやって城まで行くの?」
「任せて。」
ラウールがもう一度杖を振る。
三人は期待した。
かぼちゃの馬車。
白い馬。
シンデレラらしい豪華な乗り物。
光が庭を包む。
そして。
そこに現れたのは。
「……。」
「……。」
「……。」
一台のワゴン車だった。
渡辺が真顔になる。
「世界観。」
深澤も耐えきれず笑う。
「普通の車じゃん!」
「便利でしょ?」
ラウールは満足そうだった。
さらに杖を振る。
今度は紙が一枚現れ、佐久間の手へ落ちる。
「何これ?」
「地図。」
「ナビじゃないの?」
「地図。」
「そこだけアナログなんだ。」
ラウールは気にせず話を続ける。
「じゃあ。」
佐久間と康二を見る。
「二人のどっちか運転して。」
「え?」
佐久間が目を丸くする。
康二も地図を覗き込む。
「俺ら?」
「うん。」
「だって。」
ラウールは当然のように、ドレス姿の三人を指差した。
「この三人、舞踏会行かないといけないから。」
阿部はワゴン車を見る。
次に。
ドレス姿の深澤と渡辺を見る。
そして魔法使い姿のラウールを見る。
人間へ戻った佐久間と康二。
紙の地図。
ワゴン車。
(……これ。)
(本当にシンデレラなのかな。)
だんだん自信がなくなってきた。
「俺運転する!」
佐久間が元気よく手を挙げる。
「じゃあ俺、地図見るわ!」
康二が助手席へ向かう。
「よし!」
「早く乗って!」
ラウールが三人を急かす。
渡辺がワゴン車のドアを開けながら呟く。
「舞踏会にワゴン車で行くシンデレラなんて聞いたことねぇよ。」
深澤が笑いながら乗り込む。
「しかも三人いるからね。」
阿部も長いドレスの裾を持ち上げながら車へ乗った。
「ねえ、ラウール。」
「何?」
「十二時になったら魔法解ける?」
「解けるよ。」
「車は?」
ラウールは笑顔で答えた。
「消える。」
佐久間が運転席から振り返った。
「絶対十二時までに帰ろう!」
「それだけは絶対!」
「帰れなかったら俺らどうやって帰るんだよ!」
急に全員が焦り始める。
ラウールは楽しそうに手を振った。
「いってらっしゃーい!」
佐久間がアクセルを踏む。
こうして。
三人のシンデレラと、元ネズミ二人を乗せたワゴン車は。
舞踏会が開かれる城へ向かって走り出した。
コメント
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お疲れ、みらさん!第1話読んだよ〜! いやもう、冒頭から「シンデレラだよね」って阿部ちゃんが冷静に自己分析してるのがツボすぎたw しかも三人全員シンデレラって設定、頭おかしくて好き。佐久間がネズミで「あべちゃん!」って叫ぶシーン、想像しただけで笑える。ラウール魔法使いでワゴン車出すギャップも最高。メンカラドレスにしたセンス、ナイス判断。 続き、めっちゃ気になる。これは毎週追うやつだわ🔥