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千尋は呆然としながら、テーブルに突っ伏した明を見ていた。
わなわなと体が震えて「フッ…フッ…」と、短い呼吸音が聞こえる。
もはや悲鳴すら出ないようだ。
「千尋。私が憎いでしょう?あなたの大切な夫を目の前で殺した私が。憎みなさい。私への憎しみで自分を満たしなさい」
この瞬間をどれだけ待ったことか。
喜びに震えながら繰り返した。
私を憎みなさい、憎みなさい、と。
「アハハハハ!アハハハハ!」
千尋は手を叩きながら笑いだした。
今度は私が呆然としてしまった。
怒るか泣き崩れるかと思ったら、この反応はなんだ?
静かなリビングに千尋の笑い声だけが響く。
「アハハハハ……すごい!本当にすごい!」
私にむけられる千尋の目には、怒りも憎しみも感じられない。
「一華ちゃん。よくできました」
千尋は両掌を胸の前で合わせて、満面の笑顔で言った。
「えっ……どういうこと?」
思わず千尋に問いかけた。
さっきまで明の愛を受け入れ、夫婦生活をやり直す未来を描いていたはずじゃなかったのか?
「もしかしてわからない?」
千尋は見慣れた笑顔で首を傾げる。
「わざと私に殺させたの?」
「正解!」
拍手する千尋を見て、自分の足場が崩れるような感覚に陥った。
私は千尋に操られていた?
千尋の反応はそうとしか取れない。
「ちょっと待って。私を操っていたと言うの?だったらいつから私を操っていたの?」
「思い出してみて。今まで私にしたこと。本当に全部自分で判断して決めてきた」
「私は……」
「思い出してみて。あなたが私に村重をあてがったこと、明さんと不倫したこと。そこから私の家庭を壊そうとしたこと。果歩と愛を殺したこと。きっかけはなんだった?」
千尋に言われて記憶を辿る。
「ごめんね。私も演技とはいえ一華に怒ってたし。こうして本音を口にするのも久しぶりだし、順を追って話すね。座りましょう」
千尋に言われ席に着く。
正面に座る千尋は笑みを浮かべて混乱している私を眺めていた。