テラーノベル
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「……お疲れ様。入って」
元貴の声に迎えられ、
若井は逃げるように301号室へ滑り込んだ。
部屋の中は、今朝見た「あの金髪の男」の気配がまだ残っているような気がして、
若井は落ち着かずに立ち尽くす。
「どうしたの? 突っ立ってないで座りなよ。
顔色、あんまり良くないね」
元貴はキッチンで手際よくグラスを用意していた。
若井は、ソファに座るのも躊躇われ、
低く、少し震える声で切り出した。
「……あの、今朝の……。
涼架、さん、でしたっけ。
……あの人、誰なんですか」
元貴の動きが止まる。
「涼ちゃん? 言ったじゃん、腐れ縁だって。
僕の歌の活動を手伝ってくれてる、
大切なパートナーだよ」
「パートナー……」
その言葉が、若井の胸を鋭くえぐる。
自分はただ、壁越しに歌を聴いて癒やされているだけの「お隣さん」だ。
けれど、あの男は元貴の「活動」を支え、鍵まで持ち、未来の話を共有している。
「……鍵、持ってるんですね。
……僕には、一晩過ごしたあとでも、
そんなものくれないのに」
「若井くん……?」
元貴が怪訝そうに振り返る。
その無垢な、すべてを見透かすような瞳が、
今の若井には残酷に思えた。
「……今日、仕事中もずっとあの人のことばっかり考えてました。ミスして、怒られて……。
自分が情けなくて。……元貴さんにとっては、俺なんて、ただの『暇つぶしの聞き手』なんですか?」
「何を言って……」
「癒やしてあげようか、なんて。
……あの人にも言ったんですか!? 誰にでも、あんな風に笑いかけて……!」
若井の叫びに近い声が、静かな部屋に響いた。
元貴は目を見開き、手に持っていたグラスをテーブルに置いた。一歩、また一歩と若井に近づき、その細い指先で若井の熱くなった頬を包み込む。
「……バカだね、若井くん。
……年下のくせに、独占欲強すぎ」
元貴の瞳は、怒るどころか、
どこか愛おしそうに潤んでいた。
「涼ちゃんは、僕が一番ボロボロだった時から一緒にいる、戦友みたいなもの。
……でも、僕が『一晩中、一緒にいたい』って思ったのは、君が初めてだよ」
「……っ、……嘘だ」
「嘘じゃないよ。……鍵、欲しい? ……なら、僕を納得させてみてよ。……昨日よりも、もっと強く」
元貴が爪先立ちになり、
若井の耳元で熱い吐息を漏らす。
今朝の嫉妬が、ドロドロとした黒い炎が、一瞬にして抗えない衝動へと変わる。
若井は、元貴の腰を折れんばかりに引き寄せた。
「……返しませんよ。……もう、誰にも」
二人の影が、月明かりの差し込むフローリングに、深く重なり合った。
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コメント
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ヤバい、イケメンすぎて、、、