テラーノベル
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窓の外では、スズメの鳴き声が聞こえる。
301号室のベッドの上、
若井は昨夜の熱を思い出しながら、
隣で微睡む元貴の寝顔を見つめていた。
「……ん、……起きたの、若井くん」
元貴がゆっくりと目を開ける。
寝起きの少し掠れた声が、若井の鼓動をまた早める。
元貴はサイドテーブルの引き出しをガサゴソと探ると、無造作に「それ」を差し出した。
「……はい。約束」
若井の手のひらに置かれたのは、
冷たくて重い、銀色のスペアキー。
「……いいんですか? 本当に」
「欲しがったのは君でしょ。
……それに、いちいち僕が開けに行くの、面倒だし」
ぶっきらぼうな言い方だけど、その頬はほんのりと赤らんでいる。
若井は、自分だけの「居場所」を認められたような気がして、その鍵をぎゅっと握りしめた。
ガチャッ。
その時、あまりにも聞き慣れた、
そして聞きたくなかった音が静寂を破った。
ドアが開く音。
そして、ズカズカと部屋に入ってくる足音。
「元貴ー! 今日の打ち合わせ、
1時間早まったから……って、うわ。最悪」
リビングに現れたのは、これまた当然のように鍵を使って入ってきた涼ちゃんだった。
上半身裸でベッドに座っている若井と、シーツに包まった元貴を見て、涼ちゃんは露骨に顔をしかめた。
「若井くん。君、まだいたの?
……っていうか、それ」
涼ちゃんの視線が、
若井が握りしめているスペアキーに突き刺さる。
「……元貴。
まさか、こいつに鍵渡したの? 本気?」
「……うるさいな、涼ちゃん。
僕の勝手でしょ。若井くんは、お隣さんなんだから」
「お隣さんじゃなくて『飼い犬』の間違いじゃない? ……若井くん、浮かれてるところ悪いけどさ。
その鍵、元貴が今まで何人に渡してきたか、知ってる?」
涼ちゃんの瞳に、冷ややかな、
けれど確かな独占欲の炎が宿る。
若井は、手の中の鍵が急に熱くなったように感じて、思わず震えた。
「……何人だろうと、関係ありません。
……今、持ってるのは俺ですから」
「へぇ、言うようになったね。……でも、音楽も知らない、元貴の『闇』も知らない君に、
いつまでその鍵が持てるかな」
涼ちゃんは元貴のベッドサイドに歩み寄り、若井を無視して元貴の髪を指先で弄んだ。
「ほら、仕事行くよ。
……『身内』だけの時間、始めようか」
若井は、自分の部屋に戻らなければならない現実と、涼ちゃんに元貴を奪われる焦燥感の間で、唇を噛み締めた。
手の中の鍵は、手に入れた瞬間に、
重い鎖のような呪いに変わった気がした。
コメント
4件
あら? 涼ちゃんがちょっとクズっぽく、、、?
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