テラーノベル
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「今まで、ありがとう」
無理をして笑う、深澤の顔が頭を離れない…
傷ついて欲しく無い…
そんな同情の様な気持ちだけで付き合うなんて、簡単に言わなければ良かった…
「………」
今更悔いても、自分のしでかした事は何も変わらない…
岩本は重い身体を引きずる様に、本日の撮影場所であるスタジオに向かって歩いていた
「?」
ふと見ると、視線の先に見覚えのある姿
「翔太?」
大きめのガラス扉を開けると、外に出られる場所がある…
広い屋上の様なその場所は、今は喫煙スペースとして使われている
そんな場所に、たった1人…
転落防止のフェンスに腕を乗せて、じっと空を見上げている【渡辺翔太】の姿があった
「おい、こんな所で何を…」
何気なく、声を掛けただけだった…しかし
何かに集中していたのだろうか
その声に驚き、ビクッと肩を振るわせて渡辺がユックリとこちらを振り向いた
「何だ、照か…」
「!」
そう言って笑う渡辺の顔に、釘付けになる
その表情は、笑顔をかろうじて保っているものの…何処か寂しげで…辛そう…
でもそれが…岩本の中で、昨晩の深澤の笑顔と重なった
「翔太…あの…」
「ちょっと、空見てただけだから…撮影だろ?もう行くよ」
撮影が始まるからと
岩本が、自分の事を呼びに来たのだと勘違いした渡辺
その顔には、もう先程の感情は一切見えない…
この仕事を長くやっていると、表情管理も上手くなってくる
良い意味でも悪い意味でも、俺達はプロなのだ…
「行こうか…」
渡辺が歩き出し、その後に続く岩本
「………」
無言のまま見つめる背中…
岩本は、最初に渡辺が振り返った時に見せた
あの寂しそうな笑顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった…
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