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愛して、『る』に情熱を

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愛して、『る』に情熱を

44 - 第44話 まぎれもないサッカーへの情熱の煌めき

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2026年03月11日

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 試合会場を去る際、水沼が進路を塞いでいた。

 足を引き摺りながら歩く朔太郎が最初に気付き、スマホを片手に幸成と談笑していた俺の背がつつかれる。

「水沼」

 その後の言葉が続かなかった。

 タンクトップにハーフパンツ姿の水沼は、筋肉で覆われた全身を震わせながら俺を見据えていた。殺気のような捩じれた空気感が彼を取りまいていた。

「おまえ……」

 ざらりとした声で水沼がゆっくりと腕をあげ、俺を指さした。その指先も、泥酔者のようにゆらゆらしている。

 幸成の隣りにいた拓真さんが俺を庇うように、一歩前に出た。

「名前を教えろ」

 横柄な水沼の態度に、幸成が怒りをぶつけた。

「てめえ、因縁つけようってのか。あんだけ汚ぇラフプレーばっかりしやがって。名前でSNS検索して、悪さしようって腹だろ。晴翔、絶対ぇ本名言うなよ。つうか、俺、こいつを殴らねぇと気がすまねぇ! 泣かす」

 朔太郎が慌てて幸成を抑えようとした、その時――

「すまん……」

 水沼が深々と頭を下げた。

 両ひざに手をやり、腰の高さまで頭が沈んでいた。その姿勢を固定させた彼は、顔をあげる素振りを見せなかった。

 突然のことに、俺たちは一時呆然とする。頭を沸騰させていた幸成から、ひゅっ、と不自然に吸い込まれた息の音が立った。首を垂れさせたまま水沼が言葉を続けた。

「完敗だ。もはや何も言えない」

 水沼の頭頂に陽があたり、髪には子供みたいな天使の輪が映り込んだ。

 ひょっとすると、水沼は、俺たちと同じ種類の人間なのかもしれない。言動や態度こそ褒められるべきものではないかもしれないが、根っこはサッカー小僧なのだ。

 サッカーが好きで、サッカーで勝ちたくて、そのために、サッカーに情熱を注いでいる。情熱を出し切って負けたからこそ、今こうやって、素直に頭を下げてきた。そういうヤツなんだろう。

「岬晴翔」

 手を差し出した。気配を察知した水沼は、俺の手を見、段々と顔をあげ、俺の目を直視した後、がっちりと手を握り返してくれた。

「水沼武尊だ」

 拓真さんや幸成、朔太郎とも、水沼は握手を交わす。そこにあったのはお互いの健闘をたたえ合った、まぎれもないサッカーへの情熱の煌めきだった。

〝また、いつかピッチで戦おう〟

 そのいつかが来た時、今度こそは、俺はペナルティキックではなく、プレーの流れの中で水沼からゴールを奪いたい。


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