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図書室は静かだった。
薄く陽が射し込む窓辺、
机に突っ伏して眠るネリネの横に、
ジェイドが静かに座っていた。
ページをめくる音、時折響くペン先の音。
そのすべてが心地よい、午後の音楽のようだった。
「……ふふ」
ジェイドはそっと笑う。
ネリネの前髪が、呼吸にあわせてゆらゆら揺れていた。
「ほんとうに、よく眠りますね。貴方は」
ふと、ネリネのまぶたがわずかに動いた。
薄く目を開けて、ジェイドを見上げる。
「……見てたの?」
「ええ。起こそうかと思いましたが、あまりに気持ちよさそうだったので」
「……夢、見てた。へんなの。ジェイドが……泡の中にいた」
「僕が? それは奇妙な夢ですね」
「そう。でも……ちょっと、寂しくなった。……なんでだろ?」
自分でもよくわからないまま、そう言葉に出していた。
ネリネは再び目を閉じ、頭をジェイドの肩に寄せる。
「……ねぇ、ジェイド。キミって、誰にでもやさしいの?」
ジェイドは少し驚いたように、だがすぐに表情を戻した。
「どうでしょうか。少なくとも、あなたには特別かもしれませんよ」
その言葉に、ネリネは少しだけ目を細める。
「……そういうの、ずるい。ボク、わかんなくなる」
「それは……いけませんね。僕のせいでしょうか」
「うん、たぶん全部キミのせい」
まるで夢の中の会話のように、言葉がふわりふわりと交わされる。
けれどその中には、確かに何かが
――まだ名前のない感情が、宿っていた。
放課後、廊下の影でネリネは
ルーク・ハントに呼び止められる。
「やあ、ブルー・シレーヌ。今日も魅惑的だね。
あの無表情の奥に秘めた、ひとしずくの感情
……それは恋、ではないかい?」
「……なにそれ、詩人ごっこ?」
「ふふ、違わないけれど違うよ。
私は、そして君の心の物語を追う者さ」
「やめて、気持ち悪い。過干渉、嫌いなの…!」
「その割に、顔が少し赤いようだけどね♪」
「っ……うるさい」
足早に歩き出すネリネの背中を、ルークは楽しげに見送った。
——泡の中で、少女はゆっくりと恋を知る。