テラーノベル
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「っ……ハックション!!」
自分の教室の窓際、派手なクシャミの音と共に、俺は思わず身震いをした。
窓の外に目をやれば、ついこの間まで赤や黄色に染まっていた木々はすっかり葉を落とし、冷たい風が吹き抜けている。季節はもう、完全な冬だ。
まだ11月の終わりだというのに、街中は気が早いと言わんばかりに煌びやかなイルミネーションで装飾され、さっそく世間は浮足立ったクリスマスシーズンに突入している。
そして最近の俺は、すっかりここが少女漫画の世界であることを忘れてしまいそうになっていた。
なぜなら__あのメインヒーロー様が、現在、俺の“彼氏”だからである。
秋のあの日、花火の爆音に紛れて「好きだ」と告白し合ってから数週間。未だに朝起きて「如月律と恋人同士になった」という現実を思い出すたび、俺の心臓はいまだ耐性ができていない。
「宏斗、寒い?」
「んー、ちょっとだけ」
「俺も寒い」
そう言って、暖を取るためか、くっつく口実なのかは分からないが、律は俺を包むように抱きしめた。
鳴りやまない自分の鼓動に気づかぬふりをして、律の胸に顔を埋める。
「どうしたの、宏斗」
「別に」
「んー、かわいい、好き」
正直自分でも信じられないくらい俺も律が好き。大好きだ。
あいつの寂しそうな顔を見たくないし、あいつの長い指先が俺の肌に触れるたび、頭がおかしくなりそうになるくらい愛おしいと思っている。
それでも。それをまっすぐ言葉にして伝えられないのが、俺の悪いところ……だと思っている。
男同士だからとか、そういう言い訳を脳内で並べては、結局「俺も」の一言すら恥ずかしさに負けて飲み込んでしまう。律はいつも言葉をくれるのに、俺は何も返せていない。このままじゃ、あいつの底なしの独占欲を不安にさせてしまうんじゃないか。
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如月律side…
「部長、最近宏斗の様子がおかしいんですけど」
「へっ!?そうかな???」
「絶対何か隠してますよね」
「ぼ!僕は何も知らない!」
「俺の知らないところで二人だけの秘密ってやつですか?」
放課後、俺は今日も部長にギターを見てもらっているけれど、いつもより集中力というか…やる気が無かった。
理由はそう______
「宏斗、最近ずっと放課後になると逃げるように帰って、お前は部長にギターを見てもらえって言うなんて…明らかに手組んでますよね?」
「ちょっと如月くん!それは考えすぎだよ!」
「……」
「怖いからせめてなにか言ってくれる!?」
俺がなにか気を障ることをしてしまったのか……いや、もしそうであれば宏斗はすぐに言ってくるはず。じゃあなんだ…他に好きな人ができたとか…
「俺、今日は帰ります」
「え!?如月くん!?ちょっと!」
後ろから必死に呼びかける部長の声を完全に無視して、俺は音楽室の扉を勢いよく開け放ち、夕闇の廊下へと飛び出した。
冷たい冬の風が、校舎の窓から吹き込んできて白銀の髪が眼にかかる。手袋をしていない指先が、怒りと、それ以上の「恐怖」で微かに震えていた。
もし、宏斗が別の人を好きになったなんて言った時には……その時は、手段を選ばずにあの人を閉じ込めてしまうかもしれない。
自分の内側でどす黒く渦巻く独占欲を必死に抑え込みながら、俺は余裕もない情けない顔で、今はひどく遠く感じる家路へと急いだ。
「……っ…はぁ…はぁ…」
柄にもなく、こんな空気が冷たい中で必死に走って顔を赤くしている自分が我ながらおかしかった。それでも、誰かをこんなに好きになれる感情を肌身で実感できることがなによりも嬉しかった。
呼吸を整えて、インターホンに指を向けたその時だった。
「うわっ!なにしてんの!」
「…っ…ひろ…」
ダボダボの服を着て、ピンで前髪を上げている宏斗は、息を切らして顔を真っ赤にしている俺を見て言葉を失った。
「おま…顔真っ赤じゃん」
「うん」
「おいっ…!顔つめた!」
「走ってきた」
「見れば分かるわ!」
宏斗は慌てたように、自分の着ているブカブカの袖を使って、俺の冷え切った顔を優しく包み込むようにして温めてくれた。困ったように笑いながら、細い指先で俺の前髪を優しく分け、赤くなった鼻の頭をいたずらにつつく。
あぁ……これだ。
宏斗のこの優しい表情、俺だけを映す瞳、触れる温もり、その全てが愛おしくて、愛おしすぎて、胸がギチギチと音を立てて押しつぶされそうになる。
「とりあえず、さみーから家入れば?」
「……っえ」
「風邪ひかれても困るし…」
そう言う宏斗の顔は、俺と変わらないくらい顔を赤らめている。俺は、抑えきれないにやけを必死に隠して宏斗の言葉に甘えた。
「お邪魔します」
部屋中が宏斗の匂いに包まれて、鼓動が自分の脳裏にまで響いてくる。
「前から思ってたけど、宏斗って一人暮らしなんだね」
「えっ…あー、うん」
分かりやすく目を泳がせる宏斗に、俺はそれ以上なにも聞かなかった。事情は色々あるのは分かっているし誰にだって聞かれない事はある。
けれど____今回は話が違う。
「宏斗」
「ん? どうした。ってかお前、急に……っ!」
ガシッ、と宏斗の手首を力強く掴み、引き寄せていた。
自分でももう、この溢れ返る衝動を抑えることができなかった。
「俺のこと、好き?」
「……っはぁ!? 急にどうしたんだよお前!」
驚いて顔を跳ね上げる宏斗。
あぁ、好きで、好きで、頭がおかしくなりそうなくらい仕方がない。だからこそ、少しの隠し事だけで、世界がひっくり返るほど不安になるんだ。
初めて出会った、俺の心を動かした人。
やっと手に入れた世界でたった一人の、俺の恋人。
その手首から伝わる熱い体温を確かめるように、俺はさらに強く指先に力を込めて、宏斗の瞳の奥をじっと見つめた。
「なにか、隠し事してない?」
「……っ」
その瞬間、宏斗の息が詰まった。
あからさまに泳ぐその瞳を見た瞬間、俺の全身の血の気がサーッと引いていく。やっぱり、何か隠している。俺の恐れていた最悪の確信が、冷酷な現実となって胸を突き刺した。
「部長とも、手組んでるよね」
「そっ……それは……っ!」
図星だと言わんばかりに言葉を詰まらせる宏斗。そんなに俺に言えないことなのか。そんなに、部長とは共有できて、俺には踏み込ませてくれない秘密なのか。
「なに……もう、俺のこと好きじゃなくなった?」
自分の口から出た言葉なのに、その最悪な答えを聴くのが怖くて、俺は情けなくも宏斗から目を逸らしてしまった。
世界で一番手に入れたかった特等席。それが指の隙間からこぼれ落ちていくようで、俺の指先は微かに震えていた。もはやそんな自分に笑えてくる。
ぐちゃぐちゃに渦巻く黒い感情をどうにか堪えようと、奥歯を噛み締めた、その時だった。
「……っ!?」
視界が、一気に宏斗の香りで満たされた。
引き剥がされると思った…拒絶される覚悟すらしていた。なのに、俺の身体を襲ったのは、骨がきしむほどの強烈な力で抱きしめられる衝撃だった。
「ひろ……と……?」
「俺は……っ!」
宏斗は俺の問いかけを遮るように、必死な歪んだ声を出して、俺の首筋に深く、深く顔を埋めてきた。ドクドクと、抱き合っている胸の隙間から、宏斗の狂ったような心臓の音がダイレクトに伝わってくる。
「律のことが、誰よりも好きだから……っ」
その、泣き出しそうな告白が、俺の耳元から脳の奥へと真っ直ぐに突き刺さる。
その腕の強さと、首筋にあたる熱い吐息だけで、俺の脳内を支配していたどす黒い霧が一瞬できれいに吹き飛んでいった。
あぁ、やっぱり、俺はこの人には一生敵わない。
#コメディ
#兄弟
コメント
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第17話読んだよ〜!律くんの不安と独占欲がめちゃくちゃ伝わってきて胸がギュッてなった😭 でもそれに対して宏斗が「誰よりも好きだからっ」って全身で抱きしめ返すシーン、最高すぎて叫んだ!!冬の寒さと温もりの対比がエモい…ふたりの想いの強さが尊すぎて、続きが気になりすぎるよ〜!!💕✨