テラーノベル
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家族の話とか出てきますが、あくまで架空の話です。本人様とは一切関係ありません!
放課後、僕は下校中に昼休みの出来事を思い出して深くため息を吐いた。結局自分の教室に戻れたのは授業が始まる5分前だった。なかなか戻って来なかったことにまひちゃんは心配していた。笑顔を作り大丈夫だよ、ごめんね待たせてと謝罪をした。
今日昼休みにまひちゃんとジェラート屋さんへ行こうと約束もあったが急用が出来たと言い断ってしまった。本当は急用なんてない。ただ、1人になりたかったから、まひちゃんに嘘をついた。悪いことをしたと自覚はありつつも今日の出来事を話してしまいそうで。幼馴染の男の子に恋をしていて失恋してしまったなんて…到底、話せない。
この気持ちと思い出は僕の中で奥深くしまって忘れていくしかない。忘れなきゃ、もう。
昼休み以降ばぁうくんは教室に戻ってくることはなかった。周りからすればまたサボりか。とそれが日常のように過ぎていくだけ。でも僕はサボってくれて良かったと内心ホッとした。ばぁうくんの顔を見たら気持ちが溢れそうで、まともに授業なんて受けれなかったかも。
帰っている途中の公園で小学生くらいの子どもが一緒に遊んでいる姿が目に入る。無邪気で現在を楽しく自由に生きているようで思わず小さく笑みが溢れた。
『……』
『てると?どうしたの、怖い顔して?』
『…最近よくクラスの男子に女顔ってからかわれて……』
『ふーん、確かにてると可愛い顔だもんな』
『……ばかにしないで…。』
『してない!してない!ごめんって…でも、可愛いのは事実だけと、笑。』
『…このままじゃ。僕。大きくなってもずっと1人かも』
『え???なんで?』
『だって女の子はさ、ばぁうくんみたいなカッコいい男の子が好きな子が多いだろうし。女子みたいな僕のこと好きにならないと思う…。』
『んー…?よく、分かんないけど。』
『はぁ…。』
『でもそれならさ…俺は嬉しいけど。』
『…え?』
『………そしたら、てるととこれからもずっと遊べて一緒に居られるじゃん。』
『そんなこと言って、ばぁうくんだって好きな女の子作ったらずっとは居られないでしょ?』
『……ならない。』
『…どうして?』
『…どうしても!』
『あっ、ちょっとばぁうくん!なんで逃げるのー!待ってよー!』
ばぁうくんの横顔は気のせいか頬が紅潮しているように見えた気がした。でも理由はその後も教えてくれず仕舞いだった。
あの頃の僕たちも無邪気で一生友だち関係として続いていくものだと自然に思っていたのだろう。
昼休みの終わりのチャイムが鳴った後、俺はいつものように授業をサボっていた。場所は特に決まってないがよくこの学校の屋上で寝転がって空を見上げながらサボっていた。まあ、こんなの繰り返してたら留年もするよな。と自分でも納得している。去年は上級生に自分のこの見なりに目をつけられて喧嘩沙汰にもなった。かなり荒れていたと思う。
小学生の高学年あたりから親同士の仲は悪かった。2人が揃う時はほぼ何かの言い合いをしてたし、それか完全無視か。俺はその空気が耐えられずよく外を飛び出していた。そして中学生に上がる前に親が離婚してた。引き取った母親は生活力がなくほとんど家には居らず別の男のところに行っていた。1日分くらいの食費を机に残して。そしてある時、いくら待っても帰ってこなかった。
父親に連絡して一緒に暮らす様にはなったが仕事が忙しくてほとんど家に居ることはないからほぼ一人暮らしのような生活を送っている。父親が高校に行かせてくれたことには感謝を伝えるのが普通かもしれないが心底どうでも良かった。今更他人と関わりたくない。向こうから避けてくれた方が気楽で良い。たまに好意を寄せてくる女が寄ってきたら、適当に相手してるがそこから男女交際に持っていくのは全く望んでいない。
生きてきて楽しいことなんて、今まで、
「………」
『良かったな、お母さん見つかって!』
『うん…!ありがとう』
『…じゃ、俺は帰るから』
『あっあのさ…!』
『?』
『あ…の、名前教えて、くれる?』
『えっ』
『えっと!助けてくれたお礼も改めてしたいし!なんて言うか、ぼく、君と居て楽しかったていうか…』
『…』
『……あっ。明日もあの公園で待ってたら君に会えたり…する?暇だったら、遊ばない…?』
『…ははは!笑 必死すぎ!』
『〜っうるさい!』
『………ばぁう』
『え?』
『…俺の名前。』
『じゃあ、ばぁうくんって呼んでいい?』
『うん…てか、君の名前まだ聞いてない』
『ぼくの名前は…』
あの頃だけだ。俺が心の底から楽しいと思えたあいつとの時間。迷子になったあいつを初めて見かけた時、本当は話しかけるつもりはなかった。でも、俯いて泣いている姿が目に入ると両親の喧嘩中の時に部屋に閉じこもって泣いている俺と重なったんだ。だから、つい声を掛けてしまった。
放課後になると初めて出会った公園で一緒に遊んだり時々あいつの家にお邪魔してゲームをしたり。一緒に過ごす時間が増える中、あいつの表情がころころ変わる姿、俺の名前を呼ぶ声、優しくて思いやりがある性格、その全てが俺にとって特別だった。
新学期初日、遅れて教室に入った俺は目を疑った。
奥の窓際の席に座っていたのは成長したお前だった。俺は、ゆっくり前進して隣の席に着くとさらに距離が近くなって、つい話しかけてしまった。
「なあ、ペン持ってる?」
持っていない振りまでして、お前に話しかけていた。こちらと目が合った瞬間、俺の鼓動が早くなり気持ちが一気に溢れ出しそうになった。
会いたかった。ずっと、後悔してた。忘れたことなんて一度もない。
でも、俺がお前の名前を呼ぶことはなかった。
もう、あれは過去だ。
あの頃の感情を今も抱いていたとしても、お前には関わらない。
「…あいつ、また可愛くなってたな。」
さようなら、俺の特別。
続く。
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