テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
結局、今日の午後の授業は出なかった。というのもあのまま屋上で寝落ちをしてしまい気付けば夕焼け空が混じり校庭からは生徒たちの声が部活動に励んでいる声が耳に届いた。
そろそろ帰るかと思い立った時制服のポケットから振動を感じパッとスマホを取り出す。すると、何件かLINEが届いていた。ただの公式のお知らせとお節介なそうまからのメッセージ。最新のLINEでは今日相手してた女子生徒からのものだ。「放課後、ひま?遊ぼ♡」と何とも積極的な内容だ。その前のLINEでは「何で無視ー?」とか「連絡してー寂しい」とか…
「…めんどくせぇ」
顔可愛かったし、まあ、遊びだし。でもこういう風に求められ過ぎると逆に萎える。このまま続けると付き合う付き合わないの流れに持っていかれそうだし、と既読スルーをしてスマホを仕舞い屋上を後にした。
校舎を出ると最寄り駅へと向かった。駅への道中は会社員の格好をした大人や学生同士が歓談しながら楽しそうに歩いている人など様々だ。人を避けながら道を歩いていると、近くのコンビニを通りかかりすぐ隣に細い道があって複数人入っていく姿が目に入った。見た感じからするとガラが悪そうな奴らで複数の中の1人は同じ制服の格好をしていた。
……面倒なことは、関わりたくない。
俺はコンビニの前を素通りしようとしたが、途中足が止まる。
「………はあ。」
細い道に足を向け進んでいくと、少し広い場所に出たが先は行き止まりでその奥で私服を着た男たち3人が男子生徒を取り囲んでいる光景が見えた。
「お、お金持ってないです。」
「んあ?そんなお前、一銭も持ってない訳ねーだろ?」
「嘘はいけねぇよなー?嘘は」
「痛い目に遭いたくなけりゃ、さっさと出せよ」
「そっ…そんなぁ…」
男子生徒は今にも泣き出しそうな顔で怯えている。3人がかりで学生1人を追い詰めようとしている姿は大の大人がみっともないと思うのは俺だけだろうか。自分より弱そうな人間から1人ならまだしも集団で取り囲んでのカツアゲは見てて呆れる。
「本当くそだせぇ。」
「あ゛あ?なんだお前?」
「このガキの連れじゃね?」
3人からの視線が一気に俺の方へと集められた。
「いや、だからさ、おっさん達のやってる事マジで幼稚だなぁって」
「…てめぇ、舐めてんのか?」
「子ども相手にさ、こんな集団でカツアゲって笑…そんなんで偉そうにしてんじゃねぇよって話」
完全に男達から怒りを買ったばぁうは1人の男によって胸ぐらを掴まれて睨み返される。他の2人も詰め寄ってきている。その隙に取り囲まれていた男子生徒は入ってきた路地裏の細道を抜けて慌てて逃げ出した。やれやれ。何でこんな人助けみたいなことをしてしまったのかと。自分に対しても呆れていた。
世間の大人は子どもに対して上から目線の態度で正当的な言葉ばかり並べて自分が正しいかのように語ってくる。力のない子どもはそれに黙って従うしかない。子どもの気持ちに耳を傾けようとせず、全ては大人の都合で振り回される。
「おい、赤髪のガキ、覚悟出来てんだろうな?」
男が俺の顔を一発殴りにかかろうと腕が挙げられる。また暴力沙汰を起こしたら謹慎処分になるかもしれないと頭によぎったが、まあ正直どうでもいい。寧ろ退学という烙印を押してもらった方がこの際良いのかもしれない。と頭の中でぼーっと考えていた。
「はぁうくん!!」
頭の中に俺を呼ぶ声が響いた。幻聴、か?
ばぁうはその声がする方向へと目を向けると其処には居るはずのない彼が立っていた。彼は怒っているような、泣き出しそうな、必死な表情をしていて。背負っているリュックの前紐を両手ぎゅっと握って震えていた。
「おいおい、また新しいダチか?」
「ったく、何なんだ次から次へと」
「今ねー?この赤髪が生意気なこと言ったから、お兄さんたちが説教してるのー、だから邪魔しないでくれるかなー?」
俺はまだ目を疑っていた。一瞬子どもの頃の時の姿が幻覚で見えた気がした。が、其処に立っていたのは子どもではなく成長した紛れもない彼だった。男たちの前で怯える様子を必死に隠そうとしながら一歩も下がらず立っていた。
「あの…こんなことやめてください…!もし、殴ったりしたら、警察呼びますっ」
「…どいつもこいつと舐めやがって」
「でも、なんかこいつ顔可愛くね?」
「ちっ、そこの女男も痛い目に会わなきゃ分かんないようだな?」
1人の男が彼に近づき、腕を掴んだ瞬間、ばぁうの中でプチンと糸が切れたような音がして胸倉を掴んでいた男の手を掴み取って捻り出した。痛い痛いと男が半泣き状態で痛みを訴えたいるが、俺は冷たい目で男を見て投げ飛ばした。それを見てばぁうの近くにいた男が殴りかかろうと迫ってきたが、相手の腹に目掛けて拳を強く叩き入れた。痛みと苦しさで腹を抑えながら蹲っている男を素通りして、彼に近づく。
「てめぇ!!」
「うるせーよ…つかお前のその汚い手でてるとに触るんじゃねぇよ」
ぎりっと男を睨みつける表情は殺気立っていて、それに男も急にばぁうを見る目が恐怖に変わっていく。ばぁうが男に殴りかかろうとした途端男はてるとから手を離して路地裏の道を急いで戻り、やられた2人も男に続いて走り去っていった。ころっと態度が変わって逃げる男たちの姿と急な展開にてるとも目を丸くしていた。そして同時に安堵してその場でへたり込む。助かったと胸を撫で下ろしているとばぁうがてるとの手を取り、それに対しててるとも握り返して立ち上がる。
「……こっち。」
ばぁうはてるとの方を振り返らずただ手を握ったまま歩き出す。てるとはそれに続いてばぁうについていく形となった。路地裏の細道から出た先もずっと手は握られていて、てるとは何か話しかける余裕がないくらい心臓がドキドキ脈打っていた。
てるとって名前で言ってくれてた…
僕のこと、本当は覚えてた…?
で、でも、同じクラスだからたまたま知ってただけかも…
いや!じゃあこの手は!?
なんでずっと手繋いでるの…!?
き、期待しちゃうよ、こんなの…
ぐるぐるぐると色々な思考が頭の中で駆け巡っていると近くの公園が見えてきた。夕日も落ちて少し薄暗くなってきたためか、遊んでいる子どもは誰も居らず人気がない静かな公園だった。公園の中を歩いていると急にばぁうの足が止まり、同時にてるとの足も止まる。お互い話さないままの時間が少し流れた。
「……なんで、あそこに来た?」
「…いや、なんか近く通ってたら、見かけた気がした、から…」
「それは、」
「ばぁうくんが、見えた気がして。」
「……」
「そしたら、ばぁうくんが知らない人たちに囲まれてて。思わず……」
「…余計なことに首突っ込むな」
「…っ」
「……怪我は?」
「な、いよ…それよりばぁうくんの方が…」
「見せて」
ばぁうが男から握られた側の腕を見ようと、てるとの制服の袖を捲り腕を見る。てるとは顔が赤くなる感覚を必死に抑えようとするが、ばぁうの姿が目から離せない。怪我一つないことを確認できて安堵するばぁうはてるとの方を見ると目がばっちりと合い思わず腕を離して後ろを向く。
「…家どこ?送る。」
「………前と、変わってないよ?」
「…っ…」
「…ばぁうくん、僕、気づいてたのに…気づかない振りしちゃってた…ごめん。…な、なんか!ばぁうくん、僕のこと忘れてるかも!て思うと、その、怖くてさ笑」
「…」
「僕、昔、ばぁうくんと子どもの頃遊んでたことあるんだよ?…ぼくは」
「てると」
「……えっ」
「…忘れる訳ないだろ。」
僕のこと、覚えててくれてたんだ。
嬉しい。
すごく、嬉しい。。
「…悪い、俺も気づかない振りしてて。」
「ううん…」
「でも子どもの頃の俺とは違うっていうか、嫌なやつになってると思う…だから、あんまり関わるのは止めようって思ってさ…」
「確かに…なんか不良みたいになったね。…でも、優しいところは変わってないよ」
「…は?」
「だって、さっきのカツアゲされそうな男の子を助けてあげてたし」
「いや、あれはたまたま…」
「僕のことも、助けてくれたでしょ?子どもの時もそしてさっきも」
てるとはばぁうの手を取って微笑んだ。
「ありがとう、ばぁうくん」
手から伝わる温かさを感じながらてるとの優しい笑顔を見て思った。
「…やっぱ、可愛いな、」
「……ええっ!?」
「あ、やべ。心の声が。」
「可愛いって何!」
「…まあ、嘘は言ってない」
ちょっとばぁうくん!とてるとが頬を膨らませて怒ったいる姿に思わず少し笑ってしまう。最近笑えるとこなんて一つもなかったのに、てるとの前になると自然と表情が緩んでしまう。ああ、また加速してしまいそうになる。心の何処かでブレーキをかける。
「つか、暗くなってきたし、ほんと送るわ」
「男だし、1人で帰れるよ?」
「…念の為。さっきの連中の奴にも可愛いって言われてたじゃん」
「…それは…」
「ほら、帰るぞ」
「…あ、待ってよ、ばぁうくん!」
てるとの帰る方向にばぁうが先頭して歩きその後ろに着いていく。ばぁうと昔みたいに話せたこと出来てさっきまで落ち込んでいたことが嘘のように心が軽くなったてるとであった。止まった2人の時間がようやくまた動き出したのだ。
続く。
少女漫画のような甘酸っぱい青春ストーリーみたいなの大好きなんです、はい。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!