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「主様、早く行こうよ! ボク、昨日からずっと楽しみにしてたんだ!」

「ダンゴ、マスターをあまり急かしてはだめですよ」

「そうですよ~? お店は~逃げませんから~」


私の手を引いて、ツインテールにした髪を揺らしながら歩くダンゴが振り返る。

その顔には満面の笑みが浮かんでいた。


ダンゴが進化してから早5日。プラティヌムの街へ向かいつつも、魔泉の乱れがあればしっかりと治めていく。

アエスの街の異変以降、さらに2ヶ所の魔泉の乱れを治めた。

とはいっても、どちらも魔泉の規模も乱れも小さかったので特に苦戦することもなく終わる程度のものだった。

だがそろそろしっかりと休みたいとは思っていたので、今日は依頼も何もしない休養日と決めて、ショッピングを楽しむことにした。

それを伝えた昨日の夜からダンゴはそわそわとしていた。どうやら欲しいものがあるらしく、まずはそれが買える店まで行きたいらしい。

キラーアント・クイーンを倒したことで私たちの懐は温かい。お金の心配をする必要はないだろう。

自由に動ける体を手に入れたダンゴは元々の好奇心のままに動き回るので、私たちは振り回されることが多い。

賑やかなので、これはこれでいいとは思っているが。


さて、長い栗色の髪をツインテールにまとめているダンゴだが、実は昨日まではまた違う髪型だった。

活動的なダンゴはあの非常に長い髪を鬱陶しく感じているようで、進化した初日から相談を持ち掛けられていた。

今となっては朧気な記憶となってしまってはいるが、肩にかかるくらいの長さしかないコウカの髪も進化した初日は腰の下くらいまで伸びていた。

それが進化した次の日には、すでに今の長さだったので今の髪型のほうが馴染み深くなっているのだ。

それは少しショックではあったので、ダンゴは髪を切る前に相談してくれてよかったと思う。

邪魔だから即切ってしまうというのはやはり勿体ないと思ってしまうのだ。


それはさておき、相談を受けた私がダンゴに提案したのは髪をまとめるという方法だ。

どういう髪型が良いかとかはダンゴ自身、全くわからないようなので毎朝違う髪型を私がセットしてあげている。

そんなことを毎日続けていると、何故かノドカがダンゴの髪をセットする私の手元を覗くようになっていた。

なんでも最近は進化したダンゴとの触れ合いが減って寂しいらしく、ダンゴとの時間を作るために髪型を整える勉強をしようと思ったからなのだとか。

私としては別にノドカに代わってもらっても良いと思うのだが、それとは別にしてあの子はダンゴの髪を整えようとする前に自身の髪を整えたほうがいいと思っている。

あの子の髪は元々少し癖がありウェーブ掛かっているのだが、それに加えて寝癖のせいで髪の跳ね上がりが酷いのだ。


「ねえ主様、着いたよ?」

「えっ? あ、ほんとだ」


髪型について考えていたら、お目当ての店の前まで来ていたようだ。

今回、ダンゴに手を引かれながらやってきたのはアクセサリーショップだった。


「良いのがあるといいね」

「姉様たちみたいにピッタリな髪飾り、ボクのもあれば嬉しいな」


店内を練り歩くダンゴが探しているのは、髪飾りだ。

コウカには向日葵の髪飾りを、ヒバナとシズクにはそれぞれ炎と水を象った髪飾りを贈っている。

それがダンゴには羨ましく映るらしい。


「別に羨ましがるほど良いものでもないわよ」

「でもひーちゃんってば、ちゃんと毎日付けてるよね」

「し、シズが毎日付けてるからでしょ! 私はそれに合わせてるだけ!」


ヒバナがシズクの言葉を強く否定するが、私としては理由がどうであれ贈ったものを毎日付けてくれているのは嬉しい。

2人がそんなやり取りを続けている間もダンゴは店内を隈なく探しているが、中々お眼鏡に適うものは見つからないらしい。

あの子には決して言うつもりはないが、こればかりは少し仕方のない部分があるだろう。

ダンゴが羨んでいるコウカたちの髪飾りの傾向から考えると、あの子が欲しいのは地属性を連想させる髪飾りだ。

ゴツゴツした岩とか、泥団子っぽい髪飾りというのはちょっと想像できない。

だが意外なことにも、すぐにダンゴから呼び掛けられることとなった。


「見つけた。ボク、これにする!」


本当にあったのかと信じられないような気持ちで見に行こうとすると向こうからもこちらに駆け寄ってきた。

彼女が持っているそれは――リボンだろうか。

よく見せてもらうと、茶色い山の形をした飾りが付いているリボンだった。

――本当にあった。

未だ信じられない気持ちではあるが、同時に安堵したのも事実だ。あの子が落胆した姿は見たいものでは決してない。

まあ、ダンゴの気に入るものが見つかってよかった。

果たしてこの飾りは需要があるのだろうか、という疑問は置いておこう。


しかし、あの子が見つけたのはリボンか。どうにか髪型にも活かしてあげたいものだと思う。

――そういえば、まだあの髪型を試していないな。

あれならダンゴも絶対に気に入ってくれるだろう。少し明日が楽しみになってきた。


「ボク、買ってくるね!」

「あ、ちょっと待ってダンゴ」


早速、手に持ったリボンを持っていこうとしたダンゴを慌てて引き留めた。

首を傾げながら私を見上げるダンゴに対して腰を折り、目線を合わせる。


「そのリボン、私からダンゴにプレゼントさせてくれないかな」

「どうして? 自分のお金なら持ってるよ?」

「うん、そうだね。でもね、コウカとヒバナ、シズクには私から贈ったからダンゴにも何かを贈ってあげたいなって思ったの。駄目かな?」


こちらからそう問い掛けると、彼女は次第に目をキラキラと輝かせはじめた。


「……うん! ありがとう、主様!」


そうしてダンゴからリボンを受け取ってお金を払いに行こうとした私だったが、不意にノドカにも何か買ってあげたいなと思ったのでもう少し店内を物色してみることにした。

どうせ寝れば乱れるからと身嗜みを整えることを面倒くさがるノドカも何か装飾品を持っていれば変わってくれるのではないかという期待も込めて、少し買ってみようか。

――うん、結構楽しいな。


こうして様々なアクセサリーを見繕って満足した私が今度こそレジに向かおうとした時、あるものを見つけてしまったがために足を止めてしまう。


「綺麗……」


私の目を惹いたのは、三日月の飾りが付いた髪飾りだった。

ただのシンプルな髪飾りだったが黒に――夜の空に映えそうな輝きを持っていて、どうしようもなく惹かれた。







「はい、ダンゴ」

「ありがとう、主様! ボク、ずっと大切にするね!」


個包装してもらったリボンをダンゴに手渡すと、彼女はそれをギュッと抱きしめてはしゃぎはじめる。


「明日はそのリボンで髪を結ぼっか」

「ほんと!?」


目を輝かせたダンゴに抱き着かれる。

彼女は「ありがとう!」と言いながら、頭をぐりぐりと私の胸に擦りつけてくる。

全身でこれでもかというくらい好意を表現してくれるダンゴの頭をそっと包み込み、撫でていると横合いから少女の顔が視界に飛び込んできた。


「お姉さま~わたくしも~欲しいものがあるの~」

「ノドカも?」


ノドカが物を欲しがることは今までになかった。さっき買ったのは私が勝手に買ったものだから違うし。


「ダンゴちゃんが~進化しちゃって~手持ち無沙汰~? みたいな~感じなの~」


ふわふわと空中で寝そべっているノドカが手振りを交えて説明する。

前まではダンゴを抱いていたが、進化して人型になったダンゴを布団の上ならまだしも空中で抱いておくわけにはいかない。

――それにしてもこのふわふわ浮いているの……いつもすごく目立っていて恥ずかしいんだよね。


「こう~眠るときに~ふわふわと~抱き着ける感じのが~いいの~」

「……抱き枕ってこと?」

「それです~抱き枕~」


ノドカの要望を追っていくと、抱き枕に行き着いた。

余程高級品でもなければ高いものでもないだろうし、別にいいのではないかと伝えたところ、買ってくれとお願いされた。

みんなには自由に使えるお金をあげているはずなのだが……それでノドカに喜んでもらえるのなら買ってあげてもいいか。

この子の為に買ったアクセサリーは私の自己満足のようなものだし、明日の朝に贈ろうと思っているので今はまだ一度もノドカには何かを買ってあげたことがない。


そんなわけで家具屋の寝具コーナーで抱き枕を買うことになった。しかも、ノドカの要望でそれなりに良いやつを。

彼女は抱き枕を抱きしめ、こちらにお礼を告げたかと思うとそのまま寝てしまった。……別に喜んでくれたみたいだからいいんだけどね。




その後は少し買い食いをしてみたり、ダンゴの衣服を買いに行ったりした。

みんなより体の小さいダンゴでは、新しく買わないと服のサイズが合わなかったためだ。進化した次の日に急場凌ぎとして適当に見繕ったのだが、どうせなら好みに合ったものがいいだろう。

そうして服を選んでいる最中にシズクが本を見に行きたいと言ったので一旦別れ、宿屋で合流することになった。もちろん彼女にはヒバナも付いていった。

人が苦手な2人だけで行動させるのは不安だったが、自分から言い出すくらいには克服できているのだろう。

この街の治安は良い方だし、ここは信じて送り出すことにしたのだ。


「コウカは剣以外で何か欲しいものとかないの?」


衣料店を出て、買わなければならないものは大方買ったつもりなので、今日は代わりの剣以外には何も買っていないコウカにそんなことを問い掛けた。

彼女は少しの間、考えていたが何も思いつかなかったようで首を横に振る。


「特に欲しいものは思い浮かびませんね」

「そっか……鎧とか盾とかは?」


趣味か何か見つけてくれればいいのだが、何か勧めようにも思いつかなかったので日用品以外で何となく思いついたものを挙げてみる。

コウカは防具類を一切、身に付けていないので防具は良いと思ったのだが――。


「わたしの戦い方ですとただの重りになりかねませんし、せっかく提案してもらったんですけど……」

「ううん、気にしないで! 私も適当に挙げてみただけだから」


本当に申し訳なさそうに謝ってくれるからこっちも申し訳なくなった。

コウカの言い分はもっともだろう。

この子は素早さを活かした戦い方を好んでいるようだし、怪我を負っても痛覚を遮断できる上に魔力があれば再生できる。

それなりに魔力を消費するものの強みである速さと天秤に掛けた場合、絶対に負うとは言い切れない怪我よりも速さを取るのは当然だ。

ラモード王国で黒いワイバーンと戦って以降、コウカが大きな怪我をしたところを見たことがない。

それが彼女に防具が不必要であるという証明になる。


「盾、かぁ……」


一度、宿屋へ戻ろうとしている最中にダンゴがそんなことを呟いたが、気になることでもあるのだろうか。


「ダンゴ、どうかしたの? 何か欲しいものでもあった?」

「……ううん、何でもないよ!」

「……そう?」


ダンゴが何でもないと言うのなら別に重要なことではないのだろう。何か欲しいのなら遠慮なく言うだろうし。







「ただいま」

「ん、お帰りなさい。……シズ」

「え? ……あっ、えと。お、おかえり、みんな」


受付で先に2人が帰ってきていることを聞いたので挨拶しながら宿の部屋に入ると、すぐにヒバナが挨拶を返してくれた。

そのそばに居たシズクの方は買った本を読むのに夢中になっていたようで、ヒバナに肩を軽く叩かれたことで初めて私たちが帰ってきたことに気付いたようだ。


「ただいま! ねえねえ姉様たち、見てよ! この服、買ったんだ!」


元気よく部屋に入っていったダンゴが2人の前でくるくると回り、買った服を見せびらかす。


「へえ……まあ、いいんじゃない……?」

「う、うん。ダンゴちゃんによく似合ってる、かな……?」

「むぅ、何だか適当に言ってない?」


ヒバナとダンゴはどこか煮え切らない言葉を返す。

適当にあしらわれたと感じたのか、ダンゴは頬を膨らませていた。


「適当に言ったわけじゃなくて、私たちってその……服とかよく分からないし」


ヒバナの言葉にシズクが激しく同意を示すように何度も首を振っている。

――言われてみればそうである。

みんな、動きやすさの好みとかはあるみたいだがそれ以外は適当に選んでいる。着られたらいい、という考え方なのだろう。

コウカは動きやすい服を、ノドカはゆったりとしていて体の線が出にくいような服を好む。

コウカは特に拘りはないようだが、ノドカは進化したときに着ていたフリフリの白いロリータワンピースが一番のお気に入りのようだ。

ノドカは人目がある場所でも構わず浮きながら寝そべるので、しっかりと足まで隠してくれるその服を着てくれているほうが私としても安心できる。


そしてヒバナとシズクに関しては、外にいる時には服の上から私が贈った帽子と同じ色のマントを羽織っているので膝下までほぼ完全に隠れてしまっている。

だから中に何を着ていても一緒だと思っているのだろう。

動きやすさを重視するのは旅をしていく上で大切なことだが、服に全く関心がないというのも女の子としてどうなのかと思ってしまう。

でもみんな、人の姿になってすぐなのだからそれも仕方がないか。

これから少しずつ、興味を持つようになってくれたらそれでいいのだとは思う。

七重のハーモニクス ~異世界で救世主のスライムマスターになりました~

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