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#悪役令嬢
#ドアマットヒロイン
「な、何を言い出すのかしら! ああ、ルティを取られるから、私に嫌がらせを──」
「だったらどうして、この星マークの紙箱の料理がぐちゃぐちゃになっているのだ? それにどう考えても、これは人が食べる物じゃない」
(確認早っ、そして……あ、これは)
ルティ様の尻尾がめちゃくちゃ逆立っている。これはかなり気が立っているやつだ。ブレットさんが番や《片翼》に何かあったら、確実にブチ切れるってあれは、本当らしい。冗談だと思っていたのだけれど。
(私ではなく《片翼》だから……怒っているのだろうけれど)
「お、おかしいわ。私が入れたときは──あ、その子がすり替えたのよ! 私の店の料理の評判を落とそうとして」
「すり替える? それは物理的に不可能だ」
「──っ」
ルティは無表情だったが、その瞳は不快で苛立っていた。
「私が知るわけがないじゃない。……あ、ルティを取られたくないから」
「それが事実なら、私にとっては幸福なことだ。嫉妬してくれた──ということになるのだからな。だがそんな理由で、人に嫌がらせができる子でもない。お前と違ってな」
きっぱりと言い切ったことに、少しだけ驚いた。私のことを信用してくれて、ちょっとだけ嬉しくなる。ほんのちょっとだけど。
一度、紙箱をテーブルに戻した。
「私じゃない、これは──」
「ルティ様。このおばさんと今後も一緒に食事するの?」
「おば!?」
「この人、最初から私のこと睨んでいたわ。すごく怖くて意地悪な人、もう顔も見たくない……」
ルティ様の袖を掴んで自分の思っていることを伝える。エルリカはあの幼馴染ほどではないけれど、同類だ。それでも前世と同じように、幼馴染の言葉を信じるというのなら、16歳を待たずにここから逃げるしかない。そう覚悟を決めてルティ様の反応を待った。
蔑むだろうか。
侮蔑するだろうか。
人族のくせに、と。
でも答えは違った。
「シズク」
そう呟いたルティ様は、すごく口元を緩めて笑っていた。
(なぜに?)
「ああ、シズク。……内容はアレですが、私に正直に話して、頼ってくれて本当に嬉しいです」
(なんでここで照れて喜んでいるの!? 思考回路がヤバい!)
「ルティ? そんな子どもの言葉を信じるの? 私と数年の付き合──」
ルティ様は私を抱き上げると、凍り付くような視線を女の人に向ける。
「数年の付き合い? たまに食事を依頼するだけですが、それで何を勘違いしたらそうなるのか。本当に、これだから自信過剰な女は『自分がふさわしい』などと愚かな者は一度思い知ったほうが良い。お前が私の何に手を出そうとして、その結果どうなるのか──を」
低い冷たい声に、女の人の顔色が真っ青になっていく。
「──っ!? そ、そんなつもりは」
「ならさっさと帰るが良い。それと今後は《緑竜の酒場》の営業許可の剥奪、この街からの一ヵ月以内に出て行ってもらいます」
想定よりもずっと重い言葉に固まってしまった。実質西の森からの追放だ。
「な、なんで!」
「それが人族の《比翼連理の片翼》に対して、侮辱し危害を加えた罰だ。お前のような人種は中途半端に恩情を掛ければ、変に勘違いするからな」
「──っ」
(思った以上にまともな判断。しかもキッチリしている)
ルティ様はテーブルに置いてある料理を亜空間に放り込むと、羊皮紙を何もない空間から取り出す。出現した羊皮紙は生き物のように形を鳥の形に整えて、窓の外へと飛び出していった。あれはなんの魔法だろう。
「今、都市の騎士団と商業ギルド、店にも通達を行いました。こんなところにいないで弁明に走るべきでは?」
(手紙とかじゃなくて、通信連絡が進化している!?)
「──っ、そんな。ちょっとしたことじゃない!?」
「ちょっとした? 西の森を管理するときに告げたはずだ。私だけではなく他種族には、他種族の掟と作法がある。それらを尊重し、なにより《片翼》に対して悪意を持って接する者は重い罪になる──と」
(そんな掟と作法なんて初耳なのですが!? ここはもしかして《片翼》に優しい世界なんじゃ!?)
「──っ、だって、そんな」
エルリカは、その場に座り込んでしまい、ルティが面倒だからと、転移魔法でどこかに飛ばしてしまった。
やっぱりこの世界は、私の知らない世界なのだろう。前世に《片翼》を大切にするなんて風習も掟も作法もない。大事にされるなんて、それこそ別世界だ。
(そんな世界に前世も生まれていたら──)
ヴィクトルとも仲良くできたのではないか。そんな妄想をふと想像して、頭の中から消し去った。そんな妄想は無意味だし、だったらあのブリジットの人生はなんだったのかと思ってしまう。
「シズク、よく話してくれました。辛いことや悲しいことは我慢しないで、私に話してください。一人で抱え込まれると……」
「拷問?」
「しませんよ!? 頼られなくて寂しくて泣いてしまいます! 涙で枕を濡らす日が増えるでしょう!」
どさくさに紛れて、私をぎゅうぎゅうに抱きしめる。ここ数日は傍に居ることは多いけれど、ほどよい距離感を保っていたのに。どうやらルティ様は感情が高ぶると、本能的にくっ付きたくなるらしい。尻尾なんかは私をモフモフで包み込んでくる。
(ひとまず、この世界での種族についての知識と、作法を早急に調べる必要があるわね)
ルティ様との会話は、嫌いじゃなかった。
どんな質問にも、ちゃんと答えてくれるし、嫌味や意地悪なことはしない。やっぱりこの人は私の知っているヴィクトル様じゃないのだと思う。
まだ結論は出せないけれど、別世界が濃厚な気がしてきた。そう私自身が思いたかったのもあるだろうけれど。
でないと私の前世はなんだったのか、ブリジットの死は無駄だったのかと黒い感情が溢れ出して抑えが利かなくなりそうだ。
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