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#悪役令嬢
#ドアマットヒロイン
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人族の《比翼連理の片翼》とは、生贄である。
神々がこの世界を去った後、世界の均衡を守るため四大種族──地底の管理は地馬族。
異空間や空の防衛は鳥竜族。
海を鎮める管轄は水竜族。
そして最後に地上の繁栄を見守り調停役を天狐族が受けた。
四大種族の中でも、先天的あるいは後天的に魔力が著しく高い者を《高魔力保持者》と呼んでいる。彼らは体内の魔力コントロールが難しく、体内に魔力の塊が蓄積しやすく、それが魔力暴走あるいは魔力毒となって体が蝕まれて命を落とす。それを哀れに思った神々は、対となる生け贄を人族から得るように祝福をかけた。
人族と他種族が共栄共存することを神々は望んだと言われているけれど、実際は《高魔力保持者》が延命するための道具であり、紛うことなき生贄だ。
《高魔力保持者》は、通常の方法では魔力に排出するのが難しい。故に生贄の花嫁に魔力を注ぎ込むことで、長寿を維持するという。
都合のいい道具。
寿命が短くて、脆弱な人族は扱いも楽だと考えたのだろう。花嫁、伴侶、片翼などまるで対等に扱うかのような隠語を巧みに使い、一方的に連れ去る。それがブリジット・クレパルティの教わった《比翼連理の片翼》の真実であり、実体験だ。
神々に次ぐ四大種族の決定に、人族が口を阻むことなどできるはずもなく私の国も同じだった。私を供物として差し出したのだ。第三王女として、国のために身を捧げることを当時は疑問にも思わなかった。
でもそのブリジットの命が燃え尽きそうになった時、限界を超えた。
「──ッ、はぁ、はぁ」
誰もいない回廊をただひたすら走った。
血が止まらない脇腹の痛みに耐え、毒のせいで呼吸がうまくできなくとも、足を動かす。
(せめて最後は祖国が映る水鏡の前で──)
水鏡のある部屋に辿り着いた瞬間、水鏡を通して祖国が燃えていることを知った。もう戻れない祖国。それでも家族が幸せであって欲しいと願い、彼は「守護を与える」と約束して、私はあの方の《片翼》、花嫁になった。
(それなのに──、どうして祖国が燃えているの?)
私を花嫁に迎える条件として、祖国の守護が含まれていた。守ると約束してくれたのに、それすら踏み躙る。私たち人族はただの道具で、上位種族にとってはどうでも良い存在ということなのだろう。
いつになれば、この絶望は悪夢は終わるか。
「……ッ、助けて」
繰り返す前世の追体験を見ながら、私は呟いた。この後、私は義弟の前で身投げをする。義弟と彼らの幼馴染みとヴィクトル、そして天狐族を呪って、復讐を決行するのだ。
その後、精々後悔すれば良い。
そう思うけれど、結果的にその後どうなったのか私には分からない。
「──ク」
(だれ?)
誰かの声がした。
手を伸ばしたら、モフモフの温もりに包まれる。サンダルウッドの香りと、なんだろう凄く落ち着く。そう思うと悪夢だった世界が一瞬で変わって、陽だまりが体を包み込んで、温かい。
その後は夜中に目覚めることもなく、悪夢も見ずに朝までぐっすり眠ることができた。
***
朝。
目を覚ました夢ではなく、モフモフがいた。犬、いや狐っぽい四足獣で、でも手足がダックスフントのように短くて、モフモフの毛並みは白銀でとっても綺麗だ。
「もふもふ!」
「くう」と鳴く四足獣は琥珀色の瞳で、とっても人なつっこい。一緒に居るとすごく落ち着くし、抱きつくとモフモフで幸福感が半端なかった。この子が私の傍に居てくれたから悪夢を見ずにすんだのかもしれない。
「──って、でもどうして私の部屋に?」
「くぅん」
心配していると、垂れた耳がとっても可愛らしい。抱きついてみたら尻尾が凄く大きく振って喜んでいるようだ。凄く嬉しい。
「心配して傍に居てくれたの?」
「くう!」
「ありがとう」
頭を撫でたら凄く気持ちよさそうにしている。すごい癒し効果だ。
顔を洗って、身支度を調えて一階の食事処に下りると、モフモフの四足獣も付いて来た。可愛すぎる。
食事処ではルティ様が食事の準備をしていた。
あの残飯の一件以降、食事は全てルティ様が用意するようになったのだ。そして過保護ぶりが増したのも付け足しておく。
「おはようございます、シズク」
「おはようございます、ルティ様」
ルティ様の笑顔はいつも通り眩しいほどキラキラしていた。
眩しい。この方、やろうと思えば何でもできるのか、料理もデザートもとっても上手で美味しい。なんだ、このハイスペックな人。そして今日も尻尾がブンブンと大きく揺れている。
(あ、このモフモフのことを聞かな)
「今日こそは一緒に食べますよ」
「……べつべつじゃ、駄目ですか?」
ルティ様と暮らすことで決めていこうとしたルール。その中で今、意見が割れていた。ルティ様は食事を一緒に摂りたいと主張し、私は今まで頑なに拒絶していた。
最初、ルティ様は私が警戒している、あるいはエルリカの件があったことで自重していたのだろう。しかし一緒に過ごす時間が増えると、ルティ様は「食事を一緒に」と再提案してきたのだ。
普通なら一緒に食べることを嫌がったりしない。ただルティ様は天狐族で、上位種族だということが問題なのだ。
前世、ブリジットの体験から上位種族との食事は、苦痛のなにものでもなかった。前世の知識では上位種族と人族は基本同席しない。
万が一同席する場合は、同じテーブルに付くなど論外で人族は床に座り、上位種族が食べ終わった後で食事をする。ヒエラルキーの底辺である人族は、上位種族の決定には逆らえない。だから食事をするたびに、自分がいかにみすぼらしく、惨めで愚かな存在か再認識させる儀式のようなものなのだ。
そんな屈辱を今世でも味わいたくない。そう思って今まで回避してきたが、どうにもルティ様は諦め切れていないようだ。
(もしかしてこの世界では、上位種族に対してそのようなルールがない?)
そんな当たり前のことに今更ながら気付いた。でも試すのは勇気がいる。
「シズク、食事はとても大事な時間です。一緒に暮らしているのですから……食事を同席しても……」
今までは私が部屋に料理を持ち込んで食べる、あるいはルティ様が食べ終わるのを待ってから食べるなど回避してきた。しかしルティ様が昨日「一緒に食べたい」と泣き出してしまったので、今日の朝食は一緒に食べることを約束してしまったのだ。
(そんな約束をしたから悪夢を見たのかも……)
ため息を漏らすが、致し方ない。
それにこの世界においての食事の作法が、もしかしたら、奇跡的に違うかもしれないのだから。そう願い私は「一緒に食事を摂りましょう」と、できる限り笑顔を作って話しかけた。
ルティ様の料理は美味しい。
朝はふわふわの白パンに、猪肉のトマトスープ、ポテトサラダにふわふわオムレツ。なんとも朝から豪華だ。前世での朝食は冷えた薄いスープ、固くて黒いクルミパン、薄いベーコンが二切れ。思い出すと今でも胸が苦しくなる。
それでも確かめないといけない。
私の分のプレートを掴むと、テーブルではなく絨毯ではない床に座り直す。この世界ではありがたくも家の中で靴を脱ぐ作法があるので、部屋では内履きか裸足で過ごすのだ。だから前世のように衛生的にも幾分かマシだと思う。
「シズクと一緒にしょくじ──!?」
ルティ様が調理場から自分のプレートを持って現れたとき、私を見て固まっていた。数秒ほど固まったのち、急いで自分のプレートをテーブルに置いて私の元に駆け寄る。
「なにをしているのですか!?」