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第五章:風裂く草原と監視者
2人は第二の塔へと向かった。第二の塔は近場にあり、それほどかからずにたどり着いた。
その塔は、空に浮かぶように見えた。
風の吹きすさぶ広大な草原。その真ん中に、白く巨大な柱が天に突き立っていた。
「……でっか……! まるで天まで届いてそう……!」
ルナが口をぽかんと開けて見上げる。
風にたなびく髪とマントが、草の海に溶けていくようだった。
第一の塔とは違い、ここには“誰かの気配”があった。
足跡、焚き火の跡。
そして、塔の前──
「……止まれ」
その声は鋭く、風よりも冷たかった。
塔の前に、ひとりの青年が立っていた。
銀の甲冑に包まれた体、片手に長槍を持ち、真っ直ぐルナを見据える。
「これより先は禁域。外の者は、ここを越えることを許されない」
「え、えっと……その……」
ルナが困って言葉を探している間に、ヒイロが一歩前に出た。
「ぼっ…僕たち、この先に用事があって……」
青年の瞳が、ヒイロを鋭く射抜く。
「……貴様、“あれ”の連れか」
“あれ”──その言葉は明確な敵意を持っていた。
そしてその敵意の矛先は、魔女であるルナに向けられている。
「魔女がここに何の用だ。ここは“魔の血”が触れてはならぬ場所だ」
「え? でも、ボクたちはただ……試験を──」
「試験? ふざけるな。お前たちはこの地を破壊しに来た。それだけだろう」
青年の槍が、地面を擦って構えられる。
ルナが一歩下がり、ヒイロの背に隠れる。
「ち、ちがうよ……! そんなつもりじゃ……!」
「“つもり”など関係ない。魔女が塔に触れる。それが、我ら人の敵対行為に値すると知れ」
言葉と同時に、風が唸った。
青年の槍が閃き、ヒイロに向かって一直線に突き出される。
ヒイロは───その突きを避けきれなかった。
「っぐぁぁぁ……!?!?」
「ヒイロ!!」
鮮血が散る。それを見たルナはすぐに駆け寄ろうとする。だが、ヒイロはそれをとめる。
「ルナっ!……今のうちに塔を…!」
その声にハッとしたルナは、ヒイロに駆け寄りたい気持ちをぐっとこらえ、塔の元へ走る。
そこには青白く光る結界があった。
それ第一の塔と同じ、淡い光。ただ、第一の塔に比べて少し弱い。その奥にあるものを壊さなければ、試験は進まない。
「……っ、お願い、魔力よ……!」
ルナの手から魔法陣が展開され、空気が焼けるように震えた。
「止めろおおおおお!!」
青年の叫びが空に響く。
だが次の瞬間、塔を包んでいた結界が砕け、轟音と共に地面が揺れた。
塔が、一部崩れたのだ。
「っ、あ…!まて!」
青年がルナに駆け寄ろうとする。
それをヒイロが止めた。
「ルナ、逃げて!」
「でも……!」
「はやく!!」
ルナが後ずさり、草原を駆け出す。
ヒイロも続いた。塔の周囲に風が暴れ出す。塔の魔力が乱れ、周囲が不安定になっていく。
──数分後、丘の向こうへ走り抜けたふたりは、ようやく立ち止まった。
ルナの頬に、風の冷たさと涙が同時に流れていた。
「ヒイロごめん……血がっ…血が…」
「…大丈夫だよルナ……それにしても、あの人……塔を“守ってた”?」
「うん…でもどうして……? どうして人間が、“試験の塔”を守ってるの……?」
ヒイロは答えなかった。
ただ、胸の奥に、小さな確信に近い疑念が生まれていた。
──これは本当に、“試験”なんだろうか。
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