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第六章:歪む確信
夜の森は静かだった。
けれど、その静けさはどこか、重く澱んでいた。
ルナは木の根元で膝を抱え、じっと焚き火の光を見つめていた。
ヒイロはその向かいに座っていたが、何も言わなかった。
ふたりの間に流れる空気が、少しずつ変わってきている。
そう、ヒイロは感じていた。
「……ねぇ、ヒイロ。ボク、間違ってるのかな」
「え……?」
「人間の人、すっごい怒ってた。ボクたちは“試験”してるだけなのに。なんで……あんな顔するの?」
その問いに、ヒイロはすぐに答えられなかった。
「……あの塔、普通じゃなかった。人間が“守ってた”。それも、命がけで」
言ってしまった。
ルナが小さく眉を寄せる。
「なにそれ、ヒイロ……まるで、ボクたちが悪いことしてるみたいな言い方じゃん」
「……違う。そう言いたいんじゃない。ただ、……“試験”って、ほんとにそうなのかなって思っただけで……」
ルナの目に、うっすらと怒りがにじんだ。
「ヒイロはさ、あのお兄さんが人間だから、かばってるの?」
「そんなつもりじゃ──」
「なら、信じてよ。ボクは、立派な魔女になるためにがんばってるだけだよ?」
その声は震えていた。
ヒイロはそれ以上、何も言えなくなった。
*
──その頃。
遥か離れた森の奥、ひとりの老婆が鏡を見つめていた。
黒い鏡の中に映るのは、崩れ落ちた第二の塔。
魔力の流れが変わり、空気がざらついている。
「……ふふ、良い子だよ、ルナ。お前はやっぱり、“魔女の血”だ」
トールの目は細く笑っていた。
部屋の奥には、無数の魔導具と古びた巻物、そして魔女たちの名を記した“刻印の書”が積まれている。
「これで二つ。人間の封印は、あとひとつで終わる……」
その声には、血も涙もなかった。
部屋の片隅に、ひとりの魔女が跪いていた。
「トール様、人間どもの結界術士たちが反応を察知しています。防衛強化の動きが──」
「構わん。最後の塔が崩れれば、あとは押し潰すだけだ」
静かに、しかし確実に──
“戦争”は、始まりの音を鳴らしはじめていた。
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