テラーノベル
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それは、まだ幼い少年の声だった。
「誰!?」
驚いて周囲を見渡すが、部屋には誰も居ない。
『やっと波長があった……由宇ちゃん、よく聴いて』
声は、どうやら由宇の脳内に直接響いているようだった。
『君は魔女の魔法によって、肉体と魂の分離を経験しているよね?今度はそれを、自分の意志で行うんだ』
「それって、自力で幽体離脱しろ、ってこと?」
『そうだ。そうすれば壁をすり抜けて、外に出られる』
「急にそんなこと言われても——」
『君の魂は、既にやり方を憶えている。後は君が、自分自身を信じるだけだ』
不思議なことに、声の主への不信感は全くわかなかった。
ひどく懐かしい、どこかで聞いたことのあるような声。
一体、誰の声だったか――いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
「自分を、信じる……」
由宇は、廃ビルで怪物の体を浮かした時のことを思い出した。
そうだ——今回だって、きっと何とかなる。
由宇はパン、パン、と両手で自らの頰を強く叩いた。
そして目を閉じ、大きく深呼吸する。
それは彼女の、バスケットボールの試合開始直前のルーティーンだった。
『いいかい、想像するんだ……君の頭の天辺から空に向かって、一本の糸が伸びている……肉体はそのまま……意識だけが、糸で上に引っ張られる感じで……』
声の指示に従い、由宇は肉体を離れ、浮かび上がる自分の体を想像した。
精神を集中し、イメージを反復する。
意識だけが、上に引っ張られる——意識だけが上に——意識だけが上に——意識だけが上に——意識だけが——……
『そうだ、その調子!』
子供の声が弾むのとほぼ同時に、由宇は自分の意識がすうっ——と体を離れるのを感じた。
続いて、真下で何かが倒れる音。
目を開くと、由宇の魂は天井付近まで浮かび上がっており、床には彼女が先ほどまで纏っていた肉体が横たわっていた。
「やった……!」
『さあ急いで。ここから逃げるんだ』
「でも、体は?ここに置いていくの?」
『仕方がないよ。このままでは、魂ごと生贄に捧げられてしまう』
「生贄?」
『詳しい話は後だ。でも、魔女があくまで、君を生贄に捧げようとするのであれば、まだ望みはある』
早口で説明するその声は、気のせいか、徐々に声量が落ちていっているように思えた。
『生贄には、魂と肉体の両方が不可欠だからね。だから、ここは一旦——』
「ねえ、待って!何か、声が小さくなってない!?」
『——くそ、時間切れか——とにかく今は、誰かに助けを——……』
——その言葉を最後にして。
声は途切れ、部屋には静寂が訪れた。
「——ねえ!ねえってば!」
いくら叫んでも、反応はない。
ここから先は、本当に私一人だ——由宇は再び泣きそうになるのをぐっと堪え、ゆっくりと地面に降り立った。
やはり、歩いた方が飛ぶよりも動きやすい。
魔女達が消え去った壁と、鴉が飛んでいった壁を交互に見る。
鴉は、建物の外へ出ていったに違いない。
であれば——逃げる方向はそっちだ。
由宇は壁に向かって手を伸ばした。
指の先が、何の抵抗もなく壁を貫通する。
廃ビルの時とは異なり、壁に魔法の類はかかっていないようだ。
境の世界——同級生の修から、話には聞いている。
生と死、虚と実、夢と現の間に存在するという不思議な世界。
彼は車に轢かれた猫に頼まれ、亡骸をそこに埋めてやったらしい。
この牢獄の外には、一体どのような光景が広がっているのだろう?
声の言っていたように、助けを求めたとして——果たして、異界からやってきた自分のような小娘を助けてくれる者などいるのだろうか?
怖い。
怖いが——行くしかない。
由宇は一度だけ横たわる自分の体を振り返った。
それから覚悟を決め、足を踏み出し、壁をすり抜ける。
外へと出た、次の瞬間――
「え?」
#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
——彼女は、空に立っていた。
目の前を数羽の鴉が、バサバサと羽ばたいて通り過ぎる。
慌てて目線を落とすと、遥か下に、灰色の街並みが広がっていた。
次の瞬間――おそらくこれは、由宇自身の〝認識〟が影響しているのだろう——重力が自らの仕事を思い出したかのように、由宇へと襲いかかった。
よくアニメなんかで、「走っているキャラクターが勢い余って崖から飛び出してしまい、ふと下を見て、地面がないのに気づいて落下する」というシーンがあるが、まさにあれだ。
「わああああああああああああああああああっ!?」
真っ赤な空に、由宇の絶叫が木霊した。
コメント
1件
おお、第35話読んだよ!由宇ちゃんがついに自力で幽体離脱成功させたの、めっちゃ熱かった…!あの「自分を信じる」って台詞、バスケのルーティーンに繋がるのもグッと来たわ。謎の声の主が誰なのかも気になるし、最後の空に立ってからの落下の描写がめちゃくちゃ臨場感あって、思わず「うわっ!」って声出た。次どうなるんだ…助けてくれる人いるのかな?続きが待ち遠しい🔥