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「こんにちは。えっと…私のこと覚えてます?」正直心配だった。私は直接彼とはあまり話したことがない。いつも受診(?)をしているのは社長だったし、私は横で資料に書いているだけだったからだ。
彼はこくと頷くだけだったけれど、そこには感情がちゃんとこもっていた。
柴田くんはもう一度米田くんにお辞儀をして僕たちのことを招き入れてくれた。
柴田君は僕の友達で、高校のときの部活の後輩だ。僕はサッカー部のキャプテンで、彼は僕の大切で仲の良い後輩だった。後輩というのに本当にサッカーが上手でプロサッカー選手を目指しても通用するようなレベルだった。でも、家の思いで成績の良い大学へと進学した。きっと今は定休してるけれど、立派な教師になっていた。
この病気が発症したのは、2年前。僕が22で、彼が21のときだった。原因としては、過剰なストレスと不眠。彼のココロを“人の目”が押しつぶしていた。その人の目というのは親からの重圧だった。いい大学に出て自慢できるような職業につく、これが母親の願望だったらし。3回中3回の発症がこれだ。でも、最後の発症で僕も母親に会ってちゃんと柴田くんのココロと向き合ってもらった。そして、最後の発症から今日まで1年の月日が経っていた。
「敬語やめてくださいよ。」彼のスマホから機械音が出ていた。それは、僕に向けた言葉らしかった。
「だって、久しぶりじゃないか。1年くらい過ぎてるよ?」米田君と僕は招かれた席に座った。一人暮らし用のリビングに数人が入るには狭いアパートで、日の光も入りにくいような薄暗い部屋だった。今までに3回も来てるのにこれまでよりも薄暗くて一番深刻に思えた。
「僕だって、緊張してるんだよ。」彼の表情を伺った。半分冗談で言ったつもりで、少しでも笑ってほしかったから。
「そうですか、先輩は変わってませんね。」彼も機械のように笑顔の片隅も笑っていなかった。彼のスマホから機械音が出ているのではなく、彼から機械音が出ているような感じだ。やはり今までと比べるとかなり深刻な状態というのが伺えた。
「…だね。 何があったか聞いていい?」彼は重い首を動かしてこくんと頷いた。
「柴田君はいつからその症状が?」
「2日前ですけど。…その呼び方辞めてください。いつもの呼び方がいいです。」機械音で僕のことを攻めているような気がした。確かにそうだ。1年経って会って、信頼したい人なのに冷たくされるなんて最悪だ。僕は何をしてるんだ。
「ごめん。さっきも仕事で、つい。」
「直してくれたらいいんです。」彼は少し悲しそうな顔をしていた。
「宙(そら)にとって、今までの体験からどう思う?一番辛い?」彼はさっきと同じように重みを持って頷いた。
社長は柴田さんに次々と質問していった。症状のことからプライベートでの楽しいこと、悲しいこと、好きなもの、好きな人はできたのかどうか。私は社長の質問に答えた回答を一語一句間違わずに資料へと書いていった。そんな他愛のない話をしていても柴田さんはひとつも笑わなかった。社長も質問ばかりじゃなくて自分の面白いストーリーを話していたけれど、柴田さんはずっと机のほうを見ているだけで、ただただ聞いているだけだった。社長も焦りが少しずつ顔に出始めていた。社長がこんなにも患者と話すのはめったにない。もう30分は話している。しかもそれは“質問だけ”でだ。普段なら30分過ぎたところで患者と向き合って何が辛いか苦しいかを話して、早かったらもう解決してる時間だった。
社長は焦っている。自分の後輩がこんなことになってしまった悲しみもあるだろうけど、こんなにも表情を見せない患者は私も社長も初めてだった。
「社長、外に出て少し私と話します?」社長は私の方を見た。やっぱり少しやつれている。
「あぁ、少し話すよ。ゴメンね、宙ちょっとだけ席外すね。」彼はまた頷いた。
「社長、大丈夫ですか?かなり疲れてそうですけど。」薄暗いアパートからでた。
「わかるかい?宙の本当がわからないというか… こっちも宙の空間に入っちゃうというか…」柴田さんのことを社長は“宙”と呼んだ。彼の名前だ。柴田宙。呼び捨てで読んでる時点から仲が良いのがわかった。
「はい。顔に出てます。あのアパートだと社長の気まで暗くなってるというか…」明るいオレンジ色の太陽が沈み切ろうとしていた、明るさとアパート内の薄暗さとは対象的で世界が広いって感じられる。
…世界が広い?…明るい?ん?これじゃないのか柴田さんが欲しかったものはないか?明るくて広い世界。毎日毎日職場から帰ってきて人間関係も苦手な柴田さんがあんな狭い家で疲れ切った体を癒そうとしている。そんなことできるだろうか。あの広さや窓の少なさからして窓を開けたとしても風通しは悪いだろう。また、朝昼晩で太陽の光が入りにくい。こんな密封されているような空間で毎日過ごしているなら…!柴田さんのこれが原因なのでは!
「社長。私に考えがあります!」
10分後“俺”は近くの河川敷に来ていた。
ココで終わります。本当はもっと書きたいのですが、話の数を多くしたいのでココで終わらせてもらいます。