10分後“俺は”河川敷に米田さんと二人で来ていた。
「何故俺をこんなところに?」俺は米田さんにスマホをも見せつけて音声を流した。すると、米田さんはおどおどしている様子でそわそわしていた。俺はまた音声読み上げアプリに文を打ち込んでいた。
「あと、先輩はどこに?」俺が外を出たときにはもう先輩は居なかった。米田さんは“先に社長が行ってますんで。”なんて言って俺をはぐらかしていた。
「えっと、柴田さん落ち着いてください。きっとすぐに来るんで…。」落ち着いて居られなかったのは米田さんの方だ。そわそわしておぼつかなくて、先輩を一生懸命首をキョロキョロ見回して探していた。そんなとき、彼女は大きな声で呟いていた。
「あ!社長!こっちです!」俺は“社長”と呼ばれた先輩の方を見た。ヘディングをしながらこっちに向かって来ている。その足取りは昔よりもぎこちなくて、“慣れていない”という感じがしていた。そんな足取りで蹴っていたのは、薄汚れた白と黒のサッカーボールであの日、この場所で遊んだ“あの”サッカーボールだった。
「遅れてごめん。宙、サッカーしよ。」先輩は俺の目を見て俺に伝えていた。先輩の表情は昔と変わっていなかった。
息が切れている先輩。劣っている先輩。高校の時とは大違いで“格好悪い。”あの先輩が格好悪い。とてもとても、心から可笑しかった。
先輩が年をとっていた。
「先輩、年取りましたねッ。」笑ってしまった。笑わないでいようと思っていたわけじゃないけれど。顔をくしゃっとして笑ってしまった。この音声が俺の声でありますように。心から願った。
俺の目の前の二人は顔を見合わせて驚いているような、嬉しいような表情をしていた。
「サッカーしたいです。」自分でもこの言葉を機械音だと**思“え”なかった。**本当に先輩とサッカーをしたかった。
これは“俺の言葉”だった。
先輩はいつもいつも俺を助けてくれた。俺が辛いとき、苦しいとき、生き詰まったとき、どんなときでも知らない間に俺を助けてくれた。
それはこの河川敷でのことだった。
俺は高2で先輩高3だった。先輩は背はぐんと高くて高身長、運動はできるし、顔だって高校で一番というほど格好良かった。でも、そんな先輩にも欠点があった。それは名前だ。木村拓郎。通称キムタク。名前だえ惜しい。俺ならこんな名前友人、先輩、後輩にも誰からもからかわれそうで、改名したくなりそうになる。そんな先輩だが、変な名前も吹き飛ばしてしまうほどなにもかも憧れるような人だった。それに先輩は初めて会った人に名前を聞かれたら、必ず最初は冗談で「キムタクです☆」って言って笑いを取っていた。だからウチのサッカー部は女子が集まる一方だったし、先輩はたくさんの人からモテていた。そんな先輩の人柄に惚れていた。俺も高3になったらそんな先輩になりたいと思っていた。
俺がサッカーが上手いからか先輩には良くしてもらっていた。家の変える方向が同じだったから一緒に帰っていたし、昼ご飯は先輩の友達と仲良くなるほど一緒に食べていた。それほど俺は先輩に認めてもらえていたんだろう。
3年の先輩たちが引退するときに次の代のキャプテンを決める。先輩たちが監督と群がって真剣な表情で会話をしていた。そして、監督から後輩たちへと俺の名前が呟かれていた。
俺が次の代のキャプテンだった。おそらく先輩が推薦したんだろう。先輩は満面の笑みだった。
「よかったな!宙!次のキャプテンだぜ!」俺を奮い立たせるように俺と肩を組んでくれた。
「ありがとうございます。先輩!」
「俺、先輩の思い繋いでいきます!俺の代では全国大会にも出れるように頑張ります!」
「あぁ、頑張れよ!」先輩たちとは大学受験の準備のために一緒に帰ることはなくなった。昼ご飯も一緒に食べることはなくなって、友達と食べることが毎日の日課となった。
それから俺らのサッカーチームは強化練習に力を入れていった。俺らは先輩の代よりも力はついた。“力は。” 力をつけていくとともにどんどん気持ちは廃れていった。サッカーをしたいと思わない生徒が過半数を超えて、部活を辞める生徒も多くなった。それでもサッカーがまだしたい、サブメンバーと俺でチームは一応“カタチ”にはなった。でも、強いメンバーなんて俺も含めて2,3人。俺らの努力は水の泡になった。毎年出ていた関東大会にも出られなくなって、先輩との約束を果たすことができなかった。
悔しいというより申し訳なかった。辛いというより申し訳なくて、仕方がなかった俺はこの学校に傷をつけたことになることを受けいることが苦しかった。そんなことを思っているともうあっという間に引退のときになっていた。先輩のような格好良い先輩にはなれず、約束もはたしきれなく俺の部活生活は終わっていた。
追い打ちをかけるように受験勉強が始まった。大好きなサッカーもサッカーボールも気づけば後回しになっていた。俺は親から言われた大学に進学することになっていた。公務員になれと言われた。本当はプロサッカー選手になって日本代表でワールドカップに出てみたかった。大きすぎる夢だけど、大きい夢だけど。これが俺の夢だった。
ずっと自分の机に向かって勉強している。そんな自分に飽き飽きしていた。俺は汚れたサッカーボールを蹴りながら河川敷に行った。その河川敷は何も変わっていなかった。
蹴ったサッカーボールは帰って来ない。一人きり。寂しそうにボールが転がっていた。
ココで終わります!変な終わり方ですいません! この物語はフィクションです。
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