「圭ちゃん、私たち付き合ってるの」
「だろうな。じゃなきゃ、わざわざ家に連れて来ないだろ」
「それでね、プロポーズされてるの」
「プロポーズ?」
聞きなじみのある言葉だったけど、頭の中で俺のわかる言葉に変換するには時間がかかった。
「結婚してくれって言われたの」
「結婚って、まだ付き合い始めて1ヶ月くらいだろ? 早すぎるんじゃないか?」
俺はマナと世良将生の2人を見ながらそう言った。
「結婚に遅いも早いもないと思うけどね。お見合いなんて数回会っただけで結婚してしまう訳だし、長く付き合っていても数年後には離婚しているケースも相当あるみたいだしね。年月は全く関係ないんじゃないかな?」
世良将生は挑発的な調子でそう言ってきた。
「お見合いは結婚を目的にするものだから、会って数回で結婚するのはごく普通のことだし、出会って直ぐに勢いだけで結婚する奴で上手くいってる知り合いは殆んどいませんよ」
「圭ちゃん――」
マナを見ると首を横に振り、険しい表情をしていた。
「そんなことより明石くんは、どうしてマナさんと一緒に暮らしてるんだい? どういう関係?」
「高校からのダチですよ。一緒に住んでるのは俺とマナが大学に進学するのが決まった時に、マナの親から面倒を見るように頼まれたからです」
「だからって一緒に暮らすのはどうかと思うなぁ。どんなに仲が良いからと言っても、所詮は男と女じゃない。何もないとは言い切れない訳だしね」
世良将生は半ば呆れ顔でそう言っていた。
「確かにそうかもしれません――」
言い返したかったけど、実際俺とマナは交際し、婚約までしてた訳だから、反論など出来る分けなかったし、する資格もなかった。
「本当に何もなかったのかなぁ?」
「もちろん、何もありませんでした――」
「圭ちゃんとは何もなかった――と思う」
世良将生は俺を疑いの目で見ていたけど、俺は目を反らすことなく見続けていた。
「なるほど――確かに本当のことを言っているかもな。もしくは真実を闇に葬るつもりなのか――それは私にはわからない。でもいずれマナさんを知る上で色んな真実が浮き彫りになって来るとは思うけどね」
世良将生は相変わらず挑発的な態度で俺にそう言ってきた。
「追求するような真実なんてありませんよ」
「だといいんだけどね。まぁ、そんなことはどうでもいいとして、明石くん、あなたに伝えとかなきゃいけないことがあったんだ。マナちゃん、あなたから言ってあげた方がいい」
「はっ、はい――」
マナは俺の顔を見るなり、目に涙を溜めて黙りこんでしまった。何しにここに来たのか、何を俺に話すためにわざわざこんな時間を作ったのかは、2人の会話を聞いていて薄々感づいていた。
「マナちゃん!」
「圭ちゃん、あのね――」
「マナ、おめでとう! 世良さんのプロポーズを受けるんだろ? その報告に来たんだよな?」
「圭ちゃん――」
「良かったな、素敵な人に出会えて。幸せになれよ」
「うん――」
「世良さん、マナのことをよろしくお願いします」
「あなたに言われなくても、幸せにするつもりだよ」
「すいません、余計なことを――」
ヒドイ言われようだった。でも、マナのためだ。今は耐えなくてはならない。
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