鋼谷直樹はぼんやりと、錆の都行きの列車の中で寝転がっていた。全てのやる気と意欲が、駅を出発したと同時にどこかへ消え去ってしまったかのようだ。彼の所属する会社「ゴーストバスター株式会社」は、人材使い捨てのブラック企業として悪名高い。その業務内容は、亡霊退治という危険極まりないものだが、福利厚生は最悪で、しかも何かと錆の都送りをちらつかせてくる。
「くそ……本当に錆の都送りにされるとはな……」
直樹は深いため息をつき、手にした薄い給料明細を睨む。上司に逆らって文句を言ったのが運の尽きだった。錆の都送りは、ゴーストバスターたちの間で「左遷」や「島流し」として有名な処罰であり、言わば「生き地獄」への片道切符だ。
錆の都――そこはかつて栄華を誇っていたが、封鎖戦争によって廃墟と化し、幽霊たちが未練を抱えながら彷徨う街。ゴーストバスターたちにとって、最も避けたい「派遣先」なのだ。
「まあ、でも幽霊なんて退治し放題だし、スキルアップには……なるか?」
強がり半分でつぶやく直樹。だが現実は非情だった。
列車が錆の都の駅に到着すると、駅のホームには見渡す限りの錆びついた機械や朽ち果てた建物が並んでいる。遠くからは、異様なうめき声やすすり泣きが聞こえてくる。
「……完全に呪われた街じゃないか」
直樹は身震いをしながら駅を出たが、誰も迎えに来ていない。ゴーストバスターの支部があると聞いていたが、それらしい建物も見当たらない。
「まあ……一人で派遣されるってことは、そういうことだよな」
ブツブツと文句を言いながら、直樹は一人で地図を頼りに歩き出す。錆の都の道は入り組んでいて、どこも同じように荒れ果てている。その中でもひときわ錆びついたビルが見えてきた。どうやらそこが支部らしい。
錆だらけの支部のドアを開けると、中には古びた机と椅子がひとつ。それに加え、埃が舞い上がるだけで、誰一人いない。
「これが……支部?」
一瞬、言葉を失ったが、張り紙が目に入る。「出勤した者は、自己責任で現場に行くこと」と書かれていた。直樹はため息をつきながら、また歩き出す。
「ブラックどころか、完全に放置プレイじゃないか!」
ようやくたどり着いた廃ビルで、直樹は最初の幽霊と遭遇する。見るからに悲しげな顔で立ち尽くしている霊。しかし、近づくと急に鋭い目で睨まれ、猛スピードで襲いかかってきた。
「……おいおい、まじかよ!」
直樹は慌てて「鉄鎖」を呼び出し、幽霊を鎖で拘束する。なんとか捕らえたが、予想以上に暴れる幽霊に冷や汗を流す。
「これが……錆の都の日常ってことか?」
錆の都での生活が一筋縄ではいかないと悟った直樹。絶望と緊張の中でも、彼の戦いは始まったばかりだ。
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……太宰、、