《君の存在が半透明だとしても》
プロローグ side志倉唯
ふとしたことで、”消えてしまいたい”と思ってしまった。
この季節、窓から見える大きな桜の木はまるで切なく感じてしまう。
そう、思いながら歩いていたら正面から来た生徒とぶつかってしまった。
ぶつかったのがいけなかったんだ。
ぶつかった相手は、クラスで人気者の成瀬晃君だったからだ。
私は咄嗟に落としてしまったノートを拾おうとしたが、もう遅かった。
ノートは何かに引っ張られるようにページがめくられていく。
ノートはあるページで止まった、そのページは私が空いた時間にこっそり描いている。
成瀬君が描いてあるページだったからだ。
「…なんだよ、これ?」
成瀬君に見られてしまってから頭が真っ白になった。
頭からは色んな感情が浮き出てきてしまう。
怒られてしまう?気持ち悪がられる?笑われる?など、感情が出てしまう。
「…描かれている俺は、こんな感じなんだな。」
話したいのに、話せれない。何か話さないといけないのに。
「……っ意味わかんねー、」
成瀬君は一言放ったら何事も無かったようにノートを渡してくれた。
私は頷くことしか出来なかった。もう頷くことしか出来なくなってしまっていた。
私は”場面緘黙症”と言う症状を発症してからもう5年がたった。
それはある日の休み時間、私はいつものように汐莉と話していたときに起きた。
「お前の声ってなんか”変”だよな、なんかこう外国人みたいな。」
同じクラスの男子がそう言い放った。正直息が詰まりそうだった。
上手く呼吸が吸えない。言葉も出ない。
その日から私は学校が苦しくなり不登校になってしまった。
不登校になってから1年が経った、ある日のこと。
5歳年下の妹が元気付けてくれたおかげでやっと学校も行けるようになった。
その時は、保健室登校をしていたが。ある日保健室登校を辞めて登校することにした。
初めは怖かったが、途中で汐莉が見つけてくれたお陰で行くことができた。
高校1年生になり、新しいクラスに転校生が来た。それが成瀬君だ。
成瀬君は陸上部のエース。成績はトップで皆の憧れである。
でも、そんな私は彼をスケッチしていたのだ。こんなの見られたら終わりだ。
見られたのが今日、4月20日だった。
私がいつも見てる成瀬君は少し冷たいけど、仲間想いな人だった。
でも、今ここで見た成瀬君は半透明な人だった。多分、泣いていた。
そんな彼の涙を私が初めて見てしまった日で彼が部活を辞めた日でもあった。
コメント
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何だこの人… 今までのストーリーと別人かのように全然違う構成で書いてるのなんなの