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#誕生日
かんすい
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遠藤――通称えんどーは、昼休みの教室で静かにスマホを連打していた。
カチ、カチ、カチ。
「……今、何枚?」
友達が覗き込む。
「クッキー? 一兆と……ちょい」
「ちょいってなんだよ」
「誤差」
さらっと言うあたりが、ガチ勢だ。
高身長で爽やか。なのにやってることはひたすらクッキー量産。しかも妙に楽しそう。
「いやでもさ、これ何が楽しいの?」
「積み上がるのがいいんだよ。数字ってロマンだろ」
「わかんねぇ~」
えんどーは肩をすくめた。
「まあいいや。じゃあ一個ギャグいくわ」
「急だな」
「クッキーだけに、クッキーり(くっきり)笑えるやつ」
「うわ」
教室が一瞬、静まる。
――そして。
「ははっ、くだらなっ!」
笑いが起きる。
えんどーは満足げにうなずいた。
◇
その日の帰り道。
えんどーは一人、歩きながらスマホをいじっていた。
カチ、カチ、カチ。
「……よし、そろそろか」
画面には、とんでもない数字が並んでいる。
あと少しで、“とある到達点”。
そのときだった。
画面が、ふっと暗くなる。
「……あ?」
次の瞬間、見慣れない表示が現れた。
『おめでとうございます。あなたは“観測者”に選ばれました。』
「は?」
意味が分からない。
だが、その下に小さくボタンがあった。
『クリックしますか?』
えんどーは迷わなかった。
「するだろ」
タップ。
◇
世界が、変わった。
「……え?」
立っているのは、さっきと同じ帰り道。
でも、何かがおかしい。
目の前を歩いている人の頭上に、“数字”が浮かんでいる。
0、12、458、1023……
「なんだこれ」
通り過ぎる車にも、建物にも、空にも。
全部に数字。
意味は分からない。
でも一つだけ、直感で理解した。
「……これ、“クリックできる”な?」
試しに、目の前の電柱をタップするように触れる。
カチッ。
その瞬間。
ポン、と音がして、数字が少し増えた。
「……は?」
もう一度。
カチッ。
また増える。
「……はは」
えんどーの口元が、ゆっくり歪む。
「なるほどな」
世界が、ゲームになった。
しかも、自分がやり込んできたあのゲームと同じ仕組み。
「いいじゃん」
次々とタップする。
人、建物、空、影。
全部が“リソース”になる。
数字が増えていく。
とんでもない速度で。
「これ、やり放題じゃん」
笑いがこぼれる。
でもそのとき、ふと気づく。
自分の手。
そこにも、数字が浮かんでいる。
「……え?」
鏡代わりにスマホを見る。
自分の頭上にも、同じように数字。
しかも、それは――
減っている。
「……は?」
カチッ。
どこかをクリックするたびに、少しずつ。
確実に。
自分の数字が減る。
「……なるほど」
えんどーは、一瞬だけ黙った。
そして――
にやっと笑った。
「じゃあさ」
空に向かって、指を伸ばす。
「どこまでいけるか、やってみようぜ」
カチッ。
◇
翌日。
「えんどー、今日元気なくね?」
「いや、そんなことないって」
教室で、いつも通りの笑顔。
でもどこか、少しだけ軽い。
「ギャグいくか?」
「頼むわ」
えんどーは、ゆっくり口を開く。
「昨日さ、世界がクリックできるようになったんだけど」
「は?」
「俺、押しすぎてさ」
一拍。
「“押忍(おす)”って言えなくなりそう」
「なんだそれ」
沈黙。
――からの。
「ははははは!」
笑いが起きる。
えんどーも笑う。
その頭上の数字は、もうほとんど残っていない。
でも彼は気にしない。
むしろ、楽しそうに。
「次、もっとデカいのいくわ」
そう言って、机を軽く叩いた。
カチッ。
誰も気づかない音が、教室にひとつだけ響いた。
――数字は、まだ増え続けている。