コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
こつ、こつと足音が鳴り響く。地を踏み歩く度に水たまりを踏む音が鳴る。
(今日はもう帰って、後は残りの仕事を終わらせられば寝られたはず…!)
そんな事を思いながら歩いていると、ふと路地裏に目がいった。普段私が行く街はどこも建物が多く、路地裏なんて見つけられた物じゃなかった。
普段と違う道を歩くとこんな発見もあるんだな。なんて感心していると、何か怪しい物陰がある事に気がつく。その日は雨で視界が悪く、ここからでは物陰が何なのかはよく分からない。
その正体が気になった私は、路地裏の方にさっと駆け込んで物陰の方へと向かう。するとそこには、一歩間違えれば致命傷となる程の重症な怪我を負った男性が壁に寄りかかっていた。
「ちょっ…大丈夫!?」
そんな声が出ている事なんて知らずに、私は反射で傘を閉じて地面に置き、その男性を抱えていた。見た感じ成人している男性だったから重いのかと思っていたが、想像よりも案外軽かった。
「はぁっ、はぁっ…と、とりあえずこれで数日は凌げるはず…」
抱えた男性をベッドの上に寝転がせ、急いで応急措置をする。それでも傷口から血が出てくるので、そういった重症な箇所は一度凍らせる事で進行を遅らせる。
私じゃこれが限界だ。誰か別の人に頼まなければいけないけれど、今の時間帯で来てくれる人なんて私の知り合いに居ない。
…いや、今はこんな弱音を吐いている場合ではない。人命がかかっているんだ、やらなければならない。
私は決意を決め、携帯を手に取る。そうして、ある人物に電話をかけた。
『…いきなり何…?』
どうやら寝ている時に電話をかけてしまったらしい。相手は気怠げに応対する。
「事情は後で説明するから、私の家に来て!なるべく早く!」
『えっちょ…!』
それだけを伝えて電話を切る。悪いとは思ったが、今は事情が事情だから仕方が無い…そういう事にしておく。後でなんか奢るか。
数分後、玄関の扉が開く音が激しく家中に響き渡る。
「こっちに来て!二階の端の部屋!」
それだけ言うと私は部屋に戻ったが、すぐに急いで階段を登ってくる音が聞こえてきた。部屋の扉を開けると、ふらっとした様子で空いている椅子に腰をかけていた。
「はぁっ…それで…何を、やればいいの…?」
必死そうに声を出し、そう問いかけられる。
「この人に回復かけて、しよりなら出来ると思うから。」
「…分かった。」
少しの沈黙の後、諦めたかの様に下を向いてそう言った。一度立ってから椅子をベットの前までずらすと、再び椅子に座って手に本を出す。
(…私もちょっと寝るかぁ…。)
もう大丈夫だろう。そう思い、部屋を出て自室に籠もるのだった。