「畑葉さん…そろそろ次の所行かない?」
かれこれ1時間以上はクラゲゾーンで止まったままの僕と畑葉さん。
畑葉さんはクラゲの水槽を舐め回すように見て回ってて、
僕なんて中央にあるソファに座って畑葉さんを眺めてる。
楽しく無いなんてことは無いけど、
水族館って1つの場所にこんな長い時間かけて見るもんだっけ?
「行くってどこに?」
「大水槽のところ行かない?」
「マンタとかジンベイザメとか見れるよ」
そう僕が言うと
「ジンベイザメ…!!」
と目をキラキラさせる畑葉さん。
「早く行こ!!どこ?!」
グイグイと僕の腕を引っ張りながら右往左往する。
そんな畑葉さんを周りの人は穏やかな目で見ている。
こっちがなんだか恥ずかしい。
「わぁ〜…!!!」
隣にいる子供と同じく水槽に顔を付けながら大水槽の中で泳いでる魚たちを見る畑葉さん。
「あ!!カメだ!!」
亀を見つけてもっとテンションが上がる畑葉さん。
相変わらず僕の瞳は畑葉さんだけを映していた。
「お腹空いた…魚さん、美味しそう……」
しばらくしてから畑葉さんの口からそんな言葉が漏れる。
さっきまで『かっこいい』だとか『可愛い』だとかはしゃいでだくせに今じゃ『美味しそう』に変わってしまっている。
少し怖い…
そういえばこの水族館、
プラネタリウムがあるらしい。
しかも再入場もできる。
だから一旦、水族館を出てカフェに行くのもありかもしれない。
「畑葉さん、お腹すいたなら近くのカフェ行かない?」
ここじゃ珍しい予約制のカフェに。
「古佐くん…めっちゃ混んでるよ?」
「入れるの?違うお店行った方が───」
そう畑葉さんが口を開けるが、遮る。
「すいません予約してる古佐なんですけど…」
「予約のお客様ですね!どうぞこちらへ」
そう言われ、案内された席に座る。
「予約…?」
そう疑問の声を上げる畑葉さん。
「ここ、予約制のカフェなんだって」
そう説明すると
「珍しいね…」
と呟く。
「ご注文の品はお決まりですか?」
「じゃあこれとこれを──」
僕が頼んでいる際、
畑葉さんは一言も発しなかった。
なぜだろうか…
しばらくすると注文の品が運ばれてきた。
この前海琴が食べていたよりも多い量。
今日のために貯めたお金。
畑葉さんが喜んでくれるなら嬉しい。
そう。
” 畑葉さんのために “ 貯めたお金。
「これ全部古佐くん食べるの…?」
「違うよ?」
「え?」
「これ全部、畑葉さんのだよ」
そういつも僕が言わないような発言をしたせいか、畑葉さんは目を丸くする。
「…本当に全部私が食べていいの?」
「うん、いいよ?」
最初は気まずそうにちびちび食べていたが、
美味しかったのか食べる速度は段々上がって行った。
「美味しい?」
途中、そんなことを聞けば
「うん!!美味しい!!」
って返ってくる。
畑葉さんって見てて飽きない人だなぁ…
そう思いながら子犬がモリモリとご飯を食べているような畑葉さんを眺める。
食べ方綺麗だし。
しかも美味しそうに食べる…
やっぱり好きだなぁ…
「…古佐くん、」
『何?』そう言おうと口を開けると
「えいっ!!」
と言いながら畑葉さんが食べていたうちの1つ、パフェを僕の口に入れてきた。
またまた関節キス。
いい加減慣れなよ…
と心の内の自分に言われてしまう。
いや、無理に決まってる。
「美味しい?」
首を傾げながらそんなことを聞かれる。
僕がさっき言った言葉と同じだったせいか、
仕返しのように思えてきて。
「…美味しいよ」
「なら良かった〜!!」
「あ、でももうあげないからね…!!」
そう言って畑葉さんは食べている全てを腕で囲む。
子供のようだ。
「ふ〜っ…」
「お腹パンパン…」
そう言いながら畑葉さんと共に店を後にした。
まさかあの量を全部食べるなんて…
予想していなかった…
「ねぇ、本当に全部古佐くんの奢りでいいの?」
「うん」
「だって一緒にお出かけしたいって言ったの僕だし」
「でもなんかなぁ…」
居心地悪そうにそんな声を零す畑葉さん。
そんな時、僕のスマホが鳴る。
電話だ。
「ごめん、畑葉さんちょっと待ってて」
そう言って、僕は畑葉さんから離れる。
その理由はスマホ画面に海琴の名前が表示されていたからだった。
「もしもし?」
《あ、古佐くん?》
《邪魔してごめん〜!!でも1個伝えたいことあって…》
《私ってば言うの忘れてたんだよね〜!!》
「何?」
《私の予想だと途中で凛ちゃん眠くなると思ったんだよね〜!!》
《しかもイルミネーションも近くにあるし1日でいいよね!!》
勝手に話が進められ、ついていけない。
「だから何の話?」
少し苛つき気味の声を掛けると
《今から送る住所の場所、今日のお泊まり場所ね》
と言われる。
待って、お泊まり場所…?
「え、聞いてな────」
瞬間、ブチリと通話が切れる音が耳に通じる。
なんだか嫌な予感が…
てか本当にあの悪魔め…
いや、でも水族館とかのこのお出かけの情報をくれたのは海琴だ。
じゃあ天使…?
それも違うな…
なんというか堕天使というか…
「畑葉さん、待たせてごめん!!」
「誰からだったの?」
畑葉さんの元に戻って早々そんなことを聞かれる。
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