💚「晴れたねえ」
💙「俺の日頃の行いがいいからだな」
平日の昼間から、翔太と花見に出掛けている。
翔太の運転で、都心からだいぶ離れた県立公園まで。景観を守るために、公園入り口で入園料を支払う。桜はまだ3分咲き。 平日で少し肌寒いのもあって、人は少なかった。
💙「花粉症、きつそ」
翔太は腕の良いクリニックを見つけて、花粉症は大分マシらしい。今度紹介してやるよ、と言われた。いや、今日を迎える前に教えてほしかった。
でも、花粉症さえなければ春は大好きだ。 暖かだし、新生活の始まる季節。初々しい新社会人や入学生たちがうきうきと一年を始める季節。俺も、社会人一年目じゃないが、年度の初めはやはり気持ちが浮き立つ。
💙「今日は弁当あるんだろうな?」
💚「翔太、俺を舐めるなよ?」
知り合いの料理屋に注文して詰めてもらったお重。朝一番で受け取って、保冷剤と一緒に持って来た。水筒には温かい緑茶も入れてある。俺は薄緑の風呂敷包みを見せた。
💙「お。期待できそう」
車から二人分の弁当を運び、いいロケーションはないかとあれこれ見て回るのも楽しい。
整備された公園は、桜だけではなく、様々な花が咲き乱れていた。花壇に咲いている小さな花も可愛らしい。
あまり花に興味がない翔太も、晴れやかな顔をして、景色を楽しんでいた。
小高い丘になっている場所の桜の木の下に、レジャーシートを敷いて並んで座った。公園を一望できる素晴らしい場所だ。
離れたところでバドミントンで遊ぶ親子や、のんびり空を見上げているカップルがいる。
緩やかな時間が流れていた。
いつも分刻みで働いてることが多いので、ゆったりした時間だけでもご馳走だと思った。
💙「阿部、早く、早く」
花より団子のやつがいた。
翔太は風呂敷包みを開けるように催促した。俺も早く中身を見せたいので、丁寧に包みを解き、中のお重の蓋を開けた。
💙「おお〜」
翔太が声を上げる。
見るからに美味しそうな和風のお弁当だった。俵形の色とりどりのおにぎりの入ったお重と、もうひとつのお重は海老やトコブシや紅白の蒲鉾に煮物。ブリの照り焼きや唐揚げも入っている。
💙「美味そう。箸ちょうだい」
💚「無い」
箸がなかった。
そんなバカな、と思って何度も風呂敷を見たが、何も入ってない。
💙「店の入れ忘れ?」
💚「んなバカな。……あ」
俺は出がけに好奇心に耐えきれなくて、中身を先に見たことを思い出した。その時、箸一式をダイニングテーブルに置きっぱなしにしたかも。
💙「出たよ、阿部ちゃんのおっちょこ」
💚「面目ない」
💙「ウェットティッシュある?」
除菌グッズは欠かさないので、ショルダーバッグの中からポケットタイプのウェットティッシュを渡した。
💙「手掴みでいいよ。食べよ。……うまっ!」
翔太に笑顔の花が咲く。
俺も手を拭くと、ブリの照り焼きにかぶりついた。
💙「それいくとはチャレンジャーだなあ、阿部ちゃん」
💚「今なら汁物もいけるかも」
💙「言ったな?」
指の先をベタベタにしながら、俺たちは数週間越しの花見を楽しんだ。ウェットティッシュの最後の一枚が激しい取り合いになったことはここだけの話。
おわり。
コメント
7件
やっとゆっくり読めた。はよ読みたかった😭 こっちはひたすら幸せで可愛い🥺🥺🥺これぞあべなべって感じ。ごちそうさんです、🙏✨
箸を忘れて来るなんてあべべらしいかな〜\/\/Ww𐤔ʷ 🤣ّʷ𐤔wW \/\/ 自分もしてはお茶じゃなくてよかったと思ってしまった笑箸なくても手掴みで食べれるけど水分は行く先に水があるとは限らないから こっちの世界では2人でのんびりと過ごしていて自分は口角が緩んでます笑