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柘榴とAI

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#探偵
橘靖竜
5,431
#闇バイト
るしゅ
753
ゼェ、ゼェ、ゼェ……。
胸の痛みがひどく、うまく呼吸ができなかった。
全身は火であぶられたように熱く、足も思うように動いてくれない。
街灯のない田舎道。
会社を去るときに持ってきた懐中電灯だけが、前方を照らしていた。
肺を半分失ったような浅い呼吸を繰り返しながら、堀口は歩いていく。
それでも、歩みを止めなかった。
たどり着くべき目的地を見つけたように、重い足を引きずって進んだ。
堀口の背後で、建設中止となったビスタがマッチ箱ほどに小さくなっていた。
夜はますます深まっている。
心には、もはや絶望しかなかった。
「うぐぐっ……」
再び足に強い痛みを感じ、堀口は立ち止まった。
ポケットから破れた写真を取り出し、パズルのようにつなぎ合わせる。
妻と娘が、堀口を見て笑っていた。
——あなた。
——パパ。
ふたりが亡くなる1か月前。
人生最後の家族旅行で撮った写真だった。
「うう……」
涙がこぼれ、写真の上にぽたりと落ちた。
「……すまない」
堀口はそうつぶやき、無理やり口角を上げて笑った。
写真をポケットに戻すと、再び歩きはじめた。
行き先は決まっていた。
ビスタから遠く離れ、曲がりくねった田舎道をひたすら歩いていく。
時間は深夜帯に差しかかっており、町人の姿はひとりも見えない。
明かりの消えた民家の横を通り過ぎた。
古びたレンガ壁を見る限り、人はもう住んでいないのだろう。
この辺りのことなど、もう思い出せなかった。
昔、自分と親しかった誰かが住んでいたような気もする。
いや、違う。
記憶が曖昧なわけではない。
何度も地面に体を打ちつけられたせいで、頭が正常に働いていないのだ。
体のどこもかしこも痛み、懐中電灯に照らされた世界は霞がかっていた。
どうして彼らが、親身に話を聞いてくれると思ったのだろうか。
靴底が頭に浮かぶ。
床に打ちつけられた頭の音が、残響のように鳴っていた。
脳に深刻なダメージを負っているかもしれない。
後日、後遺症となって現れるかもしれない。
未来。
私の未来。
……ちょうどよかった。
堀口の心は、ふいに晴れた。
これから向かうべき場所が見えた。
それと同時に、体が軽くなった。
まるで健康な体を取り戻したように、一歩一歩、目的地へ向かっていく。
痛みで足を引きずる感覚は、もうなかった。
ひどかった頭痛も、折れた肋骨の痛みも、きれいさっぱり消えたようだった。
20歳のころに戻ったように、堀口は懐中電灯が照らす先へ歩いていく。
やがて民家のない林道へ入った。
砂と草でできた道を、勢いよくのぼっていく。
林道が終わると、木をよけ、草を踏みながら、さらに上へ向かった。
岩の隙間から湧き水が出ていた。
堀口は無意識のうちに手ですくって飲んだ。
「うぐぐっ!」
突然、全身の痛みがよみがえった。
労働者に殴られた肉体の痛み。
犯罪者と呼ばれた心の痛み。
それらが一丸となって、細胞を荒らして回るようだった。
たまらず岩の上に座り込み、深呼吸を繰り返す。
「……生に執着するから、痛みがぶり返す。大丈夫……。私はブレていない。ちゃんと決めた通りに進む」
命への執着が、痛みをもたらしたのだ。
こだわるな。
振り返るな。
どうせ行く場所は、ひとつしかない。
堀口は再び痛みを乗り越え、山道をのぼりはじめた。
木々の隙間に、小さな光が点滅している。
おそらく野生動物の目だろう。
山ネコ。
ネズミ。
鳥。
イノシシ。
どの野生動物がやってきても、怖くはなかった。
堀口は臆することなく、自分が進むべき道をのぼっていく。
さらに長い時間を歩くと、木々が少しずつ減ってきた。
ようやく峠を越えると、非常識なほど大きな満月が現れた。
断崖絶壁だった。
何万年も変わらない強風。
崖下から響く波音。
大地の振動を全身で感じながら、堀口は崖の先へ向かって歩いた。
「もうすぐそばに行くから」
堀口は、果てなく続く夜空を見つめた。
この空のどこかで、妻と娘が自分の帰りを待っているのだろうか。
「副会長。あなたが亡くなったというニュースを聞き、私は心から悲しみました。しかしあなたは、私を覚えてはいなかった。私を罪人だと判断し、私の未来をすべて奪いました」
全身から汗が滴り落ちていた。
「ですが、あなたを恨みはしません。妻と娘を失った私に、そもそも魂など残っていなかったのです。私はビスタに情熱を注いできましたが、それは痛みを隠すための演劇のようなものでした」
涙を流す代わりに、堀口は笑った。
「妻よ、そして娘よ。お父さんは一生懸命働いた。だから、そろそろ楽になってもいいだろ? ずっとふたりに会いたいと思ってたんだ。だから、ちょうどいい機会だよな?」
風に身をあずけ、海へ寄りかかった。
その瞬間だった。
——だめ!
どこからともなく声が聞こえた。
堀口は慌てて足を踏ん張り、その場に立ち止まった。
——こないでください!
——死ぬだなんて、考えないでください!
堀口は辺りを見回した。
深夜の断崖絶壁に、他人がいるはずなどない。
「……なぜ止める? もう私には何も残っていない……う、うぐぐっ!」
再び、全身に痛みがよみがえった。
とても立っていられず、その場にしゃがみ込む。
自分の足を懐中電灯で照らすと、足首がほぼ倍に腫れ上がっていた。
一箇所に現れた痛みは、徐々に全身へ広がっていく。
「まだ命に未練が残っているのか。どうしてだ……。痛みなど感じるつもりはない。この世に、もう未練なんてないんだ!」
その言葉に反発するように、痛みはさらに激しさを増していく。
堀口はうめき声を上げながら、もう一度立ち上がった。
ようやく訪れた機会だった。
簡単に逃すわけにはいかない。
再び海を見下ろし、崖の先端から身を投げようとした。
しかし全身が震えた。
恐怖が、体にブレーキをかけていた。
「頼む。動いてくれ!」
堀口はこぶしで太ももを叩きながら、飛び降りようとした。
しかし細胞が、堀口の動きを食い止めている。
——あなた。
再び、風がささやいた。
「呼ばないでくれ。お願いだ。私を……ふたりのそばに行かせてくれ」
堀口の嘆願は、風によって拒まれた。
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