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〇飲食店からの帰り道
沈んだ表情のひまり。
ひまり(割り切ってたつもりだったけど、これが最後かぁ……)
N「……そう思うと、胸が苦しくなった」
ひまりの頬を涙が伝う。
N「恋人に立候補する、という新堂さんの言葉を使わせてもらった。
……滉星にとどめを刺すために。これで滉星ももう連絡をしてこなくなるだろう。
滉星だってまだ若い。
将来性のある大手企業に勤務している男なら、仮にあの石田という女とうまくいかなくたって、
いくらでも相手は見つかるはず」
ひまり(……でも、これでよかったんだ。
私もいつまでも過去に囚われてないで、早く前に進まなきゃ)
〇ひまりが一人暮らしをしている家
朝起きて、スマホの画面を見たひまりが固まっている。
ひまり(……メール来てる……)
N「驚いたことに、あんな別れ方をした次の日にも滉星は今まで通り、メールを送ってきていた。
……もちろん、メールには返信をしない。絶対に。
そのうち、滉星からのメールを見るのもつらくなって、メールボックスをのぞくこともやめてしまった」
〇唯が一人暮らしをしている家
暗い部屋の中で、唯が滉星に何度も電話をかけている。
唯「何で……何で出てくれないの……」
N「不倫相手の妻に夫の不貞を暴露すれば、家庭は崩壊し、愛する人を手に入れられる……
そう思っていたのに、現実は違った。不倫相手が本当に愛していたのは妻のほうだった。
そのことをまったくわかっていなかった唯は、自分で自分の首を絞めることになった。
ひまりが家を出てから自分と会おうとしない滉星に、唯はLINE、メール、電話と
何度も何度も連絡を取り続けた」
仕方なく唯からの電話に出る滉星。
滉星「……もしもし」
唯「日比野さん! やっと出てくれた……。ねぇ、どうして会ってくれないんですか?
こないだの電話だって……あんなのひどすぎます。
せめてちゃんと会って話をしてください」
滉星「ダメなんだよ……今はまだダメなんだ……」
電話を切って、うなだれながら大きなため息をつく滉星。
N「一方、滉星は唯の気持ちが落ち着くのを待っていた。
もちろん、できるのであれば今すぐにでもはっきりともう終わりなのだと伝えて
一切の連絡を絶ちたかった。
しかし、ひまりへの暴挙と自分への異常なまでの執着ぶりを見ていて、
すぐに関係を断つと何をしでかすかわからないという恐怖があったのだ」
滉星(ひまりに何かあったら……それが一番怖い。
今はこうやって時間をかけて、彼女が落ち着くのを待って少しずつ関係を断っていくしかない……)
N「滉星を振り向かせるのに必死な唯。
ひまりとやり直したいと願う滉星。
滉星をもう忘れてしまいたいと思うひまり。
それぞれの日々が過ぎていく」
〇鉄道会社からの帰り道
仕事が終わって、ひまりが急ぎ足で駅へと向かう。
ひまり(駅前のケーキ屋さん、売り切れてないといいなぁ。
どうかショートケーキだけでも残ってますように……)
そのとき、遠くから声が聞こえてくる。
冬也「……比野さ~ん」
ひまり(うん? 誰かに呼ばれたような……)
冬也「日比野さ~ん、無視しないでくださいよ~」
ひまり「あれっ、新堂さん?」
ひまりのもとへと走ってきた冬也は肩で息をしている。
冬也「もうっ、何しれっと先に帰っちゃってるんですか」
ひまり「あれっ? いけませんでしたかね?」
冬也「別に迫ったりしませんから、気楽に先輩後輩として接してくださいよ。
そのついでに、一緒に駅前でクリスマスケーキでも食べません?」
ひまり「ふふっ、いいよ。実は私も駅前のケーキ屋さんに行くとこだったの」
冬也「今日はやっぱり混んでますかね~」
ひまり「でも、これくらいの時間なら並ばなくても済むんじゃないかなぁ」
N「新堂さんとはあれから少し距離が縮まったような気がする。
ただ、だからといって新堂さんとどうこうなろうとは思っていない。
もし先で新堂さんに他に気になる人ができたら心から応援するし、協力だって
惜しまないつもりだ」
〇ひまりが一人暮らしをしている家
帰宅後、お風呂の準備をしているひまり。
ひまり(ひとりで寂しいクリスマス……なんて思ってたけど、結局楽しいクリスマスになったなぁ~)
そこで突然電話が鳴った。
ひまり「もしもし?」
ひまりの母「ひまり!? あの、大変なのよ! 滉星くんが刺されたって!!」
ひまり「えっ!?」
N「私のSNSにDMを送ってからも、石田はずっと滉星に付きまとっていたらしい。
滉星はそんな石田を刺激しないよう用心しながら距離を置きつつ、相手をしていた。
しかし、そんな関係に焦れた石田はクリスマスにとうとう滉星の家までやってきたのだという。
滉星は家には上げず、近くのファミレスで話をすることにした」
〇ファミレス
唯と滉星がテーブルを挟んで向き合っている。店内には他にもたくさんの客。
滉星「……どんなに懇願されても、自分の気持ちは変わらない。
たとえ妻と別れることがあったとしても、君との交際や結婚は考えていない」
わなわなと震える唯。
唯「弄んだお前を許さない!」
唯が隠し持っていたナイフで滉星の脇腹を刺す。
N「……というのが母が義母から聞いた話だった」