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〇ひまりが一人暮らしをしている家
ひまりは愕然としていた。
母「滉星くんのほうは今ご両親が付き添ってるみたいだけど……」
ひまり(……滉星、どんな気持ちでいたんだろう……。
本気で関係を断とうとして、でも相手を刺激しないようにしなきゃいけなくて……
私にはあんなに毎日毎日メールをして、でも私はあんな態度で……)
N「頭の中も心の中もぐちゃぐちゃで、何が正解で何が不正解なのかもわからない。
ただ、ひとつだけはっきりとわかったことがある。
滉星が傷つけられて苦しんでいると聞いて、とても胸が苦しくなったということ。
そして今、死なないでほしいと切に願っているということ。
……私の中で何かが大きく変わろうとしていた」
母「一応、命に別状はないみたいでね。
今夜はお見舞いには来なくて大丈夫よってあちらのお母さんから聞いてるの。
ひまり、どうする? もしひまりが今夜行くって言うなら私も一緒に行こうと
思ってるんだけど……」
ひまり「……ありがと。私、支度してすぐ行く」
母「わかった。お父さんと一緒に迎えに行くから待ってなさい」
ひまり「ありがと。助かります」
その後、ばたばたと支度をして、ひまりは両親とともに滉星が救急搬送された病院へと向かった。
〇病院
病院に到着し、大慌てで病室の前まで来るとそこには義母が立っていた。
ひまりたちを見つけると、真っ先に頭を下げた。
義母「ひまりちゃん、本当に……馬鹿な子でごめんなさい」
ひまり「おっ、お義母さん……頭を上げてください」
義母「……私、滉星がひまりちゃんみたいな本当にいい子をお嫁さんにって
連れてきてくれたときには『ああ、私の育て方は間違ってなかったのね』って思ったのよ。
でも、親馬鹿ねぇ。勘違いだったみたい。
あなたを苦しめた挙句、不倫相手に別れ話をして刺されるなんて……ひまりちゃんも
相手の女性も苦しめて……本当にごめんなさい。私の育て方がいけなかったのよ。
滉星の姿を見ながらね、ずっと考えてたの。何がいけなかったのかしらって。
……お父さんなんて浮気も不倫もしたことがないのよ。
私のことも、滉星のことも、とにかく家族を大切にしてくれたの。
それなのに何でなのかしらねぇ……。私、ひまりちゃんが家を出てたことも知らなくて……。
あの子、本当に何にも言わないものだから……今は別々に暮らしてるの?」
ひまり「はい……。
相手の人から滉星さんの不倫を知らされて、滉星さんも謝罪はしてくれたんですけど、
私が受け入れられなくて……離婚するつもりで家を出ました。
今は仕事を見つけて、一人暮らしをしてます」
義母「その……今はまだ夫婦ということでいいのかしら?」
ひまり「はい。離婚届は滉星さんが持っていて、まだ出してないと思うので……」
義母「そうだったの……。あの子、今夜はもうこのまま起きてこないと思うの。
ひまりちゃん、こんな状況なのに来てくれて本当にありがとう」
義母は改めて、ひまりの両親のほうへと頭を下げた。
義母「うちの息子が大切な娘さんにひどいことをして、本当に申し訳ありませんでした。
こんな馬鹿息子のためにご足労おかけしてしまって……。
今夜は冷えますからお足元にお気をつけください。本当にありがとうございました」
最後まで義母は深々と頭を下げていた。ひまりと両親はそのまま帰宅。
N「……後日、私は休みを取って改めて滉星のお見舞いに行くことにした」
〇病室内
ひまりが病室に入ると、滉星がベッドに横たわっている。
ただ、起きているらしくすぐに目が合った。
ひまり(まだ傷口が痛むだろうなぁ……)
ひまり「滉星くん、傷の具合はどう?」
滉星「さすがにまだ痛いね。
それよりこないだ、ご両親と来てくれてたんだって? 寒い中、ごめんな。
……とうとうこんなことになってお袋には泣かれちゃったよ」
ひまり「……私も話を聞いたとき、心臓止まるかと思った」
滉星「……心配してもらえたんだ、俺」
ひまり「刺されたなんて聞いたら、誰だってビックリするよ。ほんとにドラマじゃないんだから。
でも無事でよかった……本当によかった」
滉星が少し思案して、口を開く。
滉星「……不謹慎だけど、自分にはもう気持ちがないのに、相手が必死に求めてくるってのがさ
……なんか最後は怖かったな」
ひまり「案外、単純なことなんじゃない?
誰だって好かれないより好かれたいし、それが自分の好きな人なら余計に好かれたい気持ちが
大きくなるじゃない。
彼女は奥さんに勝った、自分のほうが奥さんより好かれてるって思ってたのに、
突然そうじゃないって言われて気持ちの行き場を失くしちゃったんじゃないかな。
片思いのつらさとはまた違うっていうか、一時でもものすごく愛されてたのに
それがいつの間にかなくなっちゃうなんて、私でも発狂するわ。
『私の気持ちを、私の純愛を返せ』って、バットで相手を殴りつけるかも。
人の気持ちを軽々しく弄んではいけないのよ」
滉星「……うん……わかってる……」
ひまり「やなこと言っちゃってごめんね。疲れるといけないから今日はもうこれで帰るよ。
次は早く帰れる日の夜にでもまた来るから。早く元気になれるといいね」
滉星「ありがと。楽しみに待ってる」
ひまり「それじゃ、またね」
笑顔で病室を出るひまり。
N「滉星が刺されたと聞いたときから、もう一度やり直してもいいかもしれないと思うようになった。
ただ、この思いは誰にも言うつもりはない。
何が理由でこの思いがまた消えてしまうかまだわからないから」